第2章 領主の依頼
「たのもーなんだあよ!!」
ガンガンガン。ワリリンは、ひどく老朽化した領主の館のノッカーを叩いていた。
出てきたのは、骨ばって幽霊じみた執事だった。
事情をかいつまんで話すと、ワリリンは領主の元に案内された。
「ルーザ姫を助けてくれるというのか!」
領主は腰を浮かせた。頬は落ち、目はくぼみ、やつれた印象だった。
「だが……あの子が攫われてもう数年……生きているのかどうか……」
口をはさもうとしたワリリンを制し、領主はもごもごとくぐもった話しぶりで続けた。
「いや! その気概、有難く思う。が、これ以上若人の命を散らすわけにはいかないのだ!」
「そ、そ、そんなこと言ったってよう!」
ワリリンは、夢中で叫んでいた。
「おいらあ、漁師になるためにここに来たんだあ。峠を幾つも越えてきたんだあ! 魚が捕れねんじゃ、おいら、漁師になれねえだ! ここで諦めちまったら、おいらの夢は、ぱあになるだ!」
漁師と領主は、耳にするとよく似ている。しかも、ワリリンの田舎訛りは強かった。
領主も、くぐもった、あまり滑舌のよろしくない喋り方をするタイプだった。
湖水地方領主はうっすらと目に涙を浮かべ、ワリリンの熱意に感謝した。
「ではもう一度だけ、もう一度だけ、船を用意しよう。人員は我が屋敷の使用人から選ぼう。そして姫を救出された暁には、そなたの望みを叶えてしんぜよう」
がしっ! ワリリンは領主の手を握った。これで確実に漁師になれる、と、ワリリンは舞い上がった。
「おいら、漁師になれんだな! わかったど、領主のおっさん! 任せとってくりゃれえよ!」
(大丈夫かな。何だか思惑が食い違っているように思えるけど……)
リスのティムが不安そうに小首を傾げた。