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「大阪に現れた柱、実は僕のせいかもしれないなんて口が裂けても言えない〜実験で生まれたスライムは元・魔法使いでした〜」  作者: なな日々
転移柱の始まり編 〜大阪異変の発端〜

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第8話 魔石と糖分の法則

ムギちゃんに魔石を丸ごと食べられ、慌ててキャンパス中を走り回ったこと。

その末に、かろうじて回収できた“角の欠片”。


◇◇◇


それから、三日。


例の鹿は、キャンパスの外れにある林の中で身を潜めているらしい。

先日の戦闘で受けたダメージを回復しているのか、目撃情報はあるものの、積極的に襲ってくる様子はない。


「……嵐の前の静けさ、ってやつか」


警備員の無線は、三日間ずっと鳴りっぱなしだった。


そして――


「……やはりね。昨日の破片、ただの残骸じゃなかった。見てごらん、この結晶構造……純化は完了している。これはもう魔石だ」


研究室の防爆シールド越しに、黒瀬先輩がピンセットで掲げたのは、禍々しいほどに澄んだ紫色の結晶だった。


「……これ、キャンパス中探し回ってやっと見つけた、あの破片ですよね……?」


「先輩、それ……大丈夫なんですか? 触ったら爆発するとか……」


「今のところ安定しているね。でもこれ、測定器の想定範囲を完全に超えている。……正確な値は出せないな。

……とはいえ、まだ不純物も多い。完全な状態とは言い難いね」


黒瀬先輩の目の下のクマはさらに深くなり、その瞳には異常な光が宿っている。


その隣で、グレイが椅子に座り、結晶をじーっと見つめていた。


『……ほう。この世界の設備で、ここまで純度を引き上げるとは。あ奴、変態だが腕は確かなようだな』


「変態って言うなよ。……で、グレイ。その魔石、お前にとっては何なんだ?」


『我らにとっての魔石は、魔力の貯蔵庫であり、同時に……濃縮された“糧”だ』


グレイがごくりと喉を鳴らした。


「糧?」


『……平たく言えば、お前たちの言う砂糖や蜜を、極限まで圧縮して結晶化させたようなものだ。

ただし――それは“本来の魔石”であれば、の話だがな』


「……どういうことだ?」


『今目の前にあるそれは、あくまで欠片から再構築した“未完成品”だ。

それでも我の魔力は多少は戻るだろうが……全盛期には程遠い』


「それで“多少”なのかよ……」


僕は思わずツッコんだが、グレイの目は真剣そのものだった。


「……面白いね。糖分が魔力に変換されるなら、この結晶を直接摂取させるのが一番効率がいいわけだ。……よし、グレイくん。食べてみて。反応を記録したい」


黒瀬先輩が、まるで実験動物に餌をやるような気軽さで、シールドの隙間から結晶を差し出した。


『……断る。毒見もなしに、こんな無機質な実験室で食えるか。我を誰だと思っている』


「あ、グレイくん。今日はデパ地下で『高級ベルギーチョコレート』の詰め合わせ買ってきたんですよ! これに添えて食べたらどうですか?」


ひまりがナイスタイミングで保冷バッグから豪華な箱を取り出した。


『……よかろう。その気合に免じて、毒見をしてやろうではないか』


グレイはチョコレートの上に紫色の魔石を乗せると、一口で頬張った。


その瞬間。


研究室中の精密機器が、一斉にアラートを鳴らし始めた。


「な、なんだ!? 磁場が乱れてる!」


「素晴らしい! グレイくんの周囲の電子密度が急上昇しているよ! これが……魔法のエネルギー変換効率か!」


グレイの体が、淡い銀色の光に包まれる。


子供の姿のままだが、その瞳の輝きは鋭く、発せられる威圧感は先ほどまでとは段違いだった。


『……ふはははは! 素晴らしい! このチョコレートの油分と未完成の魔石が混ざり合い、我が魔力回路を刺激している! 力が……みなぎるぞ!』


「グレイ、これならあの鹿を倒せるのか?」


『倒す、だと?』


グレイは鼻で笑った。


『湊よ、お前は甘いな。

あ奴の角の根元には、この魔石など比較にならぬ“核”が眠っている。

もっとも――あの鹿はまだ成長の途中だろうな。個体差もあるが』


『……あれこそが、本来の魔石の在り方だ。

今のこれは、せいぜい前菜といったところだな』


どうやらグレイのモチベーションは、「正義」でも「護身」でもなく、単純に「もっと美味い魔石を食いたい」という食欲に振り切れたらしい。


「よし、目標が決まったね。……鹿の角を収穫デバッグして、魔石を回収する。白石くん、次の鹿の出現予測ポイントを計算したよ。……淀川の河川敷だ」


黒瀬先輩がタブレットを見せてきた。そこには、認識阻害の漏れを解析して導き出された、異世界のエネルギーが最も噴出しやすい「淀川」の座標が示されていた。


「淀川……。大学からすぐそこじゃないですか」


僕の隠蔽生活は、いつの間にか「魔物狩り」という名の、最悪で最高に甘い戦いへと変貌しつつあった。

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