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後編

遅くなって、本当にすみませんでした!!!

今は夜の10時前、私たちは誰もいないビルの屋上に来ていた…


「ここが、今日の撮影場所!朝のうちに見つけて、夜は夜景を撮りに来る。それが俺のスタイル」

堺さんの顔はいつもの陽気な顔ではなくパソコンに向かっていた時の真剣そのものだった

「堺さんって真剣な顔、するんですね…ちょっと意外かも…」

「ん~?俺だって真剣になる時はあるよ~。それに、仕事の時ぐらい真剣にならないと社会人としてダメじゃない?」

それもそうだ。でも、私にはそこまで真剣になれるものが有るんだろうか?

「大丈夫。絶対に有るよ。俺が保証する」

堺さんはそう断言すると、目の前にある景色を撮り始めた

私は邪魔にならないように少し離れた所にあるベンチに腰掛けてその姿をじっと見ていた

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

いったいどれだけの時間が過ぎただろうか…

堺さんはようやく納得のいく写真が撮れたらしく私に声を掛けた

「明梨ちゃ~ん、終わったよ~」

「あ、はい!今行きま~す」

返事をすると私は駆け足で堺さんの方へ向かった

「あの~どんな写真撮ったのか見さしてもらえませんか?」

「いいよ、え~と、あぁあった。こんな写真とか」

「え…?これって…」

カメラの画面には私が写っていた。と言ってもメインは私ではなく勿論夜景だったが、問題はそこではない

「自然な笑顔を撮らしてもらいました~」

自然な笑顔を撮られるという事は、私はもうこの人とはいられない。そういうことなのだ

「今夜くらいはまだ泊まっててもいいけど、明日の昼までには帰ること。いいね?」

堺さんはそう言うと一人で歩いて行った。しかし、今の私は追い駆ける気にはなれないのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

結局、昨夜私は堺さんの家まで帰って来たのだった

「昨日はどこに行ってたんだよ~。心配したんだよ」

「すみません…」

そして私は堺さんに怒られていた。でも、私からしたら、そんな事どうだっていい

「あの、堺さん。堺さんって今独り身ですよね…」

こんなタイミングでいう事ではないだろう。でも、今しかないんだ

「あぁ、そうだけど…それがどうかした?」

「あの…私、堺さんの真剣な表情に憧れてて…えっと、つまり私は、堺さんのことが好き…になったんです。だから…」

私は言葉を続けようと堺さんを見た

が、堺さんは

「まいったな…」

と、苦々しい顔で呟き、

「ごめん、その願いは聞けない。諦めてくれ…」

と告げた


私はもう、何も言えなくなってしまったが、不思議と涙は出てこなかった

その代わりに別の『怒り』が沸き上がって来た

「あぁ、そうかよ!!じゃぁ、はっきり言えよ!『邪魔なんだよ』って!!」

そう言うと私は扉を勢いよく開き、部屋から飛び出した

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あぁ何やってんだろ、私…もう絶対許してもらえないよな…」

私は後悔の波にのまれていた

結局私は、自宅へ戻り、謝ることに決めた

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「この間はごめんなさい…」

私は祖父母に頭を下げ謝ることにした

「あんた!一体どこに行ってたの!?何日家に居なかったと思ってるの!?」

「…」

「…どこに泊まってたんだ?」

祖父の突然の質問に言葉を詰まらせた

「『誰のうちに泊まってたんだ』と聞いているんだ」

「さ、かいさんっていう人の家です」

私は考えるよりも早く口が動いていた

「堺?堺ってもしかして…?」

二人が顔を見合わせて驚いていた

「…明梨、お前は自分の父親についてどこまで知っている?」

「どこまでって、私を見捨ててどこかに行ったっていう事しか知らないけど…」

今更どうしてそんな事を聞いて来るんだろう

「分かった…お前に本当のことを話す」

「本当の事?」

じゃあ、今までの事は噓だったの…?

「お前の父親は、昔結婚をする前に、お前の母親との間に子供をつくってしまった。それが、お前だ。降ろすことも俺と祖母さんは考えたが、娘は頑としてそれを受け入れなかった。あいつらは本当に愛し合っていたんだ…。しかし、元々体の弱かった娘はお前を産むとその場でお前の顔を見る事も無く逝ってしまった。」

「あんた、辞めなよ…」

祖母が止めに入ったが祖父は続けた

「俺たちは、お前の父親からお前を引き離そうとしたんだが、あいつは、お前の父親はお前と離れたがらなかった。『あいつと俺の子供だ』ってな…。だが、俺たちはお前を抱かせる事すらも許さなかった。あんな、チャラチャラした奴にお前を汚されたくなかったんだ…」

私は震える声で祖父に尋ねた

「お父さんの名前って…もしかして…」

「堺…和人だ。確か今は写真家として働いているはずだ…」

私はその場で泣き崩れた。





あれから、何か月経っただろうか…

私は…いや、私達はあれからもう、会うことはなかった…

そんなある日、私があの腹が立つ店員がいるコンビニで雑誌を立ち読みしている時の事だ

隣にいた女子高生と思われる地味そうな娘とイケメンな男子が二人で一冊の雑誌を読んでいた

「あれ、何かこの人の写真いつもと雰囲気が違う…」

「…あ、ここに、『今回で最後』って書いてありますよ」

「ホントだ。堺さんの写真好きだったんだけどなぁ…。ショックー」

堺さん…?もしかして…!?

私はそのカップルが立ち去ると、二人が見ていた雑誌を手に取った。

ドキドキしながらページをめくる。『堺』の文字を探す。

…これか…

その写真の中には夜景と一人の女の子が写っていた。







題名:他人~愛すべき人~



~ある電車内で~

「…俺は娘にすら本当の愛を教えられないのか…」

静かに涙を流している男がいた……

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