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私が魔法少女になった理由

 まず始めに結論を述べさせて頂く。



 私は魔法少女である。



 科学がここまで進歩した平成の時代で、何とも非現実的な発言だろうか。それは私自身が一番痛感している。

 この電波な発言をすれば先ず間違いなく、世間一般の常識を持った人々から、『こいつは何を言っている・・・』という冷たいブリザードのような視線が返ってくる事も知っている。


 だが、これは決して妄言では無い。

 まごう事なき真実なのである。


 よってもう一度宣言させていただこう。



 私は、魔法少女である。


 妙に気恥ずかしい変身の文言をやけくそ気味に叫び、これまた妙に気恥ずかしいドピンクな衣装を身に纏い、カラフルでファンシーなキラキラステッキをぶん回し、時に魔法で時に物理で。悪を懲らしめ、自らの正義を遍く世に広く轟かさんが為、高らかに勝利を宣言する。

 それが魔法少女たる私に課せられた宿命さだめである。


 このバカみたいなルーティンワークが与えられるまで私は、とある地方都市のとある進学校に通う、日常に埋没しそうな程、平均に愛された平穏に生きる女子高校生(今年受験生)であった。

 だがしかし。何の因果か、ある日たまたま裏路地で見つけた傷付いたたぬきを親切心から介抱すると、たぬきは自らを地球を悪から護る為に余所の銀河から来た超生命体なのだと、のたまった。


 驚いた。


 たぬきが語る話の内容よりも、人語を理解する事よりも。

 まずその愛らしい外見とは裏腹な渋くて良い声に驚いた。(ちなみに、違和感しか与えないその声を聞く度に、未だ内心驚い(ビビッ)てしまうのは秘密である。たぬきの精神は存外ナイーブなのだ。挫折を知らないエリート故だと推察する。)



 驚愕のギャップに戦き、上手くリアクションを返せない私に、たぬきは更に語りかけた。


 いわく、地球で秘密裏に活動するにあたって、違和感なく社会に紛れることが可能な生命体を模し、母星から転送されたのだと。しかし、地球到着の間際に悪の干渉によって、正確に定めたはずの座標が僅かに乱され、たぬきにあったはずの超自然的なウルトラ勧善懲悪パワーが、たまたま近くを歩いていた私に移ってしまったのだと。つまり平々凡々を地でいく私に、偶然の産物によって地球を救う圧倒的な潜在能力が宿ったらしい。


「だからどうか、地球の防衛を貴女に手伝って欲しい。」


 たぬきの壮大でどこか厳かな供述は、そう締めくくられた。


 感想をありのまま言うのであれば、正直勘弁して欲しかった。

 先述の通り、私は受験生なのである。

 よく分からないうちに脅かされているらしい地球の平和よりも、目の前に差し迫った自身の進路を大切にしたかった。よってこれは、過酷な受験戦争に身を投じた結果、起き()てしまった精神疾患はくちゅうむなのだと結論付けた。


「現実逃避は良くない。さっさと家に帰ってハーブティーでも飲んで落ち着こう。荒んだ心では捗るものも捗らないからね。そうだ、今日はしばらくぶりに撮り溜めていたドラマでも見よう。好きなことを我慢しすぎるからこんな変な夢を見ちゃうんだ。うん、そうしよう。それがいい。」


 視界の端に映る茶色い物体を意識しないように、ブツブツと自己暗示をかけながら路地裏に背を向け、その場を去ろうとする。


 が、しかし。


 シュタタタタ!と軽快な足音と共に、二足歩行で私の前に移動し、行く手を阻もうとするたぬき。


 たぬきよお前…、そこは動物らしく四足歩行じゃないのか。何のためにたぬきを模したんだよ。違和感なく社会に溶け込むためじゃないのか。結構な素早さで二足歩行ができるたぬきなんて、ただのたぬきじゃねえよ。未来の世界の青いたぬき型ロボットだよ。


 内心そう突っ込んでいると、たぬきは私の目の前に正座し、その小さな指を綺麗に揃え、ゆっくりと頭を垂れた。

 所作の教本もかくやとばかりの、美しく洗練された見事な土下座スタイルであった。(後々発覚するのだが、たぬきは二足歩行どころか礼儀作法も難なくこなし、その上あらゆる言語、あらゆる学問にも精通する天才であり、更にはレディファーストすらも心得た、たぬきである事が非常に悔やまれる程に、メンタルイケメンハイスペックたぬきなのである。)


 土下座スタイルのまま、たぬきは振り絞るような声で懇願した。


「荒唐無稽な話をしているとは重々承知している!だが、もう貴女に頼るしかすべはないのだ!謝礼ならばはずむ!貴女が望むものを渡せるよう我々に出来得る最大限の努力をすると誓おう!だから、」


「オッケー、承知した。」



 即決である。

 小さな体で精一杯の誠意を表すたぬきの姿に、私は心を打たれたのだ。

 決して謝礼が目当てではない。断じて違う。私はそのように即物的な人間ではないのだ。崇高なまでの自己犠牲の元、使命感に燃える私を、そこらへんのがめつい大人達と一緒にしないで欲しい。人よりほんの少しばかり、損得勘定がしっかりしているだけの、清廉な博愛主義者なのだ。私という奴は。


 とにかく、私とたぬきの契約はここに成立し、以後私は地球を護るため、日夜悪と戦うこととなった。

 計算外だったのは、私の凡庸なアビリティでは、たぬきから賜った超自然的なウルトラ勧善懲悪パワーを使いこなすことが出来ず、やたらと目立つどピンクの魔法少女衣装(パワードスーツ)着用を義務付けられたことである。

 慚愧に堪えないとは正にこのことだろう。痛恨の極みである。何故よりにもよってモチーフが魔法少女なのか。遠い銀河にいらっしゃる製作者に猛烈に抗議したい。

 せめて隠密行動にふさわしい色を選んで欲しかった。ショッキングなほどに鮮やかなピンクはひどい。違和感なく社会に紛れ込めるというコンセプトはブラックホールに吸い込まれてしまったのだろうか。

 こうして愚痴を零したところで、製作者の真意あくいようとして計知れぬまま。秘密裏に行うはずだった破壊へいわ活動は、必然的に白日のもとへと晒されることになる。


 以上が、私が魔法少女を名乗るに至った経緯である。


 最後に独り言になるが、18歳を迎えた身でありながら、自らを少女と称することに対し、誰よりも厚かましさと居たたまれなさを感じているのは、他でもない私自身であるとここに明言しておく。



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