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大地讃頌と私の名前

ひと仕事を終えた桜花と月花は白金髪の少女を連れ倉庫を出た。外ではゲイゼンが既に待機しており、待ちくたびれたというような態度で二人を見つめた。

「どうやら終わったようですね。白金の双花」

「うん、まあね。あんな奴ら楽勝だったよ。…ところで捕まっていた女の子達はどこに?」

「今、私の部下が彼女らを町へと連れて行き事情を話しているところです。捕らえられていた少女達はこの町の出身者が多かったようでね…現在身元を確認中。やはり、奴らはこの町の住人達に逆らったり、ヨソモノに教えればただではすまないと圧力をかけていた。桜花、貴女の読み通りです」

迅速な対応。流石は戦煌刀士を管理する治安維持組織”ハルモニア・ソード”の重役といったところか。

ゲイゼンが事情を説明していると、月花の裏に隠れていた白金髪の少女がゲイゼンの前に姿を見せた。

「おや?こちらの少女は?」

「ああ、この子は…監禁されていた子達の逃げ遅れなんだけど」

「そうですか…ではこの子の保護者も見つかるように手配しておきましょう」

その言葉に、これまで沈黙していた少女が反応し口を開いた。

「私、帰る場所なんてない…!だって、私…物心ついたときからずっとあそこにいたんだもの」

あまりにも陰鬱な過去をさらりと伝えられた三人は驚きを隠せない。ざっと見た目12、3歳のこんな華奢な少女が、物心ついた時から何年もあんな所に閉じ込められていたというのか。

「えーと…お嬢ちゃん、名前は?」

「名前…わからない。あの中ではナンバーイチと言われていたけれど…」

「おそらく彼女はこの辺の出身ではないでしょう。ここいらでは珍しい白金色の髪…これは大陸東の豪煌地帯あたりの出身者のものです。めぐりめぐってこんな辺境の町まで来てしまったのでしょう。」

地理にも詳しいゲイゼンは、未開の地にも等しいとされている東の地の出身者ではないかと予想していた。

「はてと、どうしたもんかね…」

困り果てた三人は今後の少女の措置について考える。しばしの沈黙の後、桜花が提案する。

「そうだ!オロプアス。あそこに行けば身寄りのない子供を受け入れてくれる施設とかあるでしょ。ここからならそう遠くないし…久しぶりにあいつにも会いたいなぁ。ってことで行ってみない?」

オディアカフ大陸一の人口密集地帯、中央イラキス地方にある巨大都市、オプロアス。そこにはありとあらゆる施設が完備されている為、彼女の受け入れ先も見つかるだろう。

「オプロアス、ですか…その前に貴女達にはもうひと働きしてもらいたかったのですが…」

それを聞いたゲイゼンは話の腰を降り、唐突に新たな指令を二人へ伝える。

「グルファクシ組、先程貴女方が退治した悪党集団。どうやらこのイセベリス地方、大半の町を制圧しているようでしてね。思った以上に根が深い」

ハルモニア・ソードはイラキスに本部を置き、大陸中に支部を持っている。しかし、イラキスに隣接しているイセベリス等の地方にはハルモニア・ソードの支部はなく、今回のような煌関連の事件が起こった際には、本部から戦煌刀士が派遣される。

「奴らの拠点はここから西に60km程離れたクルジアンの町に存在しているようです。現在構成員の殆どがそこに集まっているとの情報を得ました。これは奴らを一網打尽にするチャンス。予想ですが敵の数はざっと百人。今回倒した下っ端ですら煌喰らい化していたのです。構成員の大半が煌喰らいだと思っていいでしょう。この任務では貴女方の他に三名の戦煌刀士に応援を要請しました。彼女らが到着するのはざっと三日後、ということになっています。彼女達と力を合わせ討伐をお願いしたい」

「なるほどねぇー。三日後…か。だったらさ、私と月花。二人で明日にでもそのグルファクシ組とやら、ぶっ潰しに行かない?」

時折桜花は軽いノリでぶっ飛んだ事を言ってのける。まーた始まった、と頭を抱えて月花は異議を唱えた。

「ちょっ桜花!今までの話を聞いてたの?敵の数は百人だよ百人!いくら私達でも二人だけじゃあ無謀すぎるって!」

「なに月花、ひょっとして怖気づいてる?やってやろうよ!私らで百人斬りー!」

月花は桜花の思いつきが招くこの手の厄介事には何度も振り回されているが、今回ばかりは規模が違った。

「そうですか、なら貴女方にこの件は全部おまかせしましょう。こちらに呼ぶはずだった戦煌刀士達には後ほど応援は必要なくなった、と連絡しておきます」

月花がおろおろしているうちに、応援は来ない方向で決まった。

ゲイゼンは二人の心配などしていない。そこで死ぬようであれば彼女達はそれまでの器だったとしか思わない…他に才能のある戦煌刀士を見つければいい。そういうドライな考え方の持ち主だ。

「と、いうことでそこの少女は私がオプロアスまで連れて行きましょう。私も本部に仕事を残してきたままなんでね、丁度いい」

白金髪の少女を連れて行こうとするゲイゼンを桜花は静止する。

「ノンノン!おじさんと女の子の二人旅なんて許可出来るわけないでしょう。ただでさえこの子は男共にひどい目に合ってるんだよ。怪しさ全開の中年おやじなんかと行かせる訳ないじゃん!そういうことでそれまでは私達と一緒に行動、いいよね?」

桜花は少女の肩に手を置いて同意を求める。少女は若干困惑の表情を見せるが他に行くあてもないのでこくり、と頷いた。

「今日はもう遅いし、私達はリーヴの町に戻って泊まっていくから。というわけでおやすみ。ゲイゼン」

去っていく少女達を見送るゲイゼンは煌女探知機を取り出し、白金髪の少女を覗き込んだ。仕事柄、ゲイゼンは初対面の煌女の才を確認する癖がついている。煌女の才能を見出し、戦煌刀士にスカウトするのも彼の仕事の一つ。大地に宿る煌力が強すぎるあまり自然災害が頻出しており、簡単には近寄れないとされる東の豪煌地帯の出身者とあれば尚更気になって仕方ない。そして彼は少女に流れる異様なまでの煌の力に驚倒する。

「こッ…これはッ!なんだ…彼女を流れるこの溢れんばかりの煌力(きりょく)は……まるで、”煌姫(きらめき)”レベルじゃあないかッ!」

ゲイゼンの口元が笑顔によって歪んでいた。



森林地帯の薄暗い夜道を三人の少女はリーヴの町に向かって歩いている。

つい先程までNo.1、イチと呼ばれていた白金髪の少女は周囲を警戒しながら二人の少女の後をついていく。

目につくもの全てが新鮮だ。これが外の世界…

暑苦しかった倉庫の中とは違い涼しく、澄んだ空気、風当たりが良くて気持ち良い。まるで、優しい力に包まれているみたいだ。

しかし、今まで石畳の廊下ばかり歩いてきたせいか、土の上を歩く事すら初めての経験で歩行もよれよれだった。バランスを崩し倒れそうになる彼女を月花は抱きかかえた。

「ちょっと!大丈夫?」

「そっか、この子昨日までずっとあの倉庫の中に閉じ込められてたんだっけ…どーれ。お姉さん達が肩を貸してあげよう。なぁに、遠慮する事はない。にっしっし」

桜花が少女に微笑むと、少女は俯き恥ずかしげにぼそっと呟いた。

「…ありがとう」

少女は二人の肩を借り、歩いていくうちにリーヴの町に到着した。

町中ちょっとしたお祭り騒ぎになっているようだった。さらわれた煌女達が全員戻ってきたのだそうだ。

遠くからその様子を見て安心する桜花と月花。そこに見覚えのある人物が声をかけてきた。二人が昼に立ち寄った甘味処の店主だ。

「あんたたちがあの子らを助けてくれたんだろう!?ありがとう。この町を救ってくれて…全く、情けないね。あんたたちより何倍も生きているババアや大人共がこんな体たらくで…でも、皆を責めないでおくれ。あいつらが怖くてどうすることも出来なかったんだ…」

店主が自分を含めた町の大人達の不甲斐なさを申し訳なさそうに嘆き、涙を流し礼を言う。

「いいって別に。それに…まだ終わってないよ。この町は完全に救われた訳じゃない…」

そう、今回二人が倒したのはほんの一部の末端構成員でしかない。

「今回退治した奴らはただの下っ端。またすぐに別の奴がここに送られてくるかもしれない…組織そのものをぶっ潰さないとダメなんだ…だからさ私達、明日そいつらのアジトまで行って全員ぶったぎってくるの。任せて、こんなナリでも私達結構強いんだから…」

「何から何までお前さん達に助けてもらってばっかりだ…お詫びといっちゃなんだが…これ、受け取っておくれよ」

二人は店主から感謝の気持ちと容器一杯に詰め込まれた団子を受け取った。

「やったぁ!お団子だぁ!これさえあれば明日は絶対に勝てるよ。ところでおばちゃん。聞きたいことがあるんだけどさ…」



甘味処の店主に教えてもらった場所まで行くと、民宿が目に飛び込んできた。若干古い建物であったが、町には宿がここしかない為、文句を言ってなどいられない。

宿に入ると、女将が快く迎え入れてくれた。どうやら町を救った二人の少女の噂はここまで広まっていたようだ。

女将に部屋を案内され、部屋に入るなり二人は勢いよくベッドへとダイブした。

「ふぅあーーー!ひと仕事終えたあとのふかふかのお布団は最高だね」

「でもさ、ここお風呂ないのが残念だよね」

「んーー。じゃあオプロアスに向かう前にオーガベルツ寄ろうよ。あそこの温泉は気持ちいいらしいよー」

二人が一息付いているのをよそに、少女は俯いたまま玄関に立ち尽くしている。心に深い傷を負っている少女はなかなか心を開こうとはしない。

「ほーら、そんなとこいつまでも突っ立ってないでこっちに来て一緒に寝よ。とりあえず…今はこれまでの事を忘れてさ」

桜花はベッドに横になりながらベッドに手招きすると、

「忘れる?そんなこと出来る訳ない…」

「辛かったよね…でもキミはこれからもう自由!辛い事をいつまでも引きずる必要なんてないんだよ」

「だって私…大切な友達が死んでしまったのに何も出来なかった…!口では守ってあげるとか偉そうな事言って、彼女が前々から苦しんでいた事にすら気付かなかった!最低だ…」

少女は初めて感情をむき出しにして叫び、自棄になっているようにも見える。威圧され気味な桜花に対し、月花は少女に近づいて優しく抱き締めた。普段は人見知りで桜花以外の人間とあまり関わろうとしない月花だが、子供に関しては別のようで桜花よりも扱いが上手い。

「でもその子は君がそんな気持ちを背負ったまま生きていくのを望んでないと思うよ。友達だったんでしょ?偉そうな事言えないけどその子の分までこれからうんと幸せに生きなくちゃ」

「私…わからないよ。これからどう生きていけばいいのかなんて…」

「そんなの、これから探していけばいいんだよ。時間なんてまだいくらでもあるんだから…それにお姉ちゃん達も助けてあげる。ね、よーしよし」

月花に諭されるうちに少しずつ落ち着きを取り戻していった少女はしぶしぶベッドまで来て顔を埋めた。

「なーーんかこの子見てると、ほっとけない、っていうか守ってあげなくちゃって気持ちになるんだよね」

「この子私達の5歳下くらいの年齢でしょ?妹がいたらこんな感じだったのかなぁ…って」

月花はそう言うと諭し疲れたのかポーチから水筒を取り出し水をぐびぐびと飲み始めた。それを狙ったかのように

「今のやりとりだとさ、妹ってより私達の子供を諭してるって感じだったよね月花は」

と桜花がからかうと月花は口に含んでいた水を勢いよく吹き出した。

それにしてもこの二人は本当に仲がいいな、と横目でそのやりとりを見ていた少女は思った。友達というよりも度々ヒカリが言っていた恋人を作る、というのはきっと二人のような関係の事を言うのだろう…等と考えているうちにヒカリとの思い出が蘇ってくる。少女は泣きそうになるのをこらえ、一足早く眠りについた。



早朝、三人は沢山の人だかりに見送られ町を出ようとしていた。

昨日まで一緒に倉庫の中で過ごしていた少女の姿もあった。名をティファニーといったその少女は、白金髪の少女に話しかけてきた。

「イチ。なんならこのままこの町に残ってもいいんだよ。あの後、イチの事をママに話してみたの。そしたらイチの面倒も見てくれるってね、ママが…」

「うん、ありがとうティファニー。気持ちはうれしい。でもいいの。私、これからなにをしたいのか、自分で見つけてみようと思うんだ…だからごめんね」

「…そう。応援してる。たまには手紙書いてよね」

「ティファニーも、元気でね…」

そうして三人はリーヴの町の人々に別れを告げ、クルジアンに向け旅立った。

開けた広い場所まで歩くと、二人はポーチから掌程の大きさの木造の球体を取り出し、中心部に配置されたボタンを押した。

すると球体はみるみるうちに馬の姿へと形を変え、少女達が乗れるサイズまで大きくなった。

煌木馬(きらめもくば)。煌の濃度が高い東の地域に生えている特別な木によって造られた発明品である。

桜花の駆る白い木馬は風迅(フウジン)、月花が駆る金色の木馬は雷迅(ライジン)と名づけられている。

二人は煌木馬を町間の移動手段にしている。町中や森と言った狭い場所での使用は限られたが、町間の開けた道であれば煌木馬での移動が可能だ。

二体の煌木馬は少女達を乗せ、広大な自然の広がる大地を駆けていく。少女は雷迅を駆る月花にしがみついている。

薄暗かった昨夜とは違い、今は太陽の光が大地を照らしている。強い日差しにまだ慣れない少女は月花の背中に顔をひそめた。



二時間程して三人はクルジアンの町に到着した。そこでも桜花はリーヴの町と同じような息苦しさを覚えていた。クルジアンは立派な建物がそびえ立つ都会といった風貌であったが、リーヴ以上に活気がない。それ程までに奴らの影響力にある町だということを感じずにはいられなかった。

早速奴等の拠点まで向かおうとする二人だが、少女を戦場まで連れ回す訳にもいかない。しゃあないなと思い桜花は誰もいないはずの建物の隙間に大声で叫んだ。

「ゲイゼーーン!オプロアスに戻ったんじゃなかったのーー?なんで付いてきてるのかなぁ」

するとそこからゲイゼンがひょっこりと現れた。組織の重役だというのに寝室鬼没に姿を見せるこの男はなんとも得体がしれない。

「やれやれ、お見通しでしたか」

「ゲイゼンは私達のストーカーなの!?付いてこないで欲しいんだけど…」

桜花とのイチャラブ道中を変態じみた中年野郎に邪魔されたくはない月花はいらついている。そんな月花の様子をよそに要件を言う。

「ちょっとこの子、預かっててよ。二時間もあればカタがつくと思うからそれまで、ね」

「おやおや、怪しさ全開の中年おやじに預けるのは不安ではなかったのですか?」

「それでも戦場に連れ回すよりはマシでしょう。それに……ね。…ちょっとでも彼女に何か変なことを吹き込んだりしたら……ゲイゼンもぶった斬っちゃうから」

桜花はゲイゼンを睨みつけ、殺気を込めて言い放った。

「ははは…怖い怖い。そんな事しませんって」

若干の不安は残るが、少女をゲイゼンへと預けた二人は、昨夜渡された地図に記されたグルファクシ組の拠点へと向かった。



「たのもーーッー!」

桜花は大声と共に二人は堂々と正面からグルファクシ組の本部かと思われる、金色の立派なたてがみを持つ馬の像が出迎える成金趣味全開な建物のドアを蹴り破る。桜花の口には昨日甘味処の店主に貰った団子を口に含んでいた。既に外で見張りをしていた男達は二人に斬られ、後ろから白と金、2色の花びらが舞っている。

建物に入ると広大なエントランスが広がっており、すぐに数名の男達が二人を囲むようにして現れた。

「なんだてめえらは…。そうか…リーヴの奴らと連絡がつかねぇと思ったら…てめえらの仕業かぁ」

男達は下品な言葉使いで二人を威圧する。全く物怖じる事もなく桜花は口に含んだ団子の串をポイッと捨て

「そゆこと。ってな訳で貴方達も成敗させていただきます」

と宣戦布告をした。

次々と組員が集まり、いつの間にか数え切れない程の男達に囲まれていた。確かにゲイゼンが言っていたとおり、百という数に間違いはなさそうだ。

「てめぇら、たった二人で乗り込んでくるとは命知らずにも程があるぜェ?俺達をただのチンピラとは思わないこったな、ヒヒヒ」

「いゃあ、どう見ても三流のチンピラでしょう…ブサイクな煌喰らいの皆さん」

「ご存知じゃねぇか…」

桜花が挑発すると同時に安い挑発に乗った男達の姿が次々と煌喰らいへと変異していく。それに答えるかのように、二人は名乗りを上げる。

「私は戦煌刀士。星ノ(ほしのかわ) 桜花…17歳。好きな食べ物は…スイーツ、全ッ般」

「私は戦煌刀士。愛上扇(あいうえおうぎ) 月花…17歳。好きなものは……」

桜花に続き月花も名乗りを上げる、と途中で大きく息を吸い、次の瞬間

「桜花、だぁぁぁぁああああああああああ!!!」

今まで見たことのない大量の煌喰らいに圧倒された月花は、下手をすればこれが最後になるかもしれないと思い、悔いがないように敵地のど真ん中で叫んだ。

「あ…の…月花さん…!?何言っちゃってんの?」

隣にいた桜花も流石にこれにはびっくりしたのか、赤面していた。いつもの名乗りでは好きな食べ物、酢こんぶ!とか言ってるじゃん!と頭の中でツッコミを入れた。

周囲の煌喰らい達も突拍子もない月花の告白に驚きを隠せない様子でこちらを見ていた。

桜花が月花に目をやると、手が震えていた。

「なに月花、震えてるよ。やっぱ怖いんじゃん。なんなら今から一人で逃げちゃってもいいんだよ?」

「いいや、きっとこれは武者震い…なんだか、緊張通り越して興奮してきた。」

大胆な告白により月花の変なスイッチが入ってしまったようだ。

「それに…桜花残して一人だけ逃げられるわけないでしょ!」

「知ってる、んじゃいっちょ暴れますか!」

そう言うと、桜花は全力で敵の群れに突っ込んだ。



一方、クルジアンの町中に残されたゲイゼンと白金髪の少女は二人の帰りを待っている。気まずい雰囲気にもやもやする少女に対し、ゲイゼンは目の前のダイヤの原石に目を輝かせている。ゲイゼンはおそらく自分の魂胆がまるわかりであろう桜花に念を押されていたが、そんなことは全く気にしていない。

桜花も月花も相当な煌才の持ち主だ。二人共平均的とされている煌女の三倍の才を持っているとするならば、彼女はさらにその倍近い才を持っている。この少女が戦煌刀士になれば、きっとこれまでで最強の戦士になる。見てみたい。戦煌刀士としての彼女の未来…そう考えると震えが止まらなかった。

「キミはこれまで散々あのバケモノ共にひどい目に合わされてきたんだったね。どうだ、奴らに復讐したくはないか…力が欲しくはないか…?」

「力…?」

「そうだ…君が戦煌刀士になれば、あんなクズ共簡単にねじ伏せられる。もう力のなさに嘆く事もない」

「戦煌刀士…私も、なれるの?あの二人のように…」

「ああ…付いてきなさい。君に見せてあげよう、戦煌刀士の真髄を」



助走をつけたまま桜花は刀”虎王丸”を抜き、すかさず駒のように回転し目にも見えないような速さで近くの煌喰らい達をバッサバサとなぎ倒していく。倒れた煌喰いは花びらの塊へと変わり炸裂していく。

アクロバティックに動き回って戦う桜花に対し、月花は先程の緊張が嘘のように冷静な顔つきで近づいてきた煌喰らい達をまるで時代劇の殺陣のように切り捨てていく。二人の双花の戦闘スタイルは真逆で、静の月花、動の桜花といったところだ。

散っていく白と金、二色の花びらが交わり花吹雪が舞い上がる。これが二人の異名、”白金の双花”の所以だ。

花吹雪を起こしながら戦う着物の少女達にに美しさすら感じる煌喰らいもいた。そう思った瞬間には、少女達を彩る花びらの一部へと姿を変えていた。

あっと言う間に半分程の煌喰らいを斬り散らかした所で二人の背中がぶつかり、お互い寄りかかった。

「ごめん、ちょっと休憩。月花…背中、ちょっと貸して」

「私も…やっぱり二人で百人相手は結構きつい」

二人はお互いに背中合わせで一息をつく。疲労を感じ取ったのかチャンスとばかりに煌喰らいも攻めの手を強める。迎え撃とうと桜花が刀を向けると、煌喰らいはその巨大な口で刀に噛みつき動きを止めた。まさかの出来事に桜花は驚き刀から手を離す。煌喰らいは刀を口で抑えたまま桜花に殴りかかろうと拳を振るう。とそこに

「桜花に……手を出すな!」

月花は間に割って入り、大胆に煌喰らいに蹴りを入れる。蹴りは桜花の刀”虎王丸”の(かしら)の部分へと当たり、虎王丸はそのまま煌喰らいの内部に押し込まれ顔を貫く。また、とっさの蹴りを行った事で月花の背後もがら空きになり、煌喰らいが飛びかかり月花に狙いをさだめる。月花の蹴りにより絶命し、花びらへと変化中の煌喰らいから虎王丸をすかさず抜き取った桜花は、「ちょっと肩借りるよ!」と月花の肩を足場にして跳躍し、空中の敵を斬り裂いた。

桜花と月花、それぞれ凄腕の戦煌刀士であるが、その真価は二人の息の合ったコンビネーションにより発揮される。二人はお互いの死角を埋めるよう戦い、欠点や死角をカバーし合い戦っていく。

煌喰らいも残り数える程度、とまで減った所で建物内に大きな地響きが鳴り渡る。エントランスの奥から、二人の三倍程はある大きさの人型重機が現れたのだ。重機、と言っても身体のあちこちに刺々しいスパイクが装着されている戦闘用に特化したような代物であった。

人型重機に装着されているスピーカーから、彼らのボスらしき男の声がした。

「てめぇらッ、よくもやってくれたな!俺がここまで育て上げてきたグルファクシ組がたった数十分で壊滅寸前だ…ただじゃ済まさねぇ!これからも煌晶を裏で売りさばいて金儲けするハズだったのに、全部パァになっちまった!」

「…出たよ、分かりやすいボスキャラ」

桜花はため息をつき、二人は仕切り直し刀を構える。若干の沈黙の後、両者は同時に動き戦闘が開始される。桜花と月花は二手に分かれ、人型重機に挟み撃ちをかける。二人の動きは人型重機よりも圧倒的に素早く、人型重機も豪快に拳を振り回し攻撃を繰り出すが反応が追いつかない。二人はスピードで翻弄し、ヒット&アウェイの要領で鋼鉄の塊を斬り刻んでいく。そのさまはまるで疾風迅雷。斬撃の度、金切り音がエントランスに響き渡った。

その様子をゲイゼンと少女は建物のガラス越しから観察していた。既に他の構成員は逃げたか花びらへと姿を変えており、建物付近に構成員は誰ひとりとして残っていなかった。

人型重機がとっさに放った拳のひと振りが二人を吹き飛ばすが、空中で回転を行いながらすたっと着地する。

「ちょっと今のはまともに食らっていたら危なかったかも…」

月花が冷や汗を額から流し呟いた。かすっただけでも通常の人間であれば即死は免れないような攻撃だ。

「すごい…どうしてあんな攻撃を受けて平気でいられるの!?」

「戦煌刀士が身に纏う着物、それが戦煌装束。煌女に宿る煌のエネルギーを引き出し機動力、防御力へと変換し身体を守る…大地の加護を受けた戦衣、いや、鎧と言った方がいいのかもしれないな」

二人の戦いに釘付けになっている少女に、ゲイゼンはまるで実況するかのように概説していく。

「…桜花。このままやっても埒があかない」

「それならっ!」

桜花はスライディングして人型重機の死角へと潜り込み、関節の隙間を狙い、突き上げるように左腕を切断した。左腕は地面に転がり落ち、騒々しい機械音を轟かせた。

「戦煌刀士の刀は煌晶と様々な金属を混ぜ合わせた特殊合金”煌鋼(キラハガネ)”により造り上げられた特注品だ。その切れ味は同じ煌の性質に反発を起こし威力を高め、煌喰らいとの戦いにおいて真価を発揮する…しかし、今回の相手はただの鉄屑、そういった相手には通常の刀としての力しか発揮できず少々分が悪い、か…」

「そ、それじゃあこのまま戦っても…」

「フフフ…まぁ見ていたまえ。ここからが彼女らの本領発揮だ」

「さぁてと。久しぶりにアレ、決めちゃいますか…!行くよ、月花!」

桜花が叫ぶと、二人は迎合わせになり刀をクロスさせるように重ね、それと同時に白金色の光が二人を包み込む…同時に外にいたゲイゼン達の周囲の風の流れが変わり、周囲の植物が活性化しまるで踊るようにざわめき出した。

「「大地…讃頌!!」」

「戦煌刀士の切り札がこの、”大地讃頌(だいちさんしょう)”。大地讃頌は戦煌刀士と大地の同調を極限まで高め、放つ事が出来るいわば必殺技…それを桜花、月花は互いの煌を合わせて放つ事が出来る。絆の力、というやつだろうか。感じるだろう?少女達に呼応するように起こる大地の共振を…まるで二人の絆を、大地が祝福しているかのようではないかッ!!フハハハハハハッ!」

光は重なった二人の刀先へと収束され、光を帯びた刀を桜花が横一閃、月花が縦一閃に人型重機へ振り払う。すると斬撃が放たれ、二つの斬撃は途中で交わり、光の獣へと姿を変える。その姿はまるで大陸に伝わる伝承上の生き物、フェンリル。人型重機は光の獣に包まれながら消滅し、周囲に舞い散る白金色の花びらが戦いの終わりを告げた。

激闘を終えた二人はハイタッチを交わし、その場に倒れ込んだ。既に立っているのがやっとといった状態である。と、そこにゲイゼンと白金髪の少女が現れた。



「二人共ご苦労さん。いやぁすごいすごい…本当に二人でグルファクシの奴らを壊滅させてしまうなんて。心配になって見に来てしまったが…杞憂だったようだ。ところで…彼女からお話があるようなんだがね」

ゲイゼンは拍手をしながら演技じみた話し方で二人を誉め、そして少女を二人の前に通した。

「桜花さん、月花さん。私、戦煌刀士になろうと思う。私には才能があるんだって、この男の人が言ってたの」

どうせゲイゼンが彼女の心の隙にでもつけこんでそそのかしたのだろう、と桜花はため息をついた後ゲイゼンを睨みつけ、強い口調で言った。

「ゲイゼン、余計な事吹き込んだらぶったぎるって言ったよね?」

「だって仕方ないじゃあないか。これも私の仕事の一つ。これだけの才能の持ち主、ハルモニア・ソードの重役として放っておける訳がない…で、どうするんだ二人共」

ゲイゼンは悪びれる様子もなく、ニヤニヤとしている。まさに計画通り、といった表情だ。

二人はなんとなくではあるが、ゲイゼンにそそのかされなかったとしても少女がいずれそう言い出すのではないかとどこかで思っていた。これまで暗闇の中に閉じ込められ、散々酷い目に会わされ友達まで失った少女…戦う理由は充分にある。復讐の為に力を求め刀士になった…なんて者も珍しくない。二人は少女にそういった道に進んで欲しくなかった。

少女は地面に横たわる二人を前に強い決意を秘めたような瞳で見つめている。若干の沈黙の後、桜花は問いかける。

「それは本当に自分の意思?そこの中年おやじにたぶらかされたんじゃなくて?」

「決めたのはちゃんと自分の意思!もう、力がないせいで悔しい思いをしたくない。ヒカリみたいな子を守る為の力が欲しい…そして、私を暗闇の中から救い出してくれた二人のヒーローみたいな生き方をしてみたい!そう思ったの!」

「ん?ヒーロー…?」

少女は倉庫の中でヒカリから沢山のおとぎ話を聞かされていた。悪い奴等に国を乗っ取られた一国の王子が魔法の鎧を手に入れて国を取り戻す話。また、ドラゴンと契約した青年が同じ力を持った者同士の争いを止める為に戦うといった話、そんな英雄達の話を聞いているうちに、少女はヒーローになる事を夢見るようになったのだ。

それを聞いた二人は目を合わせ、大声で笑い合いながら少女を見た。

「守る為の力にヒーローかぁ、なんだか私達が戦煌刀士になった時の事を思い出しちゃった」

安心したような口調で月花は言った。決して少女は力を仇討ちや復讐といった事に使う考えの持ち主ではなかった。きっとこのようにまっすぐで正義感の強い性格になったのは、少女と一緒に倉庫で過ごしていたという友達の影響もあるのだろう。

「それなら良し、かな。でも、これからもっと辛い困難が待ち構えているかもしれない…茨の道かもしれないよ?」

桜花もあっさり少女の決意を受け入れた。何故ならばかつて二人もヒーローに憧れて戦煌刀士の道を目指したからだ。二人は、少女に戦煌刀士になったばかりの自分達を重ねていた。

「ゲイゼン、この子の面倒は私達が見る。いいよね?」

「ふっ、もとより君らに託すつもりでいたよ…本来なら”アカデミア”で戦煌刀士の認定を受けなければいけないのだが今回は特例です。この子は貴女方以上の煌才の持ち主だ。学園等という生ぬるい環境では力が余る。それよりも、だ。現在の戦煌刀士、ナンバー2・3の実力の持ち主、白金の双花に教育を任せた方が彼女の才能が更に花開する。そう判断した」

「よろしくお願いします。桜花さん、月花さん」

「桜花…さん、か。なんか硬っ苦しいのは苦手なんだよなぁ…呼び捨てでいいよ!双花(そうか)!」

双花……一瞬自分の名前のように呼ばれたその言葉。それを聞いた時、彼女の身体を電流のような衝撃が走った。

月花は彼女に近付き髪を優しく撫でながら言った。

「双花が眠った後ねぇ、名前…何が似合うかなあって話題で盛り上がったの。そうしたら二人の意見がぴったり合って。貴女のこの綺麗の髪の色、白金色(しろがねいろ)って言うのよね。私達も二人で白金の双花って呼ばれているの。そこから取ってみたんだけど…どう、かな?」

気づけば昨日まで名前のなかった少女、双花は涙を流していた。これまで、悲しみや悔しさで流してきた涙ではない。嬉しさで目頭が熱くなった。こんなのは初めての感覚だった。

「あれ?気に入らなかった!?ど、どうしよ桜花!」

「違う…嬉しいの。嬉しくてたまらない。双花…それが、私の名前」

「よかった、気に入ってもらえたよ!桜花!」

「当然じゃん。私達が付けた名前だよ」

二人はまるで自分の事ように喜び、抱き合っている。

「と、いうわけでこれからよろしくね。それじゃ行こっか。双花!」

「うん!」

二人から手を差し出されると、双花は笑顔で答え力強くその手を握った。

そうして、3人の旅は始まった。彼女たちの行く先を太陽の”ヒカリ”が照らしていた。





ここまでがプロローグです。まだまだ続く予定です某特撮ヒーローのように序章で終わる事のないようにがんぱります。…更新ペースは遅いですが。

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