表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫君奪還  作者: 増村有紀
4/7

第3章 船旅

 ワリリンは、領主が船と人員を用意してくれている間に、渡された金を持って、丈夫な鎧を買いに行っていた。

「でっけー怪物と戦うんだもなあー。立派で、丈夫でなけりゃ、困るべよなあ」


 そしておろしたての鎧を身につけた状態で船に乗ろうとして、足があがらないことに気づいた。

 丈夫な鎧は、重かった。


「あんちゃん! そんなもん着て、溺れたいのか?!」


 そう言えば、対岸が見えないくらい広い湖を、船で小島まで移動するのだ。

 怪物は船を見ると、間違いなく襲ってくるという。


 ワリリンは苦労して鎧を脱ぎ、ひとまとめに包んで、船に乗り込んだ。


「さて、小島に着けるかどうか……」

 不安が船頭・船員たちの顔を暗くする。


 天気は良好だ。風も丁度いい。湖畔の波も穏やかだ。

 航海にはもってこいの一日に見える。


 船旅は快調に思えた。小島の影が順調に近づいてくる。

 櫂を持たぬワリリンは半ば微睡んでいた。


 だが、突如として船が揺れた。船全体がぐうっと持ち上がる。

「なな何だぁ!? どぉしたん??!」


 慌てて海を覗き込むと、そこにあるべき水が無かった。

 代わりに、緑がかった奇妙な陸地がある。


「もう小島に着いたんかぁ?」


 間抜けな発言の直後、今度は船が墜落し、ワリリンは舌を噛みそうになった。

 ざっぱあああん!! 凄まじい飛沫が上がり、大量の水が船内めがけて飛びこんでくる。


「汲み出せ-!!」

 船員たちは一斉に船内の水を汲み出しにかかった。

 ワリリンも必死に手伝う。


 だがふと何かに気付いて顔を上げた。

 そこには、巨大な――山のようなものが、今にも海より現れようとしていた。


「まずいいい、伏せってぇぇぇ!!」

 ワリリンが警告すると同時に、その巨大な物体は天を叩くかのように撥ねあがり、そして勢い良く振り下ろされた。凄絶な音と風が襲いかかる。

 皆、船に必死にしがみついた。


 どごおん!!


 激しい衝撃で一向は我に返った。そのまま海に投げ出されたらしい。体中がずぶ濡れで、近くに荷物が浮いている――。

 ワリリンははっと気付いた。首をめぐらすと、そこには目指していた小島が広がっていた。

 波に揉まれながらも立ちあがる。幸いにも湖水は彼の腰ほどまでしかなかった。


「おーい! 皆ー! ティムー!」

 叫んで、遠くで手を振っている人影に気付いた。船員達は流石に泳ぎが得意なようで、難破と同時に急ぎ小島に上陸していたのである。


 更に見回すと、ぷかぷか浮いている板の上に、震えながらしがみついているリス。

 ワリリンの顔に安堵が広がった。

 ティムは大きく、くしゃみをして、ぶるぶるとまた毛を震わせた。


「船が傷んじまったな」

「まあ、この小島には森もあるようだし、応急処置なら出来ると思うが……」

 そこで皆、口をつぐむ。

 あの怪物の一撃に、応急処置をした船で耐えうるのか、誰も自信はなかった。


 そう、小島には森があった。木材も潤沢に取れそうな、深い森だ。

 そこから突き出た影にワリリンは気づいた。


「あん?」


 よくよく見直すが、それは見間違いではなかった。

 塔の天辺が、木々から突き出して見えていたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ