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11.旅のしたく(2)

 家に帰らずそのまま王城へ行った。

 王城は王都の中心部、小高い丘の上にあり、王の先祖が造った石造りの(とりで)に、宮殿風の部分が増築された建物になっている。

 昔は外堀もあったようだが、今は埋められて、大門の前は石畳の広場となっている。



 門衛に魔法使いへの取り次ぎをお願いした。

 名前を聞いておかなかったことについて後悔していた。聞く余地もなかったが。

 もっとも名乗らなかった相手側にも落ち度はあると思う。


 黒いフードつきのマントを着て、背が低めで、色白で、猫のような大きな黒い目をした、偉そうな魔法使い。(さすがに“偉そうな”とは、はっきりと言わなかった。とても威厳がある、というような言い方をした)今日の朝、城から徒歩で出かけたはず。


 そう説明したところ、

「大魔法使いのダルセニオン様のことか」

 と聞かれた。たぶんそうなんだろうと思いつつも

「“大”魔法使いにしては若過ぎるかもしれないですが」

 と言うと、逆にその言葉で確信を持ったように、

「いや、大魔法使いのダルセニオン様で間違いない」

 と言われた。


 魔法使い・剣士・学者といった技能の世界は、家柄や財力は関係なく、昔ながらの実力主義だ。

 だが、だとしてもやはりあの若さで“大”魔法使いであることは異例なのだろう、とアッチェラードは思う。

 “大”がつく魔法使い、というのは魔法使いの中でトップに立った者だけに王が与える称号である。

 先代の大魔法使いは、大魔法使いにふさわしく白ひげの老人だったような記憶がある。王都に引っ越してきたばかりの頃、何かのパレードで見た気がする。王様の在位十周年記念パレードとかそんな類の。


 まあ、エスプリ様のことを呼び捨てにしていた時点で、相当に位が高いとは思っていたが、まさか大魔法使いとは思わなかった。

 

 とにかく、取り次いでもらえそうだ。鉄製の大門の脇に付いている木のアーチ型の通用門の、そのまた脇に立って、待つことにした。



 王城からは市街地が見渡せる。城壁に囲まれた市街地の、オレンジ色の屋根屋根。その間からちらほらと背の高い木の新緑や、荷を積んだ舟が運河を行くのも見渡せる。

 

 そんなふうに景色も良く風も気持ちがいいのだが、それを堪能する余裕はない。ただ、目に入ってくるだけだ。王城に来ることなどないため、緊張しているのだ。

 また、あの魔法使いにもう一度会うことを考えても、違う意味で緊張する。また何か予期せぬ事態に陥らないか、という危うい緊張である。

 


「待たせたな」

 

 十五分ほど待っただろうか、その言葉と共にあの黒い固まりが再登場した。

 やはりあまりに真っ黒で、二度目でもぎょっとする。

 今度はフードは取っているが、髪も真っ黒だ。髪は少し上方へはねている、というか立っている?といった方が正しいか。

 魔法使いは魔法をかける際に集中して念を込めるために髪が立ってしまうのだろうか? だから魔法使いはフードをかぶっているのだろうか? それともこれはこの人だけの特徴なんだろうか? 何にせよ、ちょっと笑える……。

 

 そう思いながら、つい観察してしまっていたので、何のために来たかを話すのが遅れてしまい、その間、怪訝(けげん)な顔をされてしまった。

 

 はっと気づいて、慌てて営業スマイルを浮かべて説明する。

「あの、ご注文いただいた品物について、確認に参りました」

「どういった確認だ」

「旅にいらっしゃる方の年齢・性別・職業や、旅の急ぎ具合などで装備も変わるものですから」

 

 そう言うと、大魔法使いは露骨に嫌な顔をした。

 目的地を話したくないのと同様、そういった情報も話したくないのだろう。

 嫌な顔をされるのも想定済みなので、続けた。

「たとえば、旅に行かれる5名様というのが、王女様、魔法使い様、剣士様、学者様と、庶民の方1名で、王女様もいらっしゃるので無理な旅はできないが、ゆっくり進むわけにもいかないお忍びの旅の場合、このくらいの準備をお勧めします」

 

 そう言って、買い物リストを見せた。

 だが、買い物リストにはちらっと目をくれただけで、大魔法使いはすぐに顔を上げると、

「お前、何者だ。誰から聞いた」

 と厳しい口調。


「何がですか?」

「旅に行く顔ぶれとお忍びの旅ということだ。私が喋ったか?いや、いくら私でもそう易々(やすやす)とは口にしないはず」


 朝の様子からすれば易々と口にしてしまってもおかしくはないと思ったが、それは言わず、


「目的地を口外するなと言われたので、お忍びの旅かと思っただけです。

 旅の急ぎ具合については、今日の朝いらして明後日出発とあまり余裕の無い感じに見受けられましたし。

 後、馬は一頭だけでいいと言われたので、四名はお城にお住まいの位の高い方でご自分の馬もお持ちだけれど、一名は馬の手配が必要な庶民だと推測しました。

 後は、特色の違うメンバーが一人ずついる旅の準備を組んでおけば、実際のメンバーを聞いたときに応用が効くと思って……、というか、これ図星なんですか?」

 

 大魔法使いはぽかんと口を開けている。


「あなた様はメンバーの一人かと思ったのと、道中での危険を想定すれば魔法使いと剣士はセットだし、エスプリ様の名前も出たので学者様も行かれることもあるかと思ってカウントすると、魔法使い・剣士・学者・庶民ときて、後一名を王女様にしたのは思いつきなのですが……」

 

 そう言って反応を見ると、大魔法使いは大きくうなずいた。


「よし。やはりお前だ。お前しかいない。

 まあ、もともと候補の中で一番だったし、王や姫にも了解を取ってから正式に伝えようと思っていたが、私はこいつが気に入った」


 最後のは独り言のようなので、お褒めに預かり恐縮ですとは言わずに黙っていたが、ちょっと嬉しくて自然に微笑んでしまう。

 だが、既に注文をしてしまった後で、正式に伝えようとはどういうことなんだろうか。まあいい。


「では、このリストに沿って買い物をして、夕方にはお届けいたします」


「そうだな、ちょっとそこで待て」


 そう言うと、門衛に何か伝えている。そこで思い出した。


「あ、すみませんが、このリストに沿って買い物をするためのお金を前金でいただけると助かります」


 馬などは高価なのだ。もちろん購入せずレンタルするつもりだが。

 大魔法使いはうなずくと、門衛にまた何か話した。お金を持って来てもらうのだろう。

 城に部屋があるような偉い方はお金に無頓着で困る、とアッチェラードは思う。朝は代金は後払いでとのことだったが、こちらの手持ちが少ない中で勝手な買い物をする危険は踏めない。



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