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温泉と花火と暴走式神

イセベリス地方に蔓延る悪党集団、グルファクシ組をたった二人で壊滅させた白金の双花。そして…そこで出会い戦煌刀士になった少女、双花の三人は、その功績を認められゲイゼンから特別に一週間の休暇をもらった。現在一行は、前々から寄ろうと決めていたオーガベルツに向かう為、イセベリス地方を抜け、イセベリスの南東隣に位置するアイルビィ地方まで向かう途中、トンタン平原に立ち寄り、双花は刀の訓練をしている。

「はっ!………やぁーっ!」

双花は力任せに訓練用の木刀を必死に振るい、それを訓練相手を引き受けた桜花はそれをいとも簡単にいなしていく。

「ノンノーン!双花、そんな力任せに刀を振るっても駄目だよ。こう、もっとね…素早い動きで敵を翻弄して、スキを作るの。こんな風に…ねっ!」

桜花は双花の周囲をくるくると飛び跳ね、機敏に動き回ってみせた。

「こんな芸当が出来るのは桜花くらいでしょ。桜花って猿みたいにすばしっこいところあるから…」

「ちょ!ちょーっ!何それ、誰が猿ですかーっ!私は可憐な乙女なんですけどーっ!」

月花から心無い一言を受けた桜花は顔を膨らませむっとしている。月花はそんな桜花の様子も気にせず双花にアドバイスする。

「うぅんとね、戦煌刀士によって戦闘スタイルってものがそれぞれあるから…とりあえず双花は色々私達から吸収して、戦いやすいスタイルを見つけてみたらどうかな」

「なるほど…私に合った戦い方、かぁ」

「さーて、と!今日はもうおしまいにしようか。双花、最初に比べると段々と筋が良くなってきているよ。頑張れ!」

桜花はそう言うと双花の髪をわしゃわしゃと撫でる。訓練をしている時も二人の双花への接し方は激甘だった。

双花が刀の訓練を始めて四日が経過しようとしていた。まだまだ実戦を任せられるようなレベルではないものの、それでも彼女の飲み込みの速さには目を見張るものがあった。やはりあのゲイゼンが一目置くだけのことはある。いずれ自分達をも越える強くて優しい戦煌刀士になって欲しい…そんな風に願って二人は双花に戦う術を教えた。



その日の夕方、三人はオーガベルツに到着した。オーガベルツはアイルビィ地方にある温泉で有名な観光地だ。リーヴの町の甘味処のような、和を感じさせる建物がずらりと並んでいるのも温泉街特有の風景といった感じだ。

三人は早速今夜泊まる旅館へと向かう。リーヴで泊まった民宿とは比べ物にならないような、何階建てにもなる立派な旅館に到着した。

「さぁさ二人とも、温泉入りに行こう!おんせーん!」

旅館に付くなり早速三人は部屋に荷物を置いてお目当ての温泉へと向かった。

温泉内にはたまたま三人以外客はおらず、まるで貸切状態のようである。それを見た桜花は子供のようにはしゃいでいる。三人は服を脱ぎ始め、桜花は大胆に戦煌装束を脱ぎ捨てて裸になった。桜花の能満な胸に目がいった双花は、ついつい唾を飲み言葉に出してしまった。

「桜花…お胸、大きい…」

「や、あんまりじろじろ見ないでよ双花。結構これコンプレックスなんだから……」

一方の月花は何やら身体を震わせて二人の目を気にしている。

「月花はなんでさっきからもじもじしているの?」

「いや、だって…見られるの恥ずかしいんだもん…」

「月花はスタイルいいんだから恥ずかしがる事ないってぇーー。私なんて胸以外子供みたいな体つきしてるのにさぁーー。ほーら、裸の付き合い!昔はよく一緒に入ったじゃん!」

そう言うと桜花は脱ぎかけの戦煌装束を勢いよく剥ぎ取った。

「い、いやぁぁぁぁあっ!」

悲鳴と共に、月花の裸体があらわになった。月花は石畳の床に膝をつき、両手で必死に胸部を隠している。桜花は月花の裸体を舐めまわすように見ながら息を荒くしている。

「お…おぉー。やっぱりこれはこれでマニアックな需要があるよ…」

月花は目の前にきょとんと立っている双花の胸を確認し、自分の胸と見比べてため息をついた…五歳近く年の離れた少女とたいして大きさが変わらなかったからだ。

「双花はねぇ、そのうちもっと大きくなるよ。月花と違ってねーぇ」

落ち込む月花を見ながら桜花は双花の肩に手を置き、嫌味のように囁いた。

「ちょっと…さっきから励ましてるのか馬鹿にしてるのかどっちなのぉ!」

服を脱ぎ終えた三人は湯船に浸かる前に身体を洗い、身体中を泡まみれにしている。月花も裸を二人に見られる事をすっかり気にしていない様子だ。

「双花、身体洗ったげるねー」

「あっ、ずるい桜花。私も双花の身体洗いたい!」

「ノンノーン!だって月花、女の子を見る目がやらしいんだもん。そんなムッツリスケベに私の双花を触らせたくなーい!」

「私の、って私達の双花でしょ!抜け駆けはいくら桜花でも!」

二人は中心にいる双花を挟むようにして言い合いをしている。

「双花、背中流したげるねぇー!どう?気持ちいい?」

「それじゃあ私は髪の毛洗ってあげる!」

月花はねっとりとした手つきで、双花のくせっ毛あるロングの髪を撫でるように触れてゆく。

「あっ!やっぱりその手つきからしてやらしい…月花のロリコン!」

二人の密着は段々力強くなっていき、まるでサンドイッチのように挟まれる双花。擦れ合う肢体、桜花の能満な胸や月花のすべすべな肌と触れあう度に双花の身体が段々と火照ってムズムズと変な気持ちになってくる。

「あッ、……なんか気持ちいーーーーーー二人とも、ちょっと待っー」

「ん…どうしたの変な声出して?」

気にせず二人は双花の身体を貪るように洗い続ける。まるで愛撫を受けているのにも等しいような刺激を受けるうちに双花は達してしまい

「だ…らめ…………いゃ……ッ!……ッふぅーーぁぁぁーーーッーー!」

と双花は艶かしい声を上げ、ビクンビクンと身体を振るわせ、果てた。

「ちょっ!どうしたの双花!?双花ーーっ!」



そんなこんなで温泉から上がった三人は部屋へと戻り、窓から外の景色を眺めている。窓からはオーガベルツの町が一望出来、建物の明かりによって町は照らされ、綺麗な夜景が広がっている。

「わぁ綺麗…」

そう双花が呟くと桜花は得意げに指を振る。

「ノンノン、まだまだこんなもんじゃないよ。オーガベルツといえばねぇー、さぁてそろそろ時間かな」

瞬間、バァーン!バァーン!という音と同時に夜空に次々と上がっていく、宝石のような光…双花はその目に映る光に一瞬にして心を奪われた。こんな綺麗なものがあるなんて…外の世界に出てからというもの、新しい発見に驚く日々である。

「たーーまやーーー!」

「ええと…それはどういう意味なの?」

双花が不思議そうな顔をして訊ねると、月花が説明してくれた。

「これはね…花火が上がる時の掛け声みたいなもの。双花も一緒に叫んでみよ。せーの」

「「「たーまやーーー!」」」

次々と上がっていく花火を見ながら三人は大声で叫んだ。外に向かってそう叫ぶと不思議と解放感で満たされるのを感じた。

花火を観終えた三人は双花を中心にして布団にくるまり眠りにつこうとしている。

「なんか、双花が来てからすっごい賑やかになったよね私達の旅」

「うん。毎日充実してる、って感じがする……ずっとこんな時が続いたらいいのにね」

「今日はもう疲れたでしょ…お休み双…ってあれ?……寝ちゃってるよ」

双花は穏やかな顔をしながら小さないびきをかいて既に眠りについていた。そんな双花を二人は笑顔で見守るように眺めていた。



翌日、三人はオーガベルツの町中にいた。温泉でゆっくり身体を癒すのも目的だったが、他にもう一つ寄らなければいけない場所がある。

オーガベルツにはハルモニア・ソードお抱えの戦煌装束職人がいる。そこで双花の戦煌装束を手に入れるのも目的であった。現在双花はリーヴの町でティファニーから貰った服を着ており、戦煌刀士になったと言っても必要な道具をまだ何も持っていない。

「確か、ここのハズなんだけど…」

一行は呉服屋の前で立ち止まる。するとその様子を見てかピンクの髪が目を引く朱色の着物を纏った美女が店の中から現れた。彼女の名はクゥルン。眼鏡を掛け、知的で大人びた印象のある彼女は戦煌刀士ではないが、高い煌力を持つ凄腕の戦煌装束職人である。

「おや?君たちは…」

三人は呉服屋の中に案内される。店内にはあちこちに着物が飾られており、双花はそれを物珍しげに眺めている。

「君たちが白金の双花だったとは。噂には聞いてるよ、この前はイセベリスで大活躍だったらしいじゃないかぁ!んでもって、そっちの子が…」

どうやらゲイゼンが先にアポを取ってくれていたらしい、が詳しい事情については知らされていないようだ。

「この子は双花。色々あって私達が面倒を見ることになった戦煌刀士の卵、ってところなんですけど…まだ戦煌装束を持ってないんです。貴女に会えば戦煌装束を用意をしてくれるってゲイゼンから聞いたので…」

桜花が事情を説明すると、クゥルンは困り果てた表情で口を開いた。

「それが、だねぇ…困ったことに一週間程前、私が仕事で使っている煌木猿(きらめもくざる)が戦煌装束を全部持ってどこかに行ってしまったんだよ。ここに置いてあるのは全部普通の着物」

「…へ?」

煌木猿とは猿を催して造られた式神。式神は煌女のみが扱える動物の姿をした木造の使役獣であり、桜花達が町間の移動に使っている煌木馬もその一種である。

「…実はねぇ、この事はくれぐれも本部には内緒にしておいて欲しいんだけど…この間、煌木猿に煌を籠める力が少しばかり強かったようでね、暴走しちゃったみたいなんだよ…最近では町での目撃情報も増えてきていてね、奴が何か悪さをしでかさないか気が気でならないんだ」

式神は煌女から煌を受ける事により起動するが、定量以上の煌を流し込まれてしまうと暴走を起こしてしまう事もあり、使い方次第では危険な代物にもなりえる。その為、式神の所持は一部の限られた煌女や戦煌刀士しか認められていない。式神が暴走して姿をくらましてしまった、なんて事がハルモニア・ソードの本部に知られたら式神の使用権利を剥奪されてしまいかねない。

「という事で…君達に煌木猿を捕まえて、戦煌装束を隠している場所を突きとめて欲しいんだ…頼めるかい?」

「え…私達が、ですか?クゥルンさんが捕まえればいいじゃないですか…」

せっかくの休暇に厄介事を押し付けられそうになり、桜花は面倒くさそうな表情を作って言い返す。

「私も一度捕獲を試みたんだけどねぇー、全然捕まえられなかったんだよー。すばしっこいったらありゃしない。凄腕の戦煌刀士である君達なら簡単に捕まえられるんじゃないかと思ってね」

煌木猿は戦煌装束を仕立てる際の繊細な作業にも使われる高性能の式神。若干知恵も働くようで、クゥルンが一度捕獲に失敗したことで警戒し、それ以降姿を見せなくなってしまったのだという。

この人は戦煌刀士を便利屋か何かだと勘違いしてるんじゃないかと桜花は思ったが、口には出さず双花の戦煌装束の為にもしぶしぶ引き受けることにした。



三人は早速煌木猿の散策を開始した。一見観光をしているようにも見えたが、町中をうろついていれば煌木猿が初めて見る戦煌装束に興味を示し姿を見せるとクゥルンは考えており、それまでは気軽に構えていてもいいとの事だった。

桜花は途中で立ち寄ったお土産屋で買ったどら焼きを双花と半分こして美味しそうにほおばっている。月花は太るから…と遠慮するも二人が食べる様子を羨ましそうに横目で見ていた。

散策という名の観光を楽しんでいる一行の前に、どこからかこちらを覗いているような異様な視線を感じた。それにいち早く反応した桜花が視線の先に目をやると、30センチ程の大きさはある木造の猿が目前の建物の屋根の上からこちらを嘲笑うかのように見ている。

「早速現れなすったね…!」

桜花が煌木猿のいる屋根の上まで勢いよくジャンプし近寄ろうとすると、危機を察知したのか煌木猿は屋根から屋根を飛び移り逃げていく。慌てて桜花も後を追うが、スピード自慢の桜花ですら次第に距離を離されていく。クゥルンから煌木猿を取り逃がせば警戒が強まる事を聞いていた桜花は、これを逃せば二度とチャンスはないと思い必死に後を追った。

「ちょっ!待ってよ桜花ぁ!」

屋根から屋根の間を飛び回り移動していく桜花と煌木猿の後をついて行く月花と双花。そんな中、後方からクゥルンの声が聞こえた。

「月花君、これを使うんだ!」

と、クゥルンは月花に向かって何かを投げ、月花はそれをキャッチする。手には木造の球体が握られていた。

「こ…これは?式神!?」

「そう、それは飛行タイプの式神…煌鴉(きらめがらす)だよ。そいつを使えば煌木猿を尾行して、奴のアジトまで導いてくれるはずだ」

「わかりました!」

早速、月花は球体の中心部にあるボタンを押した。ボタンを押すことで球体に煌が伝達、煌木馬と同じ要領で変形していき、全長15センチ程の鴉型の式神へと姿を変えた。煌鴉は煌木猿の後を目にも止まらぬスピードで追いかける。煌鴉は桜花すらあっさりと振り切りあっという間に二体の式神は見えなくなってしまった。



しばらくすると月花の元まで煌鴉が戻ってきた。煌鴉に案内され、後を付いていくと町外れにある旅館の跡地のような廃墟へとやってきた。そこに煌木猿は逃げ込んだようだった。

「うまくいったようだね…なんとか奴が姿を現してくれれば、新しく用意した煌鴉を使って隠れ家を突き止める事が出来たんだよ。君たちが来てくれて本当に助かった…ああ。その煌鴉は月花くん、君にあげよう。元々この時の為に手に入れたようなものだし、戦煌刀士である君達の方が色々と使い道があるだろうしね」

煌木猿散策に合流したクゥルンは怪しげな御札を取り出し、建物の周辺に配置した。

「この建物に式神にのみ効果のある結界を張った。これで暫くアイツは外へ出られないハズ。それにきっとアイツはここに戦煌装束を隠している…」

「ならここから戦煌装束を持って帰れば今回の件は解決ですね」

事件解決が見えてきてひと安心している月花だが、クゥルンは思い詰めた表情で口を開いた。

「いいや、結界の効力も無限という訳ではないしこのまま煌木猿をほおっておく訳にもいかないだろう?だからもう一つお願い、君達に奴を退治してもらいたい」

「いいん…ですか?」

「仕方ないさ。本部には壊れたとか適当言って新しいのを送って貰えばいいし…」

口ではそう言いながらも、クゥルンから未練が残るようなような表情が伺えた。式神とはいえ今まで一緒に仕事をしてきた間柄。愛着に似た感情すら生まれていた。煌木猿はクゥルンと一緒に仕事をするうちに戦煌装束に惚れ込んでいくようになり、暴走が引き金となって独占欲を爆発させた末このような行動を取っているのではないかと考えていた。

建物に入るなり上の階から物音が聞こえた。四人は急いで物音がした部屋まで向かうと、そこには多数の戦煌装束が綺麗に並べられており、中心に煌木猿がいた。

「あぁっ!私の戦煌装束!」

大声でクゥルンが叫ぶと、その声に反応した煌木猿がこちらに気づき、部屋の窓から外に逃げようとする…が、煌木猿が窓に触れた瞬間、結界が発動し建物内へ引き戻された。その隙を狙って桜花が刀を抜き、斬りかかるも間一髪の所でかわされてしまう。煌木猿は桜花の顔を踏み台にして部屋から出て、更に上の階まで逃げていった。

「あ、あの猿ーーっ!」

「お願い!あの猿を追って!」

月花はポーチに収納していた煌鴉を再び起動させ、後を追わせた。廃墟になった旅館を舞台に珍妙な鬼ごっこが開始される。一行は煌木猿に翻弄されながらあちこち部屋を探し回り、やがて屋上へとやってきた。屋上では既に煌木猿がパニックを起こしている。屋上の出入口は一つだけしかなく、外へ出ようとしても結界に弾き返される。煌木猿にとって万事休すの状態だ。

「ふっふっふ、これでもう逃げ道はなくなったね…さぁてと。大人しく斬られなさいな、っ!」

桜花はしたり顔でそう言うと、刀を構えて煌木猿に飛びかかる。煌木猿はそれをまたも素早く交わし周囲を跳ね回る。桜花も煌木猿の後を追いかけ攻撃を繰り出す。

「ほ、本当に桜花、猿みたい…」

双花がぼそっと呟くと「双花ぁーーー!それ聞こえてるよーー!」とぴょんぴょん跳ね回っている桜花から返ってきた。たいした地獄耳だ。

「ああっ、もぉーすばしっこいなぁ!」

桜花は以前にも戦煌刀士の訓練用に造られた式神と戦った事はあったが、猿タイプの式神と戦うのは初めてでどうにもやり辛い。

「一瞬でも隙を作れたら……桜花なら決めてくれる」

その様子を冷静に見ていた月花は煌鴉を球体に戻し地面に置いた。

「月花くん!?一体何をするつもり…?」

クゥルンがそう聞き返した次の瞬間、月花は球体を下駄で思い切り蹴りあげた。球体は勢い良く煌木猿まで跳んでいき、両者は衝突した。

「けっ…!蹴ったァ!?月花くん…キミは見た目によらず大胆なところがあるなぁ…」

月花が時折見せる大それた一面を初めて見た双花の表情も若干ひきつっている。

球体にぶつかった煌木猿はよろめき、チャンスとばかりにすかさず桜花が煌木猿の右半身を斬りつける。斬撃によって切り離された煌木猿の右腕と右脚は白い花びらへ姿を変え、本体はゴロッゴロッと地面に叩きつけられ立ち上がるのも困難な状態になっている。

「よしっ。これで動きが鈍ったね。双花!」

「は、はいっ!?」

突然名前を呼ばれ、驚く双花。桜花は虎王丸を双花の近くにあった花壇へぐさりと差し込んだ。

「止めは双花が刺しなよ。どう?いい練習相手だと思わない?」

式神は直接の戦闘能力は持ち合わせていない為、桜花は戦煌装束を着ていない双花でも相手が出来ると考え虎王丸を託す。木刀ではなく、本物の刀を試すいいチャンスでもあった。

「これ…桜花の刀。いいのっ?私使っちゃって!?」

「問題なっし!大丈夫…双花なら出来る。これであの煌木猿をやっつけちゃって!」

「わかった!私…頑張ってみる!」

桜花はサムズアップを決め、双花もそれに応えるように花壇に突き刺された虎王丸を引き抜き、煌木猿へと斬りかかる。

「でりゃぁあああああ!」

鋭い気迫と共に突き出された刃は煌木猿を両断し、それまで煌木猿と言われていた二つのカタマリは白い花びらへと姿を変える。花びらは双花を囲むようにして空へと舞い散った。

「ごめんよ、私がしっかりしていなかったばっかりに…」

舞い散る花びらを見上げ、クゥルンはもの悲しげに呟いた。

「ふぅ………や、やった!やったよ桜花!月花!」

初めて本物の刀を扱った実戦で未だ緊張の抜けない様子の双花の元に二人は駆け寄り、優しく声をかけた。

「うまくやれたじゃない、双花」

「桜花、ありがとう…これ返すね」

双花は桜花へと虎王丸を返そうとした瞬間、虎王丸に亀裂が入り、金属音を響かせて折れてしまった。

「お…お、お!……折れたぁああああああッ!」

刀が折れるというこれまでにないアクシデントに桜花はあわてふためいている。

「どっどどどどうしよう…!私の虎王丸が…」

「ごっ!ごめんなさい桜花…きっと私の使い方が悪かったから…」

「そ、そんな事ないって!桜花のせいじゃないよ。それに、使えって言ったの私だし…」

と言いながらも桜花は相当落ち込んでいる。微妙な空気が流れる中クゥルンは提案する。

「それなら…オーガベルツの隣にある、鉄鋼の町、オウランに行けば刀職人がいるはずだよ。そこでなら直してくれるんじゃない?」

「ほんとっ!」

それを聞いた桜花はひとまず落ち着きを取り戻したようで、一行は戦煌装束が隠されていた部屋へと戻るなりクゥルンは言った。

「君達、この子の戦煌装束を受け取りに来たんだろう?ホラ、ここに沢山あるから好きなのを一つ持っていくといい。助けてもらった礼だ、なんでもいいよ」

部屋には様々な着物が並んでいる他に、チャイナドレス、騎士の鎧、ウェスタン風の衣装といったものまである。これらも全て戦煌装束の一種らしく、もの好きな戦煌刀士からのオーダーが度々あるのだという。

双花は悩みに悩んだ末、薄い紫色の着物を選び、部屋の隅で試着を試みる。

「どう…?変じゃないかな?」

着替えを終えた双花はもじもじとしながら三人の前に姿を現した。自分で服を選ぶのは初めての経験だった為、変な格好になっていないか心配だった。

「「うわー!似合ってる…似合ってるよ双花!」」

そんな双花を見た桜花と月花は目を輝かせ、黄色い声援を送っている。どうやら二人にも気に入ってもらえたようだ。

「へへ、二人とお揃いの着物…これにします」

「ほーぉ。それに目をつけるとはお目が高い。そいつの出来には結構自信があったんだよ…目利きのセンスもあるんじゃないか?双花ちゃん」

「でも…」

「ん?どうした。何か問題を抱えてそうな顔をしているが…?」

「えぇと、最近育ち盛りなようで…すぐにサイズが合わなくなりそうなんです…」

それを聞いたクゥルンは声を上げて笑った。

「はっはっは!ああ、すまない。成長期特有の悩みという奴か。それなら心配ないよ。だって戦煌装束は戦煌刀士の成長に合わせてサイズを伸縮自在に変えてくれるからね。それに戦煌装束は服や身体の汚れを自動的に落としてくれるから変えも殆ど必要ないんだよ」

「そっ!そんな機能があるんですか…?」

確かに桜花と月花もいつも同じ着物を着ている割には身体を清潔に保っている。そういうカラクリがあったのか…と双花は納得した。

「さぁて、次の目的地は鉄鋼の町…オウラン、かぁ…早く虎王丸を直してもらわないと…あーあ。せっかくの休暇なのに結局バタバタしちゃってるなぁ」

「まぁまぁそう言わないで。そういう方が後々想い出に残るよ」

「色々とありがとう、クゥルンさん…それじゃ私達はこれで。いつかまた、機会があれば」

「あぁ、君たちも達者でね」

三人はクゥルンに別れを告げ、オーガベルツを後にした。







三人を見送ったクゥルンの元に煌鴉が飛んできた。先程まで月花が使役していたのとは別の個体だ。煌鴉の口には手紙がくわえられている。手紙にはこう書かれていた。

煌木猿暴走の件は全て知っている。よくもまあ戦煌刀士のエース、白金の双花を下らない茶番に巻き込んでくれたね。本来なら式神の使用権を剥奪したいところだが…貴女にやって欲しい事がある。オプロアスへと召集されたし。-ゲイゼン・フランクヴェルツ-

「あちゃー、本部にはバレバレだったって訳か…それよりも私をオプロアスまで呼ぶという事は聖煌装束(せいこうしょうぞく)絡みの案件か…いよいよあのお姫様が表舞台に出るって事かな?中央(コトロア)の煌姫…リリィ・エクレイア。これは忙しくなりそうだ」







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