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3.珍しい客(1)

 毎日毎日、これといった変化もなく、三月の誕生日に十七になって、もう四月が来た。

 その日も晴れていた。


 うとうととアッチェラードがうたたねをしてしまった午前十時ごろ、金属の触れ合うカチャという微かな音で目が覚めた。


 向かって右の、壁に取り付けてある棚の前に客が立っているのが、逆光の中で色彩鈍いシルエットになって見えた。


 うたたねをしてしまっていたことが恥ずかしかったが、幸いよだれが垂れていたわけでもなく、顔に跡もついていなさそうだ。


 客は静かに動かず、じっと品物を見ていた。


 珍しい客だった。


 薄い青とも緑ともつかない色のマントを肩からぞろりとかけていて、腰に長剣を吊り下げているらしい。マントのふくらみからそう思った。

 はいているブーツがまたごつい。男前さと実用性を兼ねたブーツだ。

 髪は短く明るい金髪。真昼の太陽のように白に近い明るい金髪だ。

 色が白い。北の国の人だろうか。年は十代後半だろうか。横顔の鼻が高い。


 アッチェラードは客を観察するのが好きだ。でも観察し過ぎると失礼なので、適度にしておく。


 身長はかなり高い。アッチェラードよりこぶし二つ分ほど高そうだ。


 アッチェラードは手近にあった陶器の花瓶を磨き始めた。赤とピンクの小花が描かれている。理由は分からないがあまり好みではない。いくらにしようか。


 横目で客を見た。彼は一体、何を見ているのだろうか。見ているようで見ていないような、(たたず)んでいる、という言葉がぴったりする。


 小鳥の鳴き声がした。白鶺鴒(はくせきれい)だろうか。

 アッチェラードは花瓶を再び台に置いた。


 その時、客がこちらを向いた。腰の剣がカチャリと金属音をたてた。

 一瞬、斬られるという可能性が頭に浮かんでひやりとしたが、客は会釈をすると、出て行った。

 それも屈託の無いほほ笑み付きで。


 アッチェラードは一人残された。


 危ない人じゃなくて良かった。きっと暇つぶしにのぞいてみたんだろう。


 その日は午後に、普通の客も来た。口数少なく気難しそうな、ひげの老人。太った商人風の中年の男。ガラス細工が好きそうな痩せた若い女の人。


 アッチェラードは思っていた。マントが少しふくらんで、日かげから日なたへ出ていったとき、どんな匂いがしたんだろう。

 太陽の光って細かい砂粒みたいだ。あのマントは何色になったんだろう。


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