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拓海saidで書いた章です




大切な人がいる。


すごく無器用に生きている彼女を不本意にも幼い頃から好きになってしまっていた。






「うざったい!!付いてこないで!!」




幼馴染みの素奈緒………スナちゃんは小さい頃から口が悪い。


そして、中学三年の夏に俺が自分でもビックリだがスナちゃんに告白した。


そんな事と合間って、スナちゃんは昔よりもずっと、俺に対して口も態度も悪くなった。



「一緒に帰ろうよ、今日は暇なんだろ?」



スナちゃんはお母さんから月に結構な量の小遣いをもらっているのに、週に五回バイトをしている。




「バイトがないからって暇なわけじゃない、付きまとわらないで」



何度も脱色を繰り返して痛んだ髪の毛が、春の風に浮き上がっては柔らかく落ちる。



細くて小さな背中が、俺を拒絶しながらより小さく遠くなっていく。



しかし、無器用ながらも彼女は優しいため、ふりかえって立ち尽す俺に一つため息を溢すと、またこちらに戻ってくる。




「男なんだがらシュンって小さくなるなっ!」



スナちゃんは怒った口調でそう一言言うと、俺の腕を引っ張っていった。




スナちゃんの家は母子家庭だ。


しかも、お母さんが水商売をしているから、いつも家では一人なのだ。



一人なのは家だけではないかも知れないけど。



スナちゃんから友達や好きな異性の話しなど聞いた事がないからだ。




少し優越感に浸っていたんだ。



半分くらい人嫌いと言ってもいいほど人付き合いが苦手な彼女は、好んで人と関わろうとしない。



友達を作った方が良い、好きな男の子が出来たら毎日が楽しくなる。

そんな助言をしながら俺は、彼女が俺以外の人間と関わりを持たないように為ているのを喜んでいた。



告白なんて、一生したくないと思っていた。

恋愛感情を彼女に向けているとバレたら、一緒にいられなくなると解っていたから。



でも、俺は人生至上最強最悪最後の失態を犯してしまったのだ。




「大体、なんでアンタはわざわざ私の家の向かいに引っ越して来たのよ」



ため息混じりにスナちゃんは呟いた。



入学式の三日前にスナちゃんの住んでるマンションの部屋の向かいに引っ越してきた。


丁度運の良いことに、多額の借金のせいでマンションを出ていく事となった前の住人に感謝しなくてはならない。




「マンションなんて息子に買い与えちゃって、藤川のおじさんはアンタの事溺愛しすぎなのよ」



スナちゃんの行く公立高校に行くことに関して、親父は反対しなかったけれど、母さんは猛反対していた。


どっちみち、この高校は親たちと暮らしていた家からは通えない。


高校生のうちから一人暮らしをさせる事などできないと、最後は涙を流しながら母さんは止めたけど、一人で学業に励んで、少しでも自立した生活を送りたい、と言うとやっと納得してくれた。




「だって学校あの家からじゃ通えないからな、親父も納得してくれて住む場所も手配してくれたし」




「だから、今からでもあの私立の何とか学園に戻ればいいでしょ?私立からいきなり公立に来て、アンタを追い掛けてきた実優さんも可哀想よ」




あんな馬鹿な女の名前なんか出すものじゃない。


スナちゃんに言われるまで完全に存在を忘れていた。



俺が黙っていると、持っていた学生用のバックを肩にかけなおし何度目になるか解らないため息をついた。




「可哀想よ、アンタの事学校追い掛ける位好きなのに、どうして優しくしてあげないのよ」



第三者として、恋愛事を見るのは平気なのか、スナちゃんは俺にしきりに早川実優を勧めてきた。



学校を追い掛けてきたのなら、俺だって一緒の事だ。


だけど、俺からの告白が余程嫌だったのか、スナちゃんは俺と居る時、自分が告白されたのを完全に忘れたように振る舞う。







俺の想いなど全て無視した彼女の行動。


普通の男なら好きじゃなくなる筈なのに、毎日毎日彼女に逢いたくて堪らなくなる。



どうしても忘れたくて他の女と付き合った事もあった。


でも、あの清々しい程の彼女の凛とした雰囲気と、時折見せるはにかんだような笑顔がどうしても忘れられなかったんだ。




「好きじゃないのに優しくされたって、向こうも辛いだけだろ」



吐き捨てるように言った俺の顔を驚いたようにスナちゃんが見張る。




「スナちゃんが俺を好きになってくれたら良かったのに」






自分で帰ろうと何度も誘った癖に、俺は立ち止まるスナちゃんを振り返らずにどんどん早歩きになる足を止められなかった。




眉を寄せて困り果てたような顔をした彼女を、そんな顔をしていても綺麗だと思って家についた途端にベッドに倒れこんだ。



バックをそこら辺に投げて両手で顔を覆う。



困らせたかったわけじゃない。


ただ、彼女を男として独占したいのだ。


幼い頃から手に入らない物が無かったわけじゃない。


物質的に親から与えられても、心は酷く渇いていた。



だからこそ、彼女の心を手に入れたい。


もう、お友達なんていうあやふやで不確かな存在でいたくないんだ。



独占して、俺という存在をいつまでも彼女の中に息付いていたい。


そんな事を彼女が許してくれる筈がないと言う事は俺が一番よく知っている。


彼女は恋人や夫婦という深い関係になるのを恐れている。



長いこと銀座のホステスである母親の影響だろうか、幼い頃に借金と暴力だけしか彼女に与えず出ていった父親のせいか、俺には解らない。




父の友人だという母親から、素奈緒をよろしくと耳元で囁かれて絶対守囁かれて絶対守ってやると意気込んだのは何年前の事だろうか。




枕元にある青いくまの縫いぐるみを引き寄せる。


幼い頃は大きく見えた縫いぐるみは年とともにだんだん小さく見えてくる。



まだスナちゃんも持ってくれているだろうか。



お揃いにと、親父が二人に買い与えた物だ。


ペアの縫いぐるみは一つは青いくまで一つはピンクのうさぎだった。



青い方が欲しそうだったスナちゃんだったけど、ピンクの方が似合っていたから押し付けたんだっけ。



冷色系より暖色系の方が実はスナちゃんは似合うんだ。



そんな事を考えて、幸幸せな気分になる。


一人で思い出し笑いなんて恥ずかしいけど、クスクス笑ってしまう。



徐々に瞼が重くなってきた。


帰ったらまだほどいていない荷物を片付けようと思ったけど、この幸せで柔らかい眠気には勝てなかった。











読んで下さりありがとうございました。

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