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13.旅のしたく(4)

 そうしているうちに、通用門の扉が開いて、門衛が出てきたが、その後ろから初老の男が出てきた。

 大柄で、灰色の目の眼光は鋭く、白い口ひげを蓄えている。理知的な顔立ちだ。


 服装は少し派手なのではないかと思う。黒づくめの大魔法使いダルセニオンと比べて、の話なのかもしれないが。

 ゆったりとした青い絹のローブは美しい光沢をはなっていて、胸のあたりの金のブローチで止めている。フードはなく、大きな襟がついており、その襟は美しい金糸の刺繍で縁取られている。


 ついでにアッチェラードの服装はといえば、いつも全身茶色かベージュで飾り気がなく、下はズボンで(ちなみにコーダ人の女性は決してズボンをはかない。砂漠の民の女性はスカートの下にズボンをはくこともある)長い上衣を腰のところでサッシュベルトで縛っている。縁なし帽は茶系か黒である。


「やあ、ダルセニオン、この子がアッチェラードだね」


 初老の男は身をかがめるようにしてアッチェラードをのぞきこむ。鋭い眼光がやわらぎ、優しい光を(たた)える。


 この人はエスプリ様だ。

 学者であり、その学問は医術にも及ぶだめ、難病を抱えた子供が城でエスプリ様に見てもらうこともあるというが、そんな光景が思い浮かぶような慈愛に満ちた優しい視線だ。


「エスプリ様」


 お会いした記憶が曖昧なので、ちょっと迷ったが、「お久しぶりです」と言ってみた。


 すると、エスプリは表情を変えないまま、

「アッチェラードは私に会ったことを覚えているかい?」

 と聞く。


 実はあまり覚えていない。優しい目と、「なんか派手な人!」という失礼な印象しか残っていない。


「いえ、すみません、あまり覚えていないんです」

「では、今思い出してみて、何か思い出すかな?」


 そう言われて、エスプリの顔を見ながら目をぱちくりさせるが、何も思い出せない。

 なぜかアッチェラードの店に飾ってある絵が思い浮かぶくらいだ。

 中心に風化した砂漠の遺跡があり、色とりどりの風と、風の精たちの横顔が描かれている。時間軸方向の風。エスプリ様の持論だ。

 概念をこねくり回して遊んでいるだけで、学問のための学問は実践的でない、という批判もある、という噂も聞いた。


「いえ、何も……」

「そうか。魔法が効かない子がいるという話を聞いて、一度会ってみたいと思って城に来てもらったんだけどね。まだ小さかったから覚えていないか」

「はあ、そうだったんですか」

「砂漠は併合されてまだ三十年しか経っていないからね。砂漠の民の中で魔法が効かない人もいる、という噂は前から聞いていたんだけれど、体系的に誰がというのが分かっていなかったし、実際に会ったこともなかった」


「今は体系的に分かっているんですか?」

「一番は骨董商人だね。骨董商人が商品の呪いにいちいちかかっていたら商売にならないだろう?」


 言われてみれば確かにそうだ。


「呪いとまでいかなくても、長年人が使った品物にはそれだけの思い、念が入り込んでいるから、魔法感受性の強い人間はそれに触れただけで幻影を見たり、感情が揺さぶられたり、影響を受けるというね。

 骨董商人がもともと魔法に強かったわけではなくて、魔法や呪いのかかった商品を扱うことで多くの骨董商人が怪我をして、骨董品の分野から撤退したり、悪くすると命を落としたりして、結果的に淘汰されることで、魔法に強い一族が残ったんだろう」

「淘汰……ですか」


 基本的に砂漠の民の職業は世襲である。淘汰された結果、アッチェラードの家系が残ったということか。


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