第1章 3節
グロシーンたっぷりです。てへぺろ。
「よし、できたぞ。」
そう言って鍛冶屋は鎧を着せてきた。
鎧と言っても簡易的なもので、胸、肩、腕、足の部位に断片的に鉄の当て物を着けただけであった。
「それと…。」
ついでにとでも言うかのごとく、布も渡してくる。
「これは?」
「それはこの村でしか作られない厄除け(やくよけ)の外套だ。ある程度は防御力があるから身につけていくといいぞ。」
真っ赤に染め上げられた外套は底々生地が厚く、妖怪の攻撃から身を守るには十分だった。
「似合ってるのニャ!」
「えへへ、そうかな」
くすぐったいような気持ちになり自分の頭を軽く撫でていると外の方から僕の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「涼夜殿ー!」
僕とチロと鍛冶屋が店から出るとそこでは村長の連れの1人が叫んでいた。
「涼夜殿、村長がお呼びです!早くこちらへ!」
「わかりました。」
「気をつけて行けよ。」
鍛冶屋がそう吐き捨てると僕とチロは駆け足で村長の家へと向かった。
「涼夜殿!待っておらしたぞ!」
「村長、どうしたのですか?」
「村の者から帝国軍の目撃情報があったのじゃ!」
「ほんとうかニャ?!どこで見たのニャ!」
チロが強い口調で発する。
「この村を出て南へ8キロほど進むとそこに柳の森があるのじゃ。そこで帝国軍らしき姿を見たらしいのじゃ!」
「わかりました。よし、行こうチロ。」
「ニャー」
チロが頷くように返事をする。
すると、
「お待ちください、涼夜殿。」
すぐにでも出発しようとしていたがその声に足を止められた。
「どうか私共をお連れください。」
「拐われたものの中には私共の妻も居るのです。ここで黙って待っているなんて到底できません!どうかお願いします!」
その声は村長の連れの2人だった。
彼らは頭と手を地につけ懇願してくる。
「え、えっと…。」
チロと二言三言やり取りしながら考える。
「涼夜、連れて行くのニャ。人数は多ければ多いほど良いのニャ。」
「そうだね。それじゃあ、よろしくお願いします。」
2人に向けて軽く頭を下げた。
「はい!」
2人が口を揃えて返事をし、準備をするため各々の家へ散らばっていった。
彼らは家郎と源郎といい、家郎は荷運びを営み、源郎は村にある工場で機織り(はたおり)をしてそれぞれ生計を立てている。
村長が言うには2人とも村一番の働き者らしい。
2人が帰ってくるまで村長の家で彼らの事やこの村の事、神社の事などを聞いていた。
そうして20分もしないうちに2人は準備を整え、村長の家に戻ってくる。
「よし、行こうか。」
「よろしく頼んだぞ。それと、源郎。これを娘に渡してやってくれ。」
村長は家の奥からなにやら杖のようなものを取り出し源郎に渡す。
「それは娘がいつも使っている錫杖じゃ。娘も少しは魔法が使えるでのう。微力ながら力になってくれると思うんじゃ。よろしく頼んだぞ。」
「わかりました村長。必ず!」
そんなやり取りをした後、僕は村長に軽く挨拶をした。
そしていよいよ雲谷の村を出発したのであった。
ー道中
僕が前衛を取り、家郎と源郎は横や後ろから妖怪が襲って来ないかを確認しながら進んで行く。
「ハァァァァッ!」
(ギェェェェェ…)
そんなこんなで未舗装の道をすでに6キロ程は歩いただろうか。
「森へはあと少しで着くニャ。疲れたなら休んでいくのニャ。」
チロからそう言われて道脇の大きな切り株の上に腰をかける。
ふうっと一息ついていると家郎が口を開く。
「涼夜殿はお強いですなあ。」
感服した態度で僕をほめそやす。
それに対して照れ笑いを浮かべながら自分はまだ青二才だと謙遜する。
そんなやりとりをそば目に源郎がそわそわしながら頭を抱えていた。
「源郎さん、大丈夫ですか?」
「え、ええ。」
悲しそうな目つきをしながら源郎が続ける。
「妻は妊娠してるんです。もう7ヶ月経っていて。それがどうも心配で…。」
憐憫を催したのか一同は少しの間黙りこくった。
「きっと大丈夫ですよ。」
源郎を安心させようと投げかけた言葉がそれだった。
「ありがとう。」
軽い笑みを浮かべながら源郎は感謝の意を述べる。
「さ、そろそろ行こうか。」
家郎が言ったのに対して僕と源郎とチロも立ち上がり足を進める。
しばらくすると遠くに森が見えてきた。
「あそこが柳の森ニャ!」
走って森の入り口まで駆け寄る。
すると、森の奥の方から人影が見えてきた。
その人影は軍帽を被り黒の外套を身につけ、その中に軍服を纏っている。そして、左腰に刀のようなものをぶら下げていた。
源郎曰く、それが帝国の制服らしい。
「こっちに隠れよう!」
源郎がそう発し、僕たちは音を立てないように木や草の陰に身を潜めた。
「そういえば、逃げていった女共2人はどうなったんだ?」
帝国軍の1人が言う。
「さあな、道に迷って餓死でもしてるんじゃないのか?この森は広いからな。」
冗談めいた口調でもう1人が言う。
それに対してもう1人も戯けた声で返す。
「ほかの2人みたいに大人しくしてればよかったのに。自業自得だな。」
2人がその場を過ぎるとほっと息を吐き家郎と源郎の方を向いた。
すると、源郎がぎょっとしたような表情で言葉を発した。
「拐ってきた女共2人って…。」
驚愕の表情を浮かべたかと思うと、次の瞬間、源郎は目にも留まらぬ速さで走り出した。
「源郎さん!」
「源郎!」
「待つのニャ!」
源郎を止めようと声をかけたが彼はまったく聞く耳を持たなかった。
「急いで追いかけるのニャ!この森は広いから迷子になったら大変ニャ!」
僕たちは咄嗟に源郎を追いかけたがあまりの速さに追いつけず見失ってしまったのであった。
ー 森の中を彷徨い、時間にして30分が過ぎただろうか。
「源郎…。」
家郎が悄然として俯く。
「源郎さん、どこに行っちゃったのでしょうか…。」
源郎の失踪に憂悶しているとどこからかすすり泣くような声が聞こえてきた。
「源郎さん?!」
「あっちの方から聞こえてきたニャ!」
チロが右の方へ顔を突き出しながら言う。
「涼夜殿、行きましょう!」
声が聞こえた方へ行く。
そこには源郎の姿があった。
「源郎!」
そういって家郎が源郎の元へ駆け寄ろうとしたが、途中で動きが止まった。
何事かと思い僕も駆け寄る。が、目の前の光景を目の当たりにした瞬間、腰が抜けて立ちあがれなくなってしまった。
源郎の手には何かが抱えられていた。
腹に大きな穴を開けそこから黒い血をドロドロと流し、周囲に腐臭を漂わせていたソレを源郎は必死にさすっていた。
「紗枝...紗枝...。」
嗚咽を交えながらソレの名前を呼んでいた。
その声は悲しみを通り越し、憎しみをも感じさせるようだった。
「源郎の奥さんだ…。」
家郎がぼそっと呟く。
さらにその奥には頭が半分無い女の子の死体が転がっていた。
「隣ん家の娘まで…。」
吐き気を催すほどの腐臭に耐えられず僕はその場で胃の中のものを全て吐き出した。
「涼夜殿!」
家郎が背中をさすってくる。
「おかしいニャ…。人間がこんなことできるはず無いのニャ…。」
チロがそう言うと僕と家郎は顔に混乱の色を浮かべながらチロを見る。
「妖怪がやったって言うのか?」
「そうかもしれないニャ。にゃーは辺りを見回りに行ってくるニャ。おみゃーらはすこしここで休むといいニャ。」
そう言ってチロはそそくさとその場を離れた。
チロが行くと僕は持ってきた水で顔と口を洗い流し、それを手で拭った。
はあはあと息をしながら胸の鼓動の高鳴りを落ち着かせ近くの木の根元へ体を休ませた。
源郎の方を向くと、家郎が彼の背中をさすりながら慰めていた。
しばらくして源郎が泣き止み、落ち着きを取り戻す。そして、彼の奥さんと女の子の死体を僕が座っていた木の根元へ寝かせた。
運ぶ時に抉れた傷跡をまじまじと見てしまったせいで再三吐き気を催したが、さっきので慣れてしまい今度は我慢することができた。
「帰りにまたここへ寄って持ち帰りましょう。」
「…。」
そう指揮をしたが源郎は納得のいかないような顔をして黙っていた。
その後、チロが戻ってくるのを待っていたが誰も一言も喋らず妙に気まずいものを感じた。
そこへ沈黙を破るかのごとくチロが駆け足で戻ってきた。
「このさらに奥の方に洞窟を見つけたニャ。もしかしたら帝国はそこにいるかもしれないニャ。」
家郎と顔を見合わせ合図をするかのように頷く。
「よし、行こう。」
血の黒に染まった死体置き場を離れチロが言っていた洞窟へと向かう。
その洞窟にはあっという間についてしまった。
「ここがその洞窟ニャ。」
穴の先は冷ややかな闇に包まれ、灯りを点さなければ一寸先でさえ見えないほど暗かった。
家郎が背負っていた風呂敷から小さな行燈を出し火を点す。
「こんなこともあるかと思って持ってきたんです。」
家郎が誇らしげに言う。
そして一同は行燈を持った家郎の後に続き洞窟の中を進んだ。
水気があるのか天井からは水滴がポタポタと垂れ落ちそれが溜まって地面に小さな水たまりができていた。
そんな道をひたひたと進んでいると目の前に小さな光が見えてくる。
「なんだあれは?」
「光ってるぞ。」
家郎と源郎が順に口にする。
すると突然、
その光の方からヒィーっという男の叫び声が聞こえてきた。
「あの光の方からニャ!急ぐニャ!」
急ぎ足で光の方へと向かう。
数秒で明るみに着き中を覗く。
その先には、
まるで地獄のような光景が広がっていた。
火柱が真っ赤に燃え盛り、周囲には帝国軍のと思わしき人間の死体がごろごろと転がっていた。
その奥の壁の方に大きな蜘蛛のような影が見える。
その影はまだ生きている帝国軍と思わしき人間に近づき、6本ある足のようなものの1本を高く天井まで持ち上げた。
「た、たすけてくれえ…。いやだ…。いやだいやだいやだいやだいやだい…」
影は持ち上げた足をそいつに目掛けて振り下ろす。
鋭い爪のようなものが突き刺さった人間は血飛沫をあげながら胴に大穴を開けそのまま静止した。
「あ、あれは…。」
「あれは牛鬼だニャ!どうしてこんなところにいるのニャ…。」
蜘蛛のような胴体に牛の頭を持ったそいつは見た目通りの名前をしていた。
体は毒々しい黒に染まり目は赤く、足の先には尖りを見せていた。
肝をつぶしながら見つめていると今度は女の子悲鳴が聞こえてくる。
「キャー」
どうやらその女達は村長の娘と家郎の奥さんらしかった。
「梢!それと村長の娘さんも!」
牛鬼は6本の足を大きく上げながらゆっくりと女達の元へ近づいて行く。
「早く助けに行くのニャ!」
チロの言葉でふと我に返り女達を助けに牛鬼の方へと全速で駆けて行った。
そのまま走りながら刀を抜き両手で握る。
「ハァァァァッ!」
大きく振りかぶって牛鬼の右の前足を斬りつけた。
(ギィィィィィィィ!)
牛鬼は甲高い声を上げこちらを振り向く。
その隙に源郎が家郎の妻と村長の娘を抱えて穴の入り口付近で降ろす。
「陽葵ちゃんだね。お父さんからこれを預かってたんだ。」
源郎は村長から預かっていた錫杖を陽葵に渡した。
「あ、ありがとうございます。」
源郎達がそんなやり取りをしてる中、牛鬼の攻撃対象は僕に変わっていた。
(ギィィィィィィィァァァァッ!)
牛鬼は左前足を振り上げそのまま僕を目掛けて振り下ろしてくる。
それを間一髪で避けたが、はずみで後方へと尻餅をついた。
「いってぇ…。」
牛鬼はその瞬間を逃さず、すぐさま足を振り下ろしてくる。
「危ないニャ!」
すると、
突然牛鬼の右後ろの足が燃え上がった。
家郎がさっきの行燈を投げつけ見事命中させたのであった。
「涼夜殿、今のうちに!」
そう言われて体制を立て直し今度は左前足を斬りつける。
(ギィィィィィィィ)
両前足を斬られた牛鬼は前方へと体制を崩し顔先から転倒していった。
(ギィィィィィィィェェェェ…)
「源郎、お主も参戦するのだ!」
「おう!」
家郎が源郎に呼びかけると2人が参戦してくる。
そのまま牛鬼の右後ろ足を斬りつけ、今度は真ん中の足を斬ろうとする。
負けじと牛鬼も残った足で応戦してくるが、刀を抜くのが速かったのか
(ギィィィィィィィ…)
そう叫びながら牛鬼の右足は全て斬り落とされていった。
「よし、このまま押し切るぞ!」
家郎がそう発すると、牛鬼は甲高い叫び声をあげながらゆっくり上を向く。
「な、なんだ?」
その瞬間、
牛鬼は口から霧状のものを吹き出してきた。
「あれは…。神経毒ニャ!口を押さえるのニャ!」
「え?」
チロに言われてすかさず口に手を当てがったが家郎と源郎は既に毒に侵されてしまったらしくバタンとその場に倒れこんだ。
「う、うぅ…。」
「体が…。」
牛鬼は残った足を動かしながらのろのろと家郎と源郎の方を向き直した。
ニヤリと笑ったかと思うと一瞬にして家郎に食らいつきその体をボリボリと喰らい尽くす。
「あ、あなた!」
チロの横で家郎の奥さんが腰を抜かしながら叫ぶ。
「い、家郎…!」
神経毒で体が麻痺していた源郎は家郎が捕食されるのを地面に寝転びながらただ見ていることしかできなかった。
家郎の体が完全に見えなくなり次は源郎を見下ろす。
「源郎さん!」
動けない源郎を助けようとその元へ駆け寄ったが、牛鬼は今度は僕に目掛けて直接、毒霧を吐いてきた。
神経毒が目や鼻から入ってくる。
「うぅ…。」
毒は腕、手、脚の筋肉を順番に蝕みさらには呼吸器官を支えている筋肉にまで麻痺を発症させた。
「苦しい…。」
倒れこむように地面に寝そべり胸の方へと手を当てようとするがうまく動かせずその手は半分浮いた状態で痙攣を起こしているだけであった。
牛鬼はそんな僕らをまじまじと見つめ次のターゲットに決めたのか、その口を大きく開けた。
脳が体に動け!と命令するが筋肉が完全に麻痺しているので動けるはずもなかった。
牛鬼は家郎の時とは違いゆっくりとその顔を僕と源郎の前まで近づけてくる。
一寸ほどの距離まで近づいてきた時、死を覚悟した。
お母さんやお父さんのこと、元の世界でのこと、死後の世界のこと。
色々な考えが頭をよぎった。
しかし、それは杞憂に終わったのであった。
「……乖離すべし……焼炎の………いま剣となれ!」
突然のことでよく聞き取れなかったが確かそんなことを言っていたはずだ。
詠唱が終わると後方から大きな剣の形をした火柱が僕らの頭上を通り越し、そのまま牛鬼の脳天を貫いていったのであった。
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