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Summer sniper

作者: 青木森羅
掲載日:2016/06/16

「また、この季節がやってきたか……」


 俺はゆっくりと歩を進める。ゆっくり、ゆっくりと一歩一歩を踏みしめる。

 日が落ちてきたとはいえまだまだ蒸し暑い熱が、俺を蝕む。汗を手で拭う俺を親子連れやカップル、子供達が追い抜いていく。

 そんな彼等を、俺は冷ややかな目で見た。


「誰もこれから起こる事を知らないんだな……」


 眼前に石積の壁と階段が見えてきた。人々の群れはその階段を我先にと登る。

 しかし、俺は急がない。

 慌てた所で、俺のやる事は変わらない。いつものように、いつもの事をするだけだ。

 階段をゆっくりと登る。その歩みは十三階段を登るが如くゆっくりと、けれどしっかりと踏みしめる。

 十六段の石段を登り終えると、目の前には人だかりがあった。綿あめを手にはしゃぐ少年、歩きながら焼きそばを食べる高校生、チョコバナナを買っている親子連れ。

 賑やかな彼等の横を感情を抑えつつ抜け、重い足取りはある場所の前で止まる。

 そのテーブルの上にあるモノを手に取る。


「今日もいい仕上がりだな……」


 俺の低く静かな声は、周囲の喧騒で誰にも届かないだろう。

 手に取ったその銃は狙撃に向くシングルアクションのライフル。木の持ち手に、銀の筒。俺はその色の組み合わせが一番好きだった。


「また……来たのかい……」


 店の親父は、低い声で俺に尋ねる。声は穏やかだったが、その眼は俺に対する憎しみと期待が入り混じった妖しい光を放っていた。


「ああ。一年ぶりだな……」


 俺は腰のポケットから黒い財布を出し、その中から一番金額の大きいコインを放り投げるようにして親父に渡す。

 受け取った親父は何も言わず、ただ俺に背を向ける。

 数秒の後、ガサゴソと作業をしていた親父がこちらに近づく。


「ほら」


 目の前に、銃の弾が五発置かれた。

 銃を込める前にあらためて銃を見た。おかしな加工はされて無い、ただ整備だけはきっちりとなされている。それは、銃の隙間に埃が無いので分かる。


「さて……」


 俺は銃の側面に付いた撃鉄をゆっくりと、引く。その動きは、弓を引き絞るかのようにゆっくりと、しかし力強くこれからの事を想像しながら。


 ガチッ!


 この音と撃鉄の感触が、俺を俺の戦場へと誘い昂らせる。

 撃鉄が自然と前に戻る。


「どうだい、イケそうかい?」


 親父が少し下劣た、しかし品を失わない笑みを浮かべながら尋ねてくる。

 

「ああ」


 今度は弾に触る。

 青い籠に無造作に入れられたその弾は独特の感触をしていた。硬く、けど力を入れすぎると簡単に崩れてしまいそうな感触。

 弾を指でなぞる。

 その木と木の隙間に、指が当たる感触が俺をゾクゾクさせた。

 俺はその弾を銃の先端に捻じ込み、そのまま銃を逆さまにして、


 ゴン!

 

 テーブルに、銃の先端の弾を叩きつけ手で触れてみる。先端がかすかに触れる程度の段差しか無く、いい塩梅だ。


「いつものは着けないのかい?」


「いや」


 俺は右手に持っていたツバ付き帽子を被る。先達が言うには、このツバが狙撃には必要なのだそうだ。

 銃を右手に持ちながら、左手で帽子を直す。


「よし」


 右手に持った銃を肩の高さに持ったまま、固定。そして手を伸ばす、ただしこの時に伸ばし過ぎない。左手は木の部分に添える様にして銃を支える。

 まだ、トリガーには手を触れない。


 精神集中。

 昂った精神は、命中率を極端に下げる。それは俺の信条ではない。

 鼻から息を吸い込む。

 肺いっぱいに酸素が送り込まれる。

 そして口から出す。ふぅという音と共に、二酸化炭素が吐き出される。


 目を見開き、獲物を見据える。

 目標はピンクの髪をした女の子で、頭が大きく体が細い。

 

 ならば!

 

 トリガーに指をかける。金属の冷たさが指先に伝わる。

 狙うは頭だ!


 ポン!

 

 銃の中で圧縮された空気が弾を押し出し、その勢いは風を押しながら弾を進める。

 空気抵抗は弾を少しずつ、地面に弾を落とす。

 ただそれも予想済みだ。最初から少しだけ銃口を上げていた。

 少しずつ下がりながらも、真っ直ぐ弾は進む。

 その弾は!


 コツン!

 

 狙い通りにヘッドショットが決まり、その瞬間だけ世界はスローモーションになる。

 弾の当たった衝撃とそれで生まれた重力でゆっくりと、後ろに倒れていく目標。

 そして目標は、ゆっくりと、崩れ、落ちた。


「またやってしまった……」


 毎年の事だがこの瞬間が一番虚しい、罪もない物を撃つだなんて。けれどもそれを楽しんでいる自分が心の隅にいる事も知っている。


「お疲れ」


 親父が少女の形のしたモノを俺の前に置く。


「次もヤるんだろ?」


 その顔には、下劣た笑みの他に恐怖と怒りが滲んでいた。


「ああ……それが俺の使命だ ……!」


 次の弾を掴む。力強く、しかし壊れモノを扱うが如く優しく。

 銃の先端に、押し入れる。


 ガチッ!


 弾を込めるために、持ち上げた右手の銃をいったん下げ、次の目標を見定める。

 さっきのは簡単だったから、もう少し難易度の高い目標にしよう。

 俺は狙撃ポイントから目標達を一瞥。


「よし……あれだ……」


 次は煙草の箱……を模したチョコレートの箱に狙いを定め、下げていた右手の銃を目標の高さまで持ち上げる。


 瞬間、一陣の風が吹いた。

 その風で、箱が揺れる。

 まるでこれから自分に起こる悲劇を予期して、恐怖に震えるかの様だった。


「すまないな……」

 

 ゆっくりとトリガーに指を掛け……引く!

 その弾は箱の左上に進む、先程の風で少し傾いた左上に!

 グングンと弾は進みそして、当たる。

 ゆらゆらと前後左右に揺れる目標、その様は刀で切られたかの様にゆっくりと、クルクルと回る。


 カタン。


 小さく音を立てながら、箱は……倒れた。

 

「ほら、報酬だ」


 親父が、倒れた箱を持ち上げ俺の目の前に置く。

 その時、後方からの声が俺の耳に届く。


「お母さん、射的やってみたい!」


 母親にそう告げながらとたとたと足音を立てながら少年がやってくる、そして俺の隣に置いてある銃に手を伸ばす。

 その瞬間、俺と目が合った。

 顔が歪み恐怖の表情になった彼は、無言のまま母親の元に戻っていく。


「どうしたの? 射的やるんじゃないの?」


 そう尋ねる母親に少年は、


「後でいい」


 とそれだけを言っていた。


「まったくそんな怖い顔して、子供を怯えさせちゃ駄目じゃないですか。そんなんだから後継者が出来ないんですよ」


「早撃(クイックショット)ちか、一年ぶりだな……」


 その軽薄そうな喋り方をする男は、クイックショットの異名を持つ男。

 この男との出会いは五年前、ちょうどこの場所だった。


※


「よっす、お兄さんが噂の狙撃手(スナイパー)さん?」


 男の服装はギラギラと金色に輝く命の一文字が付いた上着にダボっとしたズボンを履いていて、その軽薄そうな見た目通りの、軽薄そうな喋り方で俺に話しかけてきた。彼は金に近い茶髪を書き上げながら、


「さっきから見てたけどさ、あんた遅いよね。まるで亀の様だ、そんなんじゃうさぎに追い越されるぜ」


 そう言われた時俺は、一体コイツがなんの事を言っているのか理解出来なかった。


「お前は……何者だ?」


 血の気の多かった俺は、その軽薄そうな男を睨む。そんなのどこ吹く風と、俺より背の高いそいつは俺をニヤニヤと笑いながら見下ろす。

 そんな俺らの話を聞いていた親父が、


「もしかしてお前さん、最近この辺を荒らしてるっていうあんちゃんかい?」


 俺は世俗には疎いのからか、そんな噂話は聞いた事も無かった。

 第一、いつの間に俺はそんな珍妙な名前で呼ばれていたんだ。


「ああ、スナイパーの兄ちゃんは知らないんだな。最近この辺りの祭りの射的を狙って高額の商品ばかりを掻っ攫っていってる若造がいるって射的界隈で噂になってたんだよ。異常に撃つのが早いって聞いてるぞ」


 親父が奴を警戒しながら、俺に教える。


「俺ってそんなに有名なんすか? 照れるっしょ」


 そんな事は気にせず男は、俺の隣の空いたスペースに立った。


「おっちゃん、俺の噂を聞いているならアレもあるよね?」


 そう言ってニヤニヤと笑いながら、右手を差し出す軽薄男。


「あぁ、こんなの使うだなんて珍しいな、お前さん」


 そう言いながら、奥の箱をガサゴソと漁る親父。


「えーと、ほらこれだろ」


 ゴトッ、と親父が机の上に何かを置いた。


「おう、サンキュ」


 その右手には、俺が昔から使い込んでいる銃とはタイプの違う銃を手に取った。

 男は左手に持っていた硬貨を親父に渡す。


「さてと、本日も狩りますか!」


 男は左手に五発全てのコルク弾を持つ。

 本気なのか? あのままだと、左手は使えないぞ。それに、あの銃の形状では通常のライフル型以上に左手を開けておく必要があるはずだ。


「狙撃手(スナイパー)パイセン、俺のテク見て驚かないで下さいよ!」


 一発目の弾を装填する。


 ガチャコン!


 先台をスライドさせる。

 そう、その銃はポンプアクションタイプだった。ただ、ヤツの持ち方だと当然左手でのスライドは出来ない。

 いや、出来ないはずだった。


 ポン!


 初めの狙いは無難な小さい人形。良いコースだ、確実にあの弾は目標を撃ち抜くだろう。

 ただ、狙いが甘いな。俺ならもう少し上を狙っている。


 コテンと小さな音を立てて、人形が倒れる。

 それを取りに行こうとする親父。


「おっちゃん、動くな!」


 突然の大声に、ビクッとして親父の動きは止まる。

 人形に目がいっていた俺は、左の視界の端で何かが動く影を見た。


 ガチャコン!


 その音を聞いて、俺の興味は男に移る。

 なんだと、どうやって装填したんだ!

 しかし俺が見た時には、もう装填は終わっていた。


 ポン!

 

 俺は弾の軌道よりも装填法に注目していた。


 カコン。


 台の上で景品が倒れる音が響くのと同時に、男は動いていた。

 左手に握られいていたコルク弾三発が宙を舞う。それはさながら桜の花が舞い落ちるが如く優雅だった。

 落下中の弾の内の一弾が少し離れる。

 それを目がけて右手に持った銃を叩きつける。ちょうどコルク弾を銃口に押し込む形になる。

 ゴンと机を叩く音と同時に、左手にコルク弾が収まる。

 机を叩いた反動を利用し銃を左手に乗せる、当然左手にはコルク弾が握られたままだ。

 

 その状態で、どうやってスライドさせる!?

 そんな俺の疑問を奴は、驚く方法でやってのけた。


 右手の銃を左手に乗せる、コルク弾で挟む様に!

 そして、そのままスライド!

 

 ガチャコン!

 

 ポン!

 

 目標に進んでいく弾丸は、しかし目標を沈めるには至らない!

 

 ガチャコン!

 

 しかし、装填はもう終わっていた!


 ポン!

 

 先ほど当てた側とは反対を狙う。まだ揺れが止まっていないその潜水艦型玩具は、逆から揺さぶりをかけられる。

 ゆらゆらと台座の上で揺れる潜水艦。

 そしてゆっくりと……轟沈。

 

 奴の最期に残った一発は、大物を狙ったが揺らす事も無く終わった。


 ふぅと、息を吐き出す男。


「どうっすか、俺って凄いっしょ?」


 確かにあの早撃ちは俺には出来ない。そこは称賛に値する。

 値するが、だ。


「いくら早くても、狙いはガバガバだな」


「えっ、喧嘩売ってるんすか?」


 そんな俺と男のやりとりを見ていた親父が、


「おいおい、こんな所で喧嘩はよしてくれよ。狙撃手(スナイパー)と、あんたは……そうだな早撃(クイックショット)ちって呼んでもいいかい?」


 クイックショットと名付けられた男はニヤッと笑って、


「いいっすね、その名前。こんどからそう呼んで下さいよ」


 そんなダサい名前がいいのか? それにそのセンスは俺につけられたあだ名とそっくりだ。俺の狙撃手(スナイパー)ってのも、この親父勝手につけて勝手に吹聴しているのだろう。


「ところでスナパイセンは、今年はどのくらい高景(こうけい)取りました?」


 高景(こうけい)とは、ゲーム機やカードゲームの人気商品等の高価景品の略称だ。

 ただ、当然その手の高景(こうけい)は店側も取らせない様にあの手この手を使ってくる。例えば、磁石や重しなんかを仕込んでおき簡単には動かないようにする。

 それと、ルールで取り辛くする事もある。景品を倒すだけではなく台から落ちなければ獲得にならないや、腕を机から出してはいけないという所もある。

 はっきり言ってしまうと、取れないのが当然と言ってもいいかも知れない。

 

 けど、それを落とす。それこそが醍醐味なのだ。


「高景(こうけい)か、今年は七だったかな」


 クイックショットはクククと笑いながら、


「先輩とは何か因縁を感じるなぁ」


「どういう意味だ?」


「俺も同数って事ですよ、先輩」


「なんだと?」


 確かに先ほどの腕ならばそこそこの数は取れているだろう。

 それでも一か二、多く見積もっても三だろう。

 

「ああ、疑ってますね? おっちゃん、言ったげてよ」


 親父は口元を押さえながら、


「ああ、その兄ちゃんが言っているのは本当だよ。しかも高難易度の天々寺(てんてんじ)までやられたって聞いたよ」


 天々寺(てんてんじ)と言えば、この界隈の中で一番難易度が高いうえに毎年難易度を上げていく事で有名だ。五年前に俺が高景(こうけい)を取るまでは、十年以上誰も取った事が無かったという程の鬼設定だ。

 

「道理で俺が行った時には、屋台を畳んでいた訳だ」


 天々寺(てんてんじ)の夏祭りは四日間と少し長めに開催される。俺は二日目に行くのが恒例になっていたのだが、その時には店じまいの準備をしていた。


「今年は辛かったよ、景品が軒並み取られちゃってさ」


 と堤の親父が泣きながら話してくれた。高景(こうけい)だけではなく、小さい景品も全部やられたそうだ。

 いくら設定が最悪だとは言っても、流石にやり過ぎだ。この手の屋台をやっている人はその収入をボーナスの様に楽しみにしている人もいる。そこで利益が出せないとなれば一年間の夕食は質素な物になるだろう。


「しかもその男な、帰り際にこう言ったんだぜ。あこぎな商売している方が悪い、ってよ。たかが一キロの重りを入れただけで」


 一瞬だが同情した自分に呆れた。

 そんな事を思い出していると親父が、


「そういえば、クイックショット。あんたに堤さんから伝言があったんだわ」


 クイックショットはなんです? と聞き返した。


「来年は負けねぇ、だそうだ」


 まったく諦めの悪い親父だ。来年の重りは二キロになりそうだな。

 

「負けないねぇ、それは楽しみだ」


 心から楽しみにしている笑みを見せるクイックショット。

 

「それで先輩。俺の勝負、受けてくれるのかい?」


 俺を挑発する様に笑いかける。


「ほらどうすんだい、スナイパー?」


 そして、何故か親父まで同じ笑みを俺に向ける。


「分かった、受けて立とう」


 少し面倒だったが、楽しみでもあった。今までも数回喧嘩を売られた事があったが、天々寺(てんてんじ)の射的を撤収させるほどの腕前の奴とはやった事が無かった。

 そんな強敵を前に、俺の心は踊る。


「それで、ルールはどうするんだ?」


 そう言った俺に親父が、


「俺が決めてやるよ、それと」


 と言いながら奥の箱をゴソゴソと漁る。


「景品はコイツだ!」


 親父は四角い箱を出してきた。


「それは!」


 クイックショットが驚愕する。


「そうこれは、最新ゲーム機のGS-Gだ! 入荷するの大変だったが、なんとか入れれた限定一個の賞品だ!」


 GS-Gは今話題のゲーム機で、大人も楽しめる計算IQ漢字ゲームや一刈り行こうぜで大人気のリアルタイム稲作ゲームなどが売れに売れて、その影響で本体のGS-Gも小売店では品切れが続いている。

 

「おっちゃん、凄いな。でもいいのか、祭りは明日もあるんだろ?」


「お前達のいい試合が見れるなら、多少もったいないが出してやるよ」


 親父の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「じゃあ、ルール説明だ」


 親父はGS-Gのコピーの書かれた紙を専用の台座に乗せる。その台座は四角く安定性は高そうだった。台座を景品の置かれた三段の板の一番上、そのど真ん中に置く。


「この台座を板の上から完全に落せた方が勝ちって事で。弾数はウチの最低数の五発で、参加料は五百円だ」


「金取るんすかぁ?」


「そりゃそうだろ、こっちだって商売なんだからよ」


 俺とクイックショットは五百円玉を親父にて手渡す。親父はコルク弾を俺達に渡し五百円玉を回収した。


「この五発で、先に景品を落とした方の勝ちだ」


「交互に撃つんすか?」


「いや、お互いに好きに撃った方がお前達はやりやすいだろ」


 確かにそうだ、こちらは交互でもいいが、ヤツとしては交互だと利点が無いだろう。


「ああ、それでいい」

 

 そう言いクイックショットの方を見る。


「こっちもいいっすよ」


「おし、それなら俺の号令で開始だ」


 俺は弾を一発持つ。

 それに倣う様にクイックショットも弾に手を伸ばす、当然全部の弾を。


「それじゃ、いくぞ! レッツ……」


 親父がいつの間にか出していたプロレスで使う鐘を……叩く!


「ファイッ!」


 カーンという高い音と共に、俺は一発目の弾を装填する。


 ガチャコン!


 それはクイックショットが装填を終えた音だった。


「遅いですよ、先輩!」

 

 台座の左下に弾が当たり、少しだけ下がる。


(この感じだと、落ちるまでちょうど十発くらいか)


 親父のこういう設定の仕方は絶妙だ。簡単な物は初心者でも五発でギリギリ取れるか取れないかという設定をしている。

 ただし高景(こうけい)はそうではない、初心者だと三十発、熟練者で十発でいけるかどうかという設定が基本で、そのギリギリの調整を長年しているからか、親父は獲得までの弾数調整を一発単位で出来るそうだ。


 ガチッ!

 クイックショットから遅れる事約二秒、ようやく装填が終わる。


 ポン!


 台座の右を撃つ、今度は少しだけ右側が下がる。

 そこに左を押すようにクイックショットの二発目が当たる。


 ガチッ!

 

 俺の二発目が右に当たる。

 それと同時に、クイックショットの三発目が左を押す。

 

 ガチッ! 


 そこでクイックショットは一瞬手を休めた。

 

(コイツ……!)


 たぶん俺と同じ事を考えているのだろう、流石にこの店で挑戦しようというだけはある。


 俺の三発目が右に当たり、台座の半分程が棚からはみ出した。

 しかし、クイックショットは動かない。


 ガチッ!


 四発目を装填し、左を押す。


 ガチャコン!


 クイックショットも再度動き出す。

 台の右を押した。


 ガチャコン!

 

 奴の方が装填が早い。

 ただ、そこまでは俺の計算道理だ。


「これで、決まりだ!」


 クイックショットが吠える! 奴の狙いは、台に刺さっているパネルだ。


「まだだ!」


 いつもより伸ばした腕にある俺のライフルが、火を噴く!

 俺も同じ所を狙うと奴は踏んでいたのだろう。しかし、俺の狙いは違う。

 いつもより伸ばした腕は、少しだけ高く下を向いている。放たれた弾丸は、重力によって下降そして、加速する。

 加速した弾は、クイックショットの弾に追いつく。俺の狙いは、奴の銃から飛び出したコルク弾だった。

 

「なんだって!?」


 弾の軌道を見ていた親父とクイックショットが驚きの声を上げる。

 しかし本当に驚くのはこれからだ。


 俺の弾とクイックショットの弾が接触する。上から当たる様に放たれた俺の弾は、クイックショットの弾の軌道を変える。

 奴の弾は台の中央を叩く様にぶつかる。

 そして俺の弾は、パネル中央に直撃する。

 

 カンッという高い音を上げるパネル。

 奴の最期の弾でさらに押されていた目標に、俺の弾が当たる。


 コトン。

 そのほぼ差が無い同時射撃によって目標は倒れた。


「おおお!」


 いつの間にか出来ていた人だかりから歓声が上がる。

 

「そんな……バカな……」


 クイックショットが膝から崩れ落ちる。


「確かにお前の腕は良かった……だがな」

 

 俺は親父からGS-Gを受け取りながら、言う。


「お前の弾は、まだまだ狂気を知らない……」


 そう言いながら背を向ける。


「どういう意味だ……」


 消え入りそうな声で尋ねてくる。


「この業界で生き続けるなら、いずれ知る事になるさ」


 そう言って俺と奴の最初の戦いは終わった。

 

※

 

 あれから五年。

 俺達は毎年この祭り、その最終日のこの時間に激闘を繰り広げ勝ち負けを繰り返した。

 今日までの戦績は、二勝二敗のイーブンだった。


「それで、今日はどうするんだ……?」


 俺の問いにクイックショットが予想外の返事をする。


「ああ、決闘の前に紹介したい奴が居るんですよ。そろそろ来ると思うんですけど」


「すみません、通して下さい」


 人垣をかき分けて目の前に高校生ぐらいの金髪の女の子が現れる。その少女は目鼻立ちがハッキリしていて美人だった。

 ただその綺麗さよりも好戦的に吊り上がった目と、時代錯誤の服が目を引いた。

 頭にはつばの大きなストローハット。上着はウエスタンシャツ、そしてジーンズにジャリジャリと音を鳴らすカウボーイブーツ。腰には当然の様にホルスター。

 完全なカウガールの出で立ちをしていた。


「この子は、俺の弟子のひとり。二丁拳銃(ダブルガン)だ!」


 よろしくと手首だけで手を振るその子を見ていたら、


「由莉愛(ゆりあ)!? なんでこんな所に、というかなんだその恰好!?」


 と射的の親父が叫ぶ。


「あっパパ! 彼氏紹介しに来たよ」


 唐突な言葉に親父が固まるのを、はたから見ていても分かった。

 俺は俺で、一体何が起きてるのか分からず固まっている。


「私達、付き合ってまーす!」


 ギュッとクイックショットの腕に抱き付く、ダブルガンこと由莉愛(ゆりあ)。


「なんだと!?」


 親父の顔が青ざめる。


「すみません、いつかおっちゃん……いえ、お父様にはご報告しないといけないと思い、今日にしたのですが」


「お父様だぁ!?」


 いつものチャラさが無くなるクイックショットと怒りと困惑で混乱している親父に彼氏の腕にしがみついているその娘、そして傍観者の俺。

 なんなんだ、これは?


「おい、親父にクイックショット。とりあえず、落ち着いてくれ」


 居たたまれない雰囲気に俺が、そう切り出すと、


「落ち着けと言われて、落ち着けるかよ! だって娘が……」


 俺は頭を抱えつつ、


「今は射的の親父だろ、自分の仕事を優先するんだ。それにクイックショット、お前もだ」


「おう、そうだったな……。すまねぇな、兄ちゃん」


「すいません先輩、ここは俺達の戦場でしたね」


 そう言いつつ、ダブルガンの腕を引き剥がす。


「ところでその二丁拳銃(ダブルガン)とか言う女の子は、なんで二つ名を持っている? それに弟子って言うのはどういう事だ?」


 その言葉にクイックショットはニヤリと笑い、


「言った通りですよ、先輩。俺の弟子の一人で見込みがあるのでダブルガンの二つ名を与えました。その腕前を見たら、お父さ……おっちゃんも納得してくれるはずですよ」


 そう言いながら、ダブルガンを見るクイックショット。その視線を感じたダブルガンは、「そうねここに来たらあの演技をしないと」と何か呟いた後に、


「Hey Boys! ワタシがQuick Shotの一番弟子のDouble Gunよ! イゴオミシリオキを」

  

 と怪しさ満点の自己紹介をしてきた。

 まぁいい、ここでは多少の奇怪さは気にしないのが習わしだ。


「ワタシの腕を見ても驚かないデヨ!」


 ダブルガンが親父からコルク弾を受け取る。その時、親父が家に帰ったら母さんに話を聞くからとかなんとか言っていたが俺は睨んで親父をたしなめる。

 ようやくダブルガンが射撃位置についた。

 

「Sniper! 私の技を見てドギモヌカレナサーイ!」


 何故かコルク弾を横一列に並べだす、ダブルガン。

 そして、ホルスターのボタンを外し、銃を引き抜く。

 左右両の手に! その銃は、オートマチックタイプのハンドガンだった。


「その銃は?」


 俺の問いかけに、ダブルガンの代わりにクイックショットが答える。


「その銃は、知り合いに作って貰ったんですよ。まぁ、オートマチックをイメージしてはいますが、装填自体は手動なんですけどね」


 実際に装填の手元を見ると、銃の先端を押しつけ撃鉄を引いていた。

 

「自動じゃないですけど、ダブルガンの強みはハンドガンだって事にあるんですよ」


 銃を構えるダブルガン。


「それじゃ行きますよ、Let’s Fire!」


 右の銃が火を噴く。その弾丸は、お菓子の箱を狙う。

 ただ狙うポイントが悪く、あそこでは落ちないだろうと予測する。


 コン!


 やはり揺らすだけで取れはしない、だが!


 コン!


 次は左の銃の弾が同じ場所にぶつかり、箱が倒れる。


 コン!

 

 いつの間にか装填が終わっていた右の銃が、今度は指人形を狙う。


(いつ装填しているんだ?)

 気になった俺は、彼女の手元に注目した。


 コン!

 

 左の銃から発射された弾が人形を倒す音が聞こえる前に、右の銃は台に置いたコルク弾を押しつぶし、そのまま勢いを止めず撃鉄を引き、そして撃つ。


 コン!


 その一発は小さなぬいぐるみに当たって終わった、狙いの甘さのせいだろう。

 ぬいぐるみ欲しかったなと独り言を言うダブルガンを横目に俺は、


「狙いはまだまだだが、なかなか筋がいいな」


 そう漏らすとクイックショットが、


「でしょ? ウチの大学の射的サークルに偶然来てさ、腕がいいからスカウトしたんすよ。それと弟子は彼女ひとりじゃないんすよ」


 そう言った瞬間、俺達の間を縫って一筋の線が走る。その線はダブルガンが最期に狙ったぬいぐるみに当たる。ぬいぐるみの近くには新たなコルク弾が落ちている。

 

「どこからだ!?」


 俺と親父の言葉にクイックショットが人垣の向こうを指差す、それは向かいのたこ焼き屋。その店主の隣にスコープの付いたスナイパーライフルの様な銃を持っている男が居た。


「彼の名は、長距離(ロングレンジ)。先輩と同じく狙撃が得意で大学のゲーム研究会と兼任してもらっている」


 彼は次弾を装填する。筒が長いため一度銃を引っ込めてから入れている。

 そして構える。

 目の前には人垣、それも動いている人だ。

 その隙間を撃つつもりらしい、人垣の切れ間を探しているのか、構えたままその時を待っている様だ。

 

 ポン!

 

 離れた所から放たれた弾は、弧を描く様に少し上から落ちる様に接近する。そして弾道は見事に人形に当たる。

 当たるが。


「倒れないな」


 あまりに距離が遠いからか弾に勢いが無くなっている。

 

「やっぱり駄目っすか」


 苦笑いをしながら、そういうクイックショット。


「駄目って、こうなる事を知ってたのか?」


 そういった俺の問いに、


「ま、そうですね。あの銃は普通のライフルタイプに延長用の筒とスコープと付けただけですから」


 確かにそれなら長距離射撃は出来るが、弾の威力は俺の銃と大差ないだろう。威力の低いまま長距離射撃をしたら当然、弾に勢いは無く届かない。まったく意味のない、というより悪くしてる駄目な例だろう。


「サークル発表の時はきちんとしたの作ったんですが、人の多い所で使うには危ないんでね。流石に持ってこれなかったんですよ」


 俺達が話していると再度ポコッと弱々しい音が聞こえた。

 屋台の彼が次の弾を装填しようと引っ込めた時に、たこ焼き屋の前に誰かが立っていた。


「あっ」


 クイックショットが声を漏らす。

 立った人は青い制服を着た人物、警察だった。急な警察の登場にその周辺だけ静まりかえる、そのお陰で二人の会話が少し離れたここまで聞こえてきた。


「あー、お兄さん。その長いのはなんですか?」


 そう問われたスナイパーは、


「えっと、これは僕専用のコルク銃でして」

 

 それを聞いた警察は右手で頭を掻きながら、


「いや、そうじゃなくてね。そんな物をこんな人通りの多い所で撃ってたら危ないでしょ」


「すみません」


「とりあえず、苦情来たからね。ちょっと事務所まで来てね」


「あっ、いやでも」


「いいから、早く来なさい」


 スナイパーはそのまま警察に連れていかれる。クイックショットに助けを求めるその目は、まるで捨て犬の様に潤んでいた。その寂しそうな姿は、人垣の中に消えて行った……。


「あちゃー、連れてかれちゃったな。先輩に連絡しておくか」


 クイックショットが携帯を取り出し、電話をかける。

 電話を終えるとクイックショットはこちらに向き直り、


「先輩すみません、こんな事になっちゃって」


 頭を下げるクイックショットに、


「いや、俺はいいんだが彼は大丈夫か?」

 

 クイックショットは頭を掻きながら、


「たぶん、大丈夫です。よくある事なんで」


 よくある事なのか? というかそれは本当に大丈夫なのか?

 そんな疑問が頭をよぎったが、その考えを断ち切る様に、クイックショットが話だした。


「そんな事は置いといて、余興はここまでです」


 警察に連れていかれるのをそんな事で済ましていいのか?


「おっちゃん、例の奴を!」


 親父がクイックショットを睨む。


「親父、今は仕事の時間だろ」


 俺の言葉に親父がハッとして、


「すまねぇスナイパーの兄ちゃん、一瞬我を忘れちまったぜ。今年の景品は凄いぜ、見て驚けよ。あと、クイックショット、お前は後で殴る」


 最期に不穏な言葉を聞いた気がするが、気にしない事にする。


「コイツが! 今回の! 目標! 4GS-Ga-taだ!」


「なんだって!?」


 俺とクイックショットは同時に驚く。

 それもそのはず、この4GS-Ga-taはGS-Gの後継機で画質はもちろん良くなっているがそれだけではなく、携帯ゲーム機初の3D表示機能に加え今話題のVRゲームも出来る超高性能機だ。

 そのソフトも多種多様で、内蔵カメラで視線を認識して操作する音楽ゲームや、子供に大人気の世の中の不条理をモンスターにして世の中の不幸を集めるRPG等が人気を博している。

 あまりの大人気に店舗の在庫は常に品切れで、実はまだ発売していないんじゃないかという噂まで出ていた。


「凄いだろ、さすがに今回は苦戦したぜ。ただ五周年記念ならこの位はしないとな」

 

 親父はまるで子供の様な笑みを浮かべ、語る。


「いつもの問屋で聞いたんだがひとつも無くて、仕方ないから隣の県まで車は知らせたら偶然一個だけ残ってたんだよ。それを向こうの言い値で買ってきたって訳だよ」


「さすがはおやっさん、あんた最高だぜ!」


 そんな軽口を叩くクイックショット。


「あぁ?」

 

 またもやクイックショットを睨みつける親父。

 そのやりとり飽きたからそろそろ本題に入って欲しいんだが。

 そんな俺の表情を見て察したのか親父が、


「おし、じゃあルール発表だ。とは言ってもいつも通りだが、五発撃ち終えるまでの間に落とした奴の勝ちだ、異存はないな?」


 俺は静かに頷き、財布から硬貨を取り出す。


「もちろんっすよ」


 クイックショットも財布を取り出す、親父に睨まれながら。


「親父」


「おぉ、すまねぇ」


 親父がクイックショットにショットガンとコルク弾を渡し、俺の前にもコルク弾を置いた。

 親父は4GS-Ga-taのパッケージが印刷されている板の刺さった台座を、いつものように三段ある棚の一番上その中央に置いていた。

 いつもとは違い、何度も何度も微調整をしながら。


「なぁ、先輩」


 いつもの軽口ではなく、どことなく寂しげな声でクイックショットが話しかけてくる。


「実はおっちゃんには言ってあるんだけどさ」


「どうした?」


「さっき紹介した後輩いるじゃないですか」


 銃を弄りながら、クイックショットは話を続ける。


「ああ」


「今年はお披露目でしたけど、来年はあいつらも入れてトーナメントでもやろうかって話してるんですよ。あっ、当然先輩はシードですよ」


「どうして?」


「そりゃ、先輩は俺達全員が越えなきゃいけない壁ですから」


 俺としてはそんな認識無いんだが。


「だから、来年からは俺と先輩が戦えるか分からないんですよ。それに来年は俺も就活やらなにやらと色々ありますしね」


 俺は黙って聞く。


「だから先輩とこうやって戦う機会って今回が最期かもしれないんですよ」


 親父の作業の手が止まる。


「だから今日で決着、つけませんか?」


 クイックショットが銃を置き、右手を差し出す。

 こいつはいつもそうだった。何かと勝手に決めそれを押しつけてくる。

 けど、それはそれで悪い気はしなかった。

 その差し出された右手を、俺は強く握り返した。


「ありがとうございます……!」


 まったくこいつは。

 

「じゃあ、やるぞ……」


「はい!」


 俺はクイックショットの手を離し、銃を再び持つ。

 右手には銃を持ちながら、コルク弾を横一列に並べる。

 さすがの俺も猛っているらしく、手のひらに汗が出ている。

 深呼吸する、冷静になるんだ。

 出来る限り冷静に、そして狙いをシャープに。

 頭の中でイメージする。

 親父の置いた台座に、交互に弾を撃ち合う。それは、出会った時の戦いと同じ様な流れになる。

 けどあの時よりも、俺もあいつも腕を上げている。

 勝負は互角。

 俺の最後の弾が台座に向かう、ただ真っ直ぐに一線の光になって。

 そして、


「おし、準備出来たぞ」


 イメージトレーニングをしていた俺の耳に、親父の声が届く。

 まだ途中だったが、仕方ない。

 イメトレの結果は、実際に見るしかないな。

 いや、俺の手で掴む!


「それじゃあ、行くぞ!」


 親父が叫ぶ。


「ファイト!」


 ガチッ!


 撃鉄を引く。

 無意識に力が入る。

 

(駄目だ、落ち着け……)


 並べていたコルク弾の一発を銃の先端目がけて叩きつけ勢いそのままに持ち上げ、トリガーを引く。


 ポン!!

 

 ほぼ同時に二発のコルク弾が、台座の左右に当たる。


「さすがですね、先輩」


 その声を聴きながら、撃鉄を引く。


「話している余裕があるのか」


「先輩より早く装填出来る事、忘れないで下さいよ」


 いつものようにクイックショットの持っていたコルク弾が宙を舞う、はずだ。


「いつまでも遅いままだと思われてるなんて、心外だ」


 奴の射撃よりコンマ一秒遅れて、俺の弾が放たれる。


「スナイパー、お前は何をしているんだ!」


 親父が叫ぶ。


「おやっさん、うるさいですよ。気が散るんですけど」

 

 ガチャコン!

 

 クイックショットの三発目の装填が終わる。


 ガチッ!


 俺も装填が終わった。


「え?」


 クイックショットも装填の速さに気付いた様だ。


「なんでもうリロード終わってるんすか!?」


 そのクイックショットの声には焦りが見えた。

 そしてその理由を親父が、俺の代わりに言った、震える声で。


「こ、こいつ! 目標を見ないで撃ってやがる!」


「なんだって!?」


 そう俺の目線は常に机の上のコルク弾にだけ注がれている。


 ポン!!

 

 クイックショットの撃った後、すぐに俺の弾が目標に当たる。

 当たっているはずだというのが、正しいが。


「どうやって、当てているんだ!?」


 親父の声が聞こえる。

 そう俺はあの時、クイックショットに初めて会った時から特訓をしていた。

 あの戦いで俺は勝った。しかしその勝利は半分偶然の様な物だった。

 それから、毎日考えた。考えて考えて考え抜いた。


 その結果、分かった事がある。


 奴の装填速度は、俺の速度の倍だ。それではどうやっても最後の一発で奴の方が、先に装填が終わり俺がどうしても後追いにある。初めの内はあくまで押すだけなので、後追いでも問題は無い。


 ただ、最後の一発は違う。

 どちらか片方の弾だけでも落ちるかも知れない。実際、過去負けた二回は先に撃たれて負けている。

 

 より正確に、かつ相手より先に当てる、これが鍵になるはずだ。

 その為には装填を早くする事に力を入れた、ただそれは至難の業だった。

 クイックショットと同じ様に、空中に飛ばしたがライフル型であるが故にどうしても撃鉄を引けない。試しにポンプアクションを使ってもみたが、明らかに命中精度が落ちた。

 

 そんなある日、テレビを見ていると立方体パズルの熟練者を紹介していた。

 その中でその熟練者は驚きの行動をしていた。それは、目隠しをして立方体パズルを解くというものだった。彼が言うには、一瞬見ただけで今の状態を記憶し頭の中で思い浮かべたパズルをその記憶と照らし合わせて解いているんだそうだ。


 その技を見た時に俺の中で何かが生まれた。

 それからは常に頭の中でイメージトレーニングをする様にした。そして撃つ。

 初めのうちは、想像で撃った位置と実際の撃った位置の差が酷かった。ここだろうと思って撃つと横をすり抜けて行く。


 そんな事が三年続いた。


 けれどその差は埋まっていった。徐々にではあるが頭の中で思った通りの位置に当たる様になってきたのが去年。

 そして今年ようやく使えるレベルにはなった。

 けれど使えるだけで完成はしていなかった。

 だが今使わなければいけない。そうしなければ俺は負ける!


 あと二発。

 ここまではいい感じだ。

 

 ガチャコン!

 

 ガチッ!


 少しだが差が開き始めていた、しかしまだ許容範囲内だ。


 ポン!

 

 クイックショットの弾が、台座の左を押したはずだ。

 なら俺は!


 ポン!


 台座の右を押す。

 

 ガチッ!

 

 レバーを引くと同時に、

 

 ゴン!

 

 銃を机に突き立て、弾を装填する!

 そして、視線を上げる。


「思った位置だ」


 イメージトレーニングの恩恵は、装填速度の上昇だけでは無かった。

 実はもうひとつあった。

 

「させるかよ!」


 クイックショットが吠える。


「見えた!」


 クイックショットの銃が目標を定める為に下がる。


 その時、俺の脳はフル回転する。


(あの位置ならば狙いは板の真ん中より少し下、ならばさらに下を狙うか。いや駄目だ、それでは台座に当たってしまう。それでは倒せない上に、後から当たった奴の弾の補助をしてしまう。それならば!)


 俺の銃は、五年前と同じ様に少し上の位置をとる。

 しかしその軌道は五年前とは違い、奴の弾の上ギリギリを通る様に放つ!


 ポン!


 少し遅れ、


 ポン!


 俺の弾が、奴の弾を追いかける。

 

 そして、接触する。


「なに!?」


 親父とクイックショットの声が重なる。

 俺の弾はクイックショットの弾の上に乗ってに進んでいる、俺の弾と接触しているせいで奴の弾は勢いがなくなる。

 逆に俺の弾は奴の回転を利用し勢いを増す。

 クイックショットの弾は勢いを無くし、下降していく。

 そして、落下した。


「嘘、だろ!?」

 

 クイックショットが膝から崩れ落ちる。

 

 勝った!

 俺の弾は真っ直ぐ目標に進む。

 けれど熱くなり過ぎていた俺は、俺の弾に追いつく様に下から斜め上に向かって何かが迫って来ていたのに気づいていなかった。

 進んできていたものはコルク弾だった、その弾は俺の弾に当たる。

 斜めに進んでいた弾と接触した事により俺の弾は弾き飛ばされ、逆に当たってきた弾は俺の弾の反動を利用して一直線に進み、当たった。


 ゴトン!


 いつの間にか店の外に出来ていた観客が、ワーと声を上げる。

 発射された弾の射撃地点を見る、そこには、俺の腰位の背丈しかない少年が立っていた。


「やった!やったよ、お母さん!」


 その少年の顔には見覚えがあった。

 

「ああ、さっきの子供じゃないか」


 俺の顔を見て逃げて行った少年だった、俺達が熱中している間に参加していたのだろう。


「おぅ、坊主! お前、凄いな」


 親父が感動した様に話す。


「ほら、景品だ。坊主(キッド)」


 そしてちゃっかり、二つ名まで貰っている。


「ありがとう、おじさん!」


 元気よく返事をする少年。


「おう、また来いよ!」


 嬉しそうに返事をする親父。

 俺とクイックショットが目を合わせる。


「ふ」


 奇妙な音が口から洩れる。


「ははは、あはははははは!」


 もう笑うしかなかった。


※


「残念だったな、二人とも」


 親父が、笑い疲れてグッタリしている俺達に声をかける。


「まったく、ビックリしましたよ」

 

 クイックショットが自嘲気味に喋る、奴も熱くなっていて気付いていなかったみたいだ。


「まぁ、仕方ないさ。勝負は時の運だからな」


「そうですよね」


 俺は二人の会話を、黙って聞いていた。


「それにしても、あの少年凄かったですね」


「ああ、この仕事二十年近くやってるがあんなラッキーショット今まで見た事無いな」


「将来、楽しみですね」

  

「ああ、二つ名も付けっちゃたしな」


「先輩、生きてます?」


 クイックショットが聞いてくる、まるで一昔前の映画のエンディングかのように。


「ああ、なんとかな」


 俺の心はショックを受けてもいたが、何となく清々しい気分だった。

 高景(こうけい)は取れなかったし、クイックショットとの決着もついていない。

 けれど、新しい才能の芽を見た気がする。

 それは、俺を、いや俺達を追いかけ追い越していく可能性。

 そんな未来を。

 クイックショットが後輩を育てている意味を少しだが分かった気がした。

 

「ほら、二人とも。お疲れ」


 親父がイチゴ味の飴を一粒ずつ手渡す、これはいわゆるはずれ賞の飴で、景品がひとつも取れなかった時にしか貰えない。


「親父、俺は今日も景品貰ってるぞ」


「いいんだよ、なんとなく欲しいんじゃないかと思ったからさ」


 この飴を貰うのいつぶりだろうか。

 小さい時はこの飴は嫌いだった、屈辱の味しかしなかったからだ。


 包装を開け、飴を舐める。


 けど今は親父の次への後押しが詰まっているのが分かる、もう一度頑張れという思いが。


「決着、つかなかったすね」


 クイックショットが寂しそうに言った。


「いや、まだ機会は有るさ」


「けど、来年からは」


 続きを遮る様に、


「再来年があるだろ、それもダメならその次でもいい」


 クイックショットの目が点になるが、それも一瞬の事だった。


「そうですね」


 俺は手に入れた景品を手に持ち、


「そろそろ、行くわ」


 親父が、


「ああ、また来年な」


 俺は俺の、いや俺達の戦場を後にする。

 その後ろをクイックショットが追ってくる。

 

「待って下さいよ、先輩。なんか食べに行きましょうよ」


 更に後からダブルガンが駆け寄ってくる。


「せんぱーい、待って下さい!」


「あ、由莉愛(ゆりあ)。飯食いに行こうぜ」


「うん!」


 俺達はそうして日々を過ごしていく。

 毎日色々な事は変わっていく。

 けれども変わらない事も日々の中にはある。

 そんな事を考えながら、神社を後にした。


 ん?

 何か忘れている様な?


「そういえばロングレンジはどうした?」


「あ、忘れてた」




 終

頭の中を空っぽにして読める小説を書いてみたいと思い書いた結果、こんな作品になりました。

王道バトル物を目指してはずなんだけどなぁ。


感想、評価等お待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何気ない風景に重い空気を織り交ぜる手法は面白いと思いました。緩急の付け方も嫌いではないです。 [気になる点] なろうではよく見られるのですが、あまりにも文章として見ると稚拙に感じられるほど…
[良い点] 重い雰囲気から一転、「ポン!」とか「コツン!」とかなんのこっちゃ、と思ったら、実に平和だったところ。 久々に「おっ」と驚きました。 もうすぐ夏ですもんね…。 [気になる点] >俺は冷やや…
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