第3章 船旅
ワリリンは、領主が船と人員を用意してくれている間に、渡された金を持って、丈夫な鎧を買いに行っていた。
「でっけー怪物と戦うんだもなあー。立派で、丈夫でなけりゃ、困るべよなあ」
そしておろしたての鎧を身につけた状態で船に乗ろうとして、足があがらないことに気づいた。
丈夫な鎧は、重かった。
「あんちゃん! そんなもん着て、溺れたいのか?!」
そう言えば、対岸が見えないくらい広い湖を、船で小島まで移動するのだ。
怪物は船を見ると、間違いなく襲ってくるという。
ワリリンは苦労して鎧を脱ぎ、ひとまとめに包んで、船に乗り込んだ。
「さて、小島に着けるかどうか……」
不安が船頭・船員たちの顔を暗くする。
天気は良好だ。風も丁度いい。湖畔の波も穏やかだ。
航海にはもってこいの一日に見える。
船旅は快調に思えた。小島の影が順調に近づいてくる。
櫂を持たぬワリリンは半ば微睡んでいた。
だが、突如として船が揺れた。船全体がぐうっと持ち上がる。
「なな何だぁ!? どぉしたん??!」
慌てて海を覗き込むと、そこにあるべき水が無かった。
代わりに、緑がかった奇妙な陸地がある。
「もう小島に着いたんかぁ?」
間抜けな発言の直後、今度は船が墜落し、ワリリンは舌を噛みそうになった。
ざっぱあああん!! 凄まじい飛沫が上がり、大量の水が船内めがけて飛びこんでくる。
「汲み出せ-!!」
船員たちは一斉に船内の水を汲み出しにかかった。
ワリリンも必死に手伝う。
だがふと何かに気付いて顔を上げた。
そこには、巨大な――山のようなものが、今にも海より現れようとしていた。
「まずいいい、伏せってぇぇぇ!!」
ワリリンが警告すると同時に、その巨大な物体は天を叩くかのように撥ねあがり、そして勢い良く振り下ろされた。凄絶な音と風が襲いかかる。
皆、船に必死にしがみついた。
どごおん!!
激しい衝撃で一向は我に返った。そのまま海に投げ出されたらしい。体中がずぶ濡れで、近くに荷物が浮いている――。
ワリリンははっと気付いた。首をめぐらすと、そこには目指していた小島が広がっていた。
波に揉まれながらも立ちあがる。幸いにも湖水は彼の腰ほどまでしかなかった。
「おーい! 皆ー! ティムー!」
叫んで、遠くで手を振っている人影に気付いた。船員達は流石に泳ぎが得意なようで、難破と同時に急ぎ小島に上陸していたのである。
更に見回すと、ぷかぷか浮いている板の上に、震えながらしがみついているリス。
ワリリンの顔に安堵が広がった。
ティムは大きく、くしゃみをして、ぶるぶるとまた毛を震わせた。
「船が傷んじまったな」
「まあ、この小島には森もあるようだし、応急処置なら出来ると思うが……」
そこで皆、口をつぐむ。
あの怪物の一撃に、応急処置をした船で耐えうるのか、誰も自信はなかった。
そう、小島には森があった。木材も潤沢に取れそうな、深い森だ。
そこから突き出た影にワリリンは気づいた。
「あん?」
よくよく見直すが、それは見間違いではなかった。
塔の天辺が、木々から突き出して見えていたのである。