表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

雪のかけら探す

 少女は、早速午後5時5分前に、雪の降り積もる自分の家の庭に出た。

上を見て、落ちてくる雪に目を凝らすも、雪のかけらは降ってこなかった。


 何日か同じことをやり、少女は気がついた。


 雪は、風に流れてあっちこっちへとふわりふわり移動する。

もし、雪のかけらが落ちてきたとき、自分の家の庭以外のところに落ちそうになり、その時に慌てて門を開けて外に出て、雪のかけらの着地点に間に合うのだろうか。

 ましてや、少女の家の前の道路は、頻繁じゃないものの、車も通る。

左右の安全を確認して外に出たのでは、間に合わないのでは。


 次の日から、場所を近くの公園に変えた。ここなら広くて、どこに落ちてこようと気にしなくてもいい。

 5時5分前に公園へ行って上を見上げても、雪のかけらは落ちてくる気配がない。


 もしかしたら、5時ピッタリではなく、5時台かもしれない。少女は、6時まで公園にいた。それでも、雪のかけらは落ちてくる気配がなかった。


 そんなことをしている間にも、少女の母親は日を追うごとに悪くなっていく。少女が行くたびに、元気がなくなっていくのがわかる。


 奇跡を起こさないと。奇跡を起こしてお母さんを助けないと。


 少女は、その思いでいっぱいだった。だから、毎日公園へ行って、必死に落ちてくる雪を見た。


 そしてその日はやってきた。


 少女の住む街は、5時になるとチャイムが鳴る。そのチャイムが鳴り始めたとき、空からキラキラと虹色に光るものが、風に運ばれながら落ちてきた。


 きっとあれが雪のかけらだ。そう思い、両手を上に伸ばし、移動しながら、雪のかけらをとった。

 やった。これをマスターにもっていけば、奇跡が起こる。

しかし、雪のかけらは、少女の手袋の中で静かに溶けていった。雪だから、溶けるのは当たり前なのだ。

 でも、少女は悔しかった。ここまでくるのに何日もかかったのに。


 少女は、あの喫茶店に行った。マスターに雪のかけらを見つけたことを報告するために。でも、雪のかけらは手元にない。それだけが悔しかった。

「雪のかけらを見つけることがてきたのですね。」

マスターは微笑んでいた。そして、少女にココアを入れた。

「見つけるだけでも、すごいことなんですよ。持ってこれればもう奇跡ですね。これからは、もっと見つけやすくなりますよ。」

どうすれば、持ってくることができるのだろう。


 次の日から、直接手で触れると溶けるから、小さい入れ物を持っていった。

いつものとおり、いつもの時間に空を見た。

 キラキラと光る雪が落ちてきた。

 よし、今度こそ。

少女は入れ物を上に持ち上げて、雪のかけらは静かに入れ物の中へ。


 とれた。早くマスターのところへ。


 しかし、マスターのところに行くまでに、少女の手の体温が入れ物に伝わり、溶けてしまった。

喫茶店についたときには、入れ物の中に1滴の水が入っていた。

「でも、これはいいアイデアですね。気持ちが伝わってきます。」

 マスターは少女にココアを入れて励ました。


 次の日から、温めたら溶けるから、小さいクーラーボックスを持っていった。保冷剤もいくつも入れて溶けないようにした。

 雪のかけらをとり、急いでクーラーボックスに入れた。そしていそいでマスターのもとへ。


 しかし、出したと同時に雪のかけらは溶けていた。


冷凍庫のように凍らせるぐらい温度を下げないと溶けてしまう。クーラーボックスではそれは無理だ。

でも、少女は諦めたくなかった。

 どうすれば、冷凍庫のような状態に保ったまま持っていけるのか。


 次の日、一晩冷凍庫にいれた金属製の入れ物を持っていった。その入れ物はギンギンに冷えていた。

いつものように雪のかけらが降ってきた。入れ物の中に雪のかけらをいれ、急いでクーラーボックスにいれ、急いでマスターのところへ。


 喫茶店で冷凍庫を借り、そこでそおっと入れ物を出し、雪のかけらを見た。


 かけらは、虹色に光ったまま残っていた。

 やった。これで奇跡が起こせる。お母さんを助けることができる。


「これで、奇跡が起こるね。ありがとう。」

少女はマスターにお礼を言った。しかし、マスターは

「もう、奇跡が起こっていますよ。」

と言って微笑んだ。

 奇跡が、起こっている?

「正確にいえば、あなたが奇跡を起こしたのです。この雪のかけらを持ってくるという奇跡を。」

 意味が分からなかった。雪のかけらを持ってくる奇跡じゃなく、お母さんを助ける奇跡は起こらないの?

「奇跡は、待っていれば起こるものではありません。みずからの手で起こすものなのです。」

 少女は、意味が分からなかった。ここまで頑張ったのに、自分の力で起こす物って言われても…。

「あなたは、いろいろな困難があったのにもかかわらず、それを自分の力で乗り越え、雪のかけらをここにもってくるという奇跡を起こしました。この奇跡は、あなたの努力の結果が起こしたものです。」

 確かに、諦めそうにもなったけど、母親を助けたい一心で雪のかけらを持ってきた。

「雪のかけらを持ってきたあなたなら、お母さんを助ける奇跡を起こせます。」

 結局、雪のかけらを持ってきても母親が助からないのは分かった。

でも、少女は満足だった。奇跡は願っていて起こるものではない。自分が動かないと起きないものと分かったから。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ