先輩との話。その3
「じゃあ、やります。好きなように……」
「そうそう!!まずは、楽しむことだよ! 人の受けとか最初っから気にしてちゃダメだって」
「……はい」
僕のちゃんとした美術部員は、ここから始まった。
次の日も次の日も出来る限り早く部室にきては、出来る限り長く活動した。
僕は僕なりにやりたい物をやる。
その繰り返しをつづけていた。
二週間ほど経ったころに、早くも完成した。
「先城先輩!!完成しました!!!!」
「はやっ!!!!!」
終わるなり一番最初にやって見せた行動が、その絵をそのまま発信源と言うのか、オリジンと言うべきその方へと一目散に駆け寄り、報告と称して見せびらかした。
「待って……二週間だよ……? 藤岡君……。二週間だよ……私が良い感じの事言ってからまだ二週間だよ……」
「はい! 応募先とかで3~4日位時間とられたので、大体10日ですね!」
「とう……か……っ……」
途端に先城先輩は項垂れた。
「なんか、なんか私自信を無くしそうだよ……。待って……早い……早いよ……いや、うん悪でもなんでもないんだけど、うん、早い……予想以上だよ……」
「多分、先城先輩に言ってもらえたお陰なんだと思います。好きな物をやった方が良いって、言ってもらえたからだと思うんです。自分が先輩に言ったあの文言の通りにやってたらきっと、その後の入選とか無理に考えすぎて捕らわれすぎていてそのままずっと、ずっと悩むばかりだった気がします」
「おお……おお……」
言葉を紡げば紡ぐほど先城先輩の顔つきが変化していって、変異としては、遷移としては驚嘆から始まり、最終的に行き着いた先は、自信に満ち溢れ飽和して何処かしらに支障をきたしてしまった。
笑顔と無理に貫禄やら実力やらを見せつけようとする表情だった。
途端にその表情の変貌がゆえに席から立ちあがり、ゆらぁりと体を海藻めいたような不可思議神妙に動かしたかと思うとすぐに止まった。忽ち俯いたままほくそ笑む声音が聞こえた。
「ふっ、ふっ、ふっ……。流石は藤岡君、我が弟」
(生きてたんだ、その件の話)
「そして流石は私、後輩の実力を引き出すこの潜在的な魅力たるや、何と言えばいいのか……」
急に雄弁な口調になった。
そして傲慢不世出めいたその文言がとてもじゃないが失笑を禁じ得ない。
ただしそこにあるのは苦笑いだけだが。
「えーちゃんどうしたよ!ナルシストになったか!!」
「藤岡君、私に惚れてもいいんだぜ!!?」
「は、はぁ……」
いまさら何を言うのやら、この人は。
心の中でそう思った。
だからと言って簡単に賞に引っ掛かる訳ではない。
別にまだ賞に応募したわけではないのだけれどそれだけは嫌でも、否が応でも自覚していた。
認識していた。覚悟していたし虚無を抱いていた。
それにしたって、それを鑑みたって、それを理解していたってそれでもやはり満足感だけは耐えていなかった。
多分これ以上の作品は恐らく少なくとも自流では成し得ない。
これが僕の作品であり僕なりの作品であることは間違いない。
「これで取りあえず藤岡君はポスター作りも終わりかぁ……!」
「はい、諸先輩方……殊に先城先輩には多大な御協力と言うべきか、手引きと言うべきが、ご鞭撻というか……」
「相変わらずいう事かたいなー」
あはは、と軽く笑いながら先城先輩はそう答えた。
周りの先輩たちも同様に笑っていた。
別に、これは一応素な筈なのだけれど。
画して僕は一仕事を終えた。
そして不可思議な感情を抱き、うちに隠した。
隠した筈……だったのだけれども、知らぬ間にというか無意識のうちに現れていたらしい。
耳の先辺りが軽く赤らんでいた。
勿論それは自分のみだけじゃ気づけなくて、眼前で悠然と佇み惚れ惚れするかのような言葉を僕に吐いている先城先輩にそれを指摘された。
「藤岡君耳、赤いよ? どした?」
「えっ……」
更に自分の中で恥ずかしさが増していく。
つまり悪循環というか無限エネルギーというかが起こっている。
「ホントだ、照れてる系のアレだ」
「おー藤岡君が照れてる!!!」
「すげー、珍しい!!!」
周りにいた先輩たちが囃し立てるように不可思議な反応を見せた。
どんどんと赤みが増す。
終いには顔全体が赤くなった。
「後輩のこういうのってなんかグッとくるよね」
「藤岡君でもゆーりはくるのか、こう弟系とかショタ系限定じゃないんだ」
「後輩キャラって背丈とか関係なしにいいもんだよ。
三次元で思う事は基本ないけど」
(この人たちすげー……)
無言で感嘆した。
目の前の先城先輩もどうように少しばかりおちょくる様に笑っていた。
「藤岡君は弟キャラも生来備えているんだよ!」
「そりゃあ姉がいるんだからそうじゃないの?」
「いいんだよ、細かい事は!!」
(弟キャラってなんだ?どのあたりに内包されてるんだ?)
その辺りは全く分かりそうにない。
「まーこれで藤岡君は一仕事終えたわけだけど、どうする? これから暇するかー!?」
先城先輩がそう問いかけてきた。
その音声は相変わらずのものだった。
「みれんないように、過ごしときます」
以上になります!異常になります!
しかしながら、ノンフィクションよりのつもりが思った以上にフィクションが混じりました。
そのうち他の作品も上げるかと思います。