15.旅のしたく(6)
花びらに見えたのは、とても可愛らしい女の子の着ていた薄いピンクのひらひらしたドレスだった。
「あ~間に合った! あなたがアッチェラードね! お会いできて嬉しいわ! これからよろしくね!」
そう言って勢いよく右手を差し出してくるので、何がよろしくか分からないがとりあえず握手をする。
握手をした後で、あれ、本当は手を取ってひざまずくか、身をかがめてお辞儀をすべきだっただろうか? と思うが、もうしてしまったものは仕方がない。
突然のことで驚いて頭が混乱しているが、この子は姫だ。第一王女フィオーナ姫。
最近では王都を流れる運河に新しい橋がかかり、その完成記念式典に来ていた。
遠くからしか見られなかったが、間違いない。
小さく白くて卵を思わせる顔に、大きな水色の目、蜂蜜色のふわふわした髪が腰まである。年の割に幼く見えるのも可愛らしい。確か十四歳だったと思うが、十四には見えない。
ピンクのドレスは金銀刺繍された薔薇色のリボンが飾り帯として胸高についていて、同じリボンが長く垂れた袖口も取り囲み、ヘアバンドにもなっている。
商人的な観察眼からは、ついつい値段が気になってしまう。
金のネックレスや指輪も高そうだ…。
魔法使いは不満そうな顔をしている。
「姫はお呼びしておりませんが…」
偉そうな態度ながらも、姫には敬語を使っているのがとても新鮮である。
「何よ。いいじゃない。門衛がエスプリを呼びに来たとき、ちょうど授業を受けていたんですもの。アッチェラードの顔くらい見ておきたいわ」
エスプリは姫の家庭教師もしているらしい。
「リゾルーテンも会いたいかと思って声をかけて来たのだけど、剣士の訓練があるから来られないそうよ。残念だわ」
剣士と聞いて、同じ剣士のフェルのことを思い出して、一人で勝手にどきりとした。
大剣士様がリゾルーテンという名前なのだろう。フェルも今ごろ、この城の中でその訓練に出ているのだろうか。
フィオーナ姫は好奇心いっぱいの目でアッチェラードを上から下まで見ると、
「やっぱりアッチェラードになって良かったわ! 他の候補の人たち、おじさんだったんでしょ? 一緒に旅をするのだから、若い人の方が話が合って嬉しい!」
え? 一緒に旅をする? そこを突っ込もうかと思ったら、魔法使いが先に突っ込んだ。
「フィオーナ姫、年ではなく、能力が重要です」
そこ突っ込むのではなく、一緒に旅をするってところを……。