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こんな夢を観た

こんな夢を観た「バンパイアの訪問販売」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/10/06

 日が暮れてだいぶ経った頃、玄関のチャイムを鳴らす者があった。

 誰だろう、とドアを開けると、見たところ20代前半の女性がニコニコしながら立っている。

「こんばんは。お忙しいところを申し訳ありません。わたしくし、こういう者です」そういって、パンフレットを手渡された。


〔あなたも今日からバンパイア! さあ、他人の血を吸って、永遠の命を我がものにしましょう!〕


「これって、本か何かの販売ですか?」わたしは聞いた。

「いいえ、違います。あなたご自身がバンパイアになっていただく、という商品でございます」相手は答える。

「えー、ドラキュラになれるんですか?」

「『ドラキュラ』は商標でして、それはルーマニアの専売特許なのでわたくし共では取り扱っておりません。あくまで『バンパイア』、つまり吸血鬼ですね」

 そう訂正されてしまう。


 保険の勧誘と同様、契約することで、誰でもバンパイアになれると言うのだ。

「でも、そんなものになってどうするんですかぁ。何か得でも?」わたしは首を傾げる。映画の中では、バンパイアはたいてい悪者だし、嫌われている。物語の結末では、主人公に倒されてしまうのがオチである。

「そりゃあ、あなた。なんてったって、不老不死ですよ? 人の血をすすってさえいれば、いつまでだって生き続けられるんです」女性は言ってのける。「わたしをご覧下さい。何歳に見えますか?」

「22か23くらいですか?」わたしはお世辞なしで答えた。女性は我が意を得たり、とばかりに目を細める。

「わたし、今年で53歳になるんですよ。これも『バンパイア効果』の1つです。どうです、素晴らしいでしょう?」


「じゃあ、あなたもバンパイアなんですか。えー、びっくりですね」正直、わたしは本当に驚いた。バンパイアなんて、ただの絵空事かと思っていたのだから。

「期間中につき、今なら大出血サービス中です」女性は畳みかけるように言う。

 「出血」どころか、自分が吸う方なのに、とおかしくなった。けれど、不老不死で、いつまでも若いままというのは、確かに惹かれる。

「契約しちゃおうかな」わたしは言った。

「ありがとうございます。では、さっそく……」言うが早いか、いきなり抱きついてきて、わたしの首にかぶりつく。

「痛いっ!」いきなりだったので、思わず悲鳴を上げてしまった。

「大丈夫です。一口だけすすって、代わりにわたしの『バンパイア抗原』を注ぎ込んだんです。あなたも今日からバンパイアです。発症するまでは、まだキャリアですけどね」


「何日くらいでバンパイアになるんですか?」噛まれた首筋をさすりながらわたしは尋ねる。

「平均的な人ならば、だいたい3、4日といったところですね。それまでの間、この取扱説明書に目を通しておきますよう、お願いします」そう言って、小冊子をくれる。かなりの厚みがあった。

 中をパラパラッとめくる。注意事項が箇条書きで記されていた。

「その1、バンパイアはニンニクを食べてはなりません……」わたしは声に出して読んだ。「えっ、あの。ニンニク料理もダメなんですか?」

「もちろん、いけません」当たり前でしょっ、と言うようにうなずく女性。

「そんなぁ。ニンニクをたっぷり使ったペペロンチーノとか大好きなのに」わたしは情けない声を出す。

「とにかく、ニンニクはいけませんよ。体の内側から細胞が崩れていきますから」


「その2、紫外線はお肌の大敵です。特に日光」日光浴もダメなんだ。海にも行けやしない。

「そうそう、日光は絶対に避けて下さい。昼間はカーテンを閉め切って、出歩くのは夜だけにすること。これ、重要ですから」

「それじゃ、買い物にも出られないじゃないですか。大きめの帽子をかぶって、長袖じゃまずいですか?」すがるように聞く。

「耐火服さえ着ていれば、マグマの中でも平気でしょうか? そんなことありませんよね。それと同じ事です。少しでも日の光を皮膚に受けたら、あっという間に灰になりますよ。どうぞ、お気をつけ下さい」


 他にも、「十字架には触れないように」「教会へは近づかないで」「コウモリは友達です。可愛がりましょう。ただし、有名なあのヒーローは例外です」などなど、制限ばかりだった。

「こんなんじゃ、生活に支障をきたします。やっぱり、キャンセルしたいんですけど」わたしはおそるおそる申し出る。

「キャンセルですか……」相手は溜め息混じりに言う。

「だめですか?」

「あ、いえ。もちろん、可能でございます。幸いにも、お客様はまだバンパイアになっていませんので。わかりました。では、クーリングオフということで本社には連絡を入れておきます。明日、解約手続きのために、そちらの担当の者をよこしますので」


 バンパイアの訪問販売勧誘は帰っていった。

 それにしても、吸血鬼というのは、あれで中々大変な商売なんだなあ。もっと、自由気ままに生きているのかと思っていた。

 以来、映画にバンパイアが登場するたび、

「がんばれ、あんたらの生活がけっこう厳しいってこと、ちゃんとわかってるからねっ」

 思わず、声援を送ってしまう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして! 作品読ませて頂きました。ありえない話なのに淡々と現実的に進んでいくのが面白かったです! 「じゃあ、あなたもバンパイアなんですか。えー、びっくりですね」という台詞が個人的にはつ…
[一言] 萩尾望都大好きなので、彼らの苦労はよくわかります(笑) 聖書の言葉も聞いちゃいけないんですよね。人間社会で生活するのはなかなかの苦行だと思います。 それにしてもお茶目なセールスレディですね!…
[一言] 笑いましたw 最高です。 ドラキュラはルーマニアの専売特許とか本当に夢に出てくるんですか? それに訪問販売とバンパイアとか組み合わせが斬新過ぎます(笑)
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