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16.旅のしたく(7)

 アッチェラードが気を取り直して突っ込もうとしたとき、通用門が再び開き、誰が出てくるかと思えば、今度は姫の侍女らしき女性が出てきた。


「フィオーナ姫様、軽々しく城外へ出られて! それに、走ってはなりませんと申しましたのに! 王女にあるまじき、はしたない行為ですよ。もう立派なレディーなのですから」


 だが、侍女は姫の他に、魔法使いと学者の姿を見て、はっとして口を閉ざした。

 そして、見知らぬ商人の姿を見て怪訝な顔をする。


 『走ってはなりません』と言う以上は、侍女本人は走れず、姫に追いつけずに歯がゆい思いをしただろうと思う。


 侍女は一人だけではなく、全部で五人もいて、次々と出て来ては、状況が飲み込めずに沈黙し、顔を見合わせる。

 地面につきそうな丈の長いドレスたち、その布の質量にアッチェラードは圧倒される。


 姫はといえば、唇をとがらせて不服そうだ。


「だって……」


 だが、通用門からは侍女たちが出て来ておしまいかと思いきや、男性貴族もぞろぞろとついてきた。


「おお、姫こちらにおいででしたか」

「ご学問のお時間は終わられたのですか?」

「今日も一段とお美しい」


 取り巻きの貴族たちだ。


 明らかなお追従(ついしょう)に、姫もちょっと興が冷めたようだったが、すぐににこやかな微笑みに変わった。恐らく作り笑いだが、見事な微笑みだ。


「あら、みなさまおそろいで。ご機嫌うるわしゅう」


 最後に、王都ではあまり見かけない服装をした少年も登場した。

 南方ヴァルナ地方の衣装で、山羊の皮で作った上着などあまり洗練されていないが、手のこんだ刺繍の入ったブラウスは高価そうだ。


「フィオーナ姫。こちらにいらしたのですか。どうされましたか? 城外になどお出になって……」


 年は十五歳くらいか。黒い帽子の下に柔らかそうな茶色の髪をして、優しそうな目と血色の良い頬が印象的である。


 そんな人畜無害そうな少年に対しても姫は作り笑いの仮面を取らなかった。


「あら、ルステムル殿。……実は、明後日、ヴィオラ伯のお城へ行くときに骨董商人を連れていって、伯爵のお城の美術品を鑑定してもらおうということで、一度顔合わせに来てもらったのですわ」


 すらすらと話すので、アッチェラードも一瞬、「え? そうでしたっけ?」という気になったが、いやいや、ヴァルナ地方の黒魔女の館へ行くはずで、その目的地は絶対に口外無用だと思い出した。


 この青年はヴァルナ地方の貴族らしいが、だから彼には内緒なのだろうか。

 そもそもなぜ目的地を隠すのだろうか。

 そして、当然の疑問だが、いったい何をしに行くのか。


 何にせよ、嘘の設定があるのであれば早めに教えてほしい。

 あやうく、『え? そうでしたっけ?』を口にするところだった。


 それより先に、自分も旅に同行するのか??

 そこを突っ込みたいところだが、こう観衆がいると、聞くに聞けない。 

 

 だが、嘘の設定からしても、突っ込むまでもなく、一緒に行くことは既に決まっているらしい。

 くらっ……。


 アッチェラードは、『いかにも姫のおっしゃる通り』、という営業スマイルを浮かべながら、必死にめまいをこらえていた。



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