雪のかけら探す
少女は、早速午後5時5分前に、雪の降り積もる自分の家の庭に出た。
上を見て、落ちてくる雪に目を凝らすも、雪のかけらは降ってこなかった。
何日か同じことをやり、少女は気がついた。
雪は、風に流れてあっちこっちへとふわりふわり移動する。
もし、雪のかけらが落ちてきたとき、自分の家の庭以外のところに落ちそうになり、その時に慌てて門を開けて外に出て、雪のかけらの着地点に間に合うのだろうか。
ましてや、少女の家の前の道路は、頻繁じゃないものの、車も通る。
左右の安全を確認して外に出たのでは、間に合わないのでは。
次の日から、場所を近くの公園に変えた。ここなら広くて、どこに落ちてこようと気にしなくてもいい。
5時5分前に公園へ行って上を見上げても、雪のかけらは落ちてくる気配がない。
もしかしたら、5時ピッタリではなく、5時台かもしれない。少女は、6時まで公園にいた。それでも、雪のかけらは落ちてくる気配がなかった。
そんなことをしている間にも、少女の母親は日を追うごとに悪くなっていく。少女が行くたびに、元気がなくなっていくのがわかる。
奇跡を起こさないと。奇跡を起こしてお母さんを助けないと。
少女は、その思いでいっぱいだった。だから、毎日公園へ行って、必死に落ちてくる雪を見た。
そしてその日はやってきた。
少女の住む街は、5時になるとチャイムが鳴る。そのチャイムが鳴り始めたとき、空からキラキラと虹色に光るものが、風に運ばれながら落ちてきた。
きっとあれが雪のかけらだ。そう思い、両手を上に伸ばし、移動しながら、雪のかけらをとった。
やった。これをマスターにもっていけば、奇跡が起こる。
しかし、雪のかけらは、少女の手袋の中で静かに溶けていった。雪だから、溶けるのは当たり前なのだ。
でも、少女は悔しかった。ここまでくるのに何日もかかったのに。
少女は、あの喫茶店に行った。マスターに雪のかけらを見つけたことを報告するために。でも、雪のかけらは手元にない。それだけが悔しかった。
「雪のかけらを見つけることがてきたのですね。」
マスターは微笑んでいた。そして、少女にココアを入れた。
「見つけるだけでも、すごいことなんですよ。持ってこれればもう奇跡ですね。これからは、もっと見つけやすくなりますよ。」
どうすれば、持ってくることができるのだろう。
次の日から、直接手で触れると溶けるから、小さい入れ物を持っていった。
いつものとおり、いつもの時間に空を見た。
キラキラと光る雪が落ちてきた。
よし、今度こそ。
少女は入れ物を上に持ち上げて、雪のかけらは静かに入れ物の中へ。
とれた。早くマスターのところへ。
しかし、マスターのところに行くまでに、少女の手の体温が入れ物に伝わり、溶けてしまった。
喫茶店についたときには、入れ物の中に1滴の水が入っていた。
「でも、これはいいアイデアですね。気持ちが伝わってきます。」
マスターは少女にココアを入れて励ました。
次の日から、温めたら溶けるから、小さいクーラーボックスを持っていった。保冷剤もいくつも入れて溶けないようにした。
雪のかけらをとり、急いでクーラーボックスに入れた。そしていそいでマスターのもとへ。
しかし、出したと同時に雪のかけらは溶けていた。
冷凍庫のように凍らせるぐらい温度を下げないと溶けてしまう。クーラーボックスではそれは無理だ。
でも、少女は諦めたくなかった。
どうすれば、冷凍庫のような状態に保ったまま持っていけるのか。
次の日、一晩冷凍庫にいれた金属製の入れ物を持っていった。その入れ物はギンギンに冷えていた。
いつものように雪のかけらが降ってきた。入れ物の中に雪のかけらをいれ、急いでクーラーボックスにいれ、急いでマスターのところへ。
喫茶店で冷凍庫を借り、そこでそおっと入れ物を出し、雪のかけらを見た。
かけらは、虹色に光ったまま残っていた。
やった。これで奇跡が起こせる。お母さんを助けることができる。
「これで、奇跡が起こるね。ありがとう。」
少女はマスターにお礼を言った。しかし、マスターは
「もう、奇跡が起こっていますよ。」
と言って微笑んだ。
奇跡が、起こっている?
「正確にいえば、あなたが奇跡を起こしたのです。この雪のかけらを持ってくるという奇跡を。」
意味が分からなかった。雪のかけらを持ってくる奇跡じゃなく、お母さんを助ける奇跡は起こらないの?
「奇跡は、待っていれば起こるものではありません。自らの手で起こすものなのです。」
少女は、意味が分からなかった。ここまで頑張ったのに、自分の力で起こす物って言われても…。
「あなたは、いろいろな困難があったのにもかかわらず、それを自分の力で乗り越え、雪のかけらをここにもってくるという奇跡を起こしました。この奇跡は、あなたの努力の結果が起こしたものです。」
確かに、諦めそうにもなったけど、母親を助けたい一心で雪のかけらを持ってきた。
「雪のかけらを持ってきたあなたなら、お母さんを助ける奇跡を起こせます。」
結局、雪のかけらを持ってきても母親が助からないのは分かった。
でも、少女は満足だった。奇跡は願っていて起こるものではない。自分が動かないと起きないものと分かったから。