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「大阪に現れた柱、実は僕のせいかもしれないなんて口が裂けても言えない〜実験で生まれたスライムは元・魔法使いでした〜」  作者: なな日々
転移柱の始まり編 〜大阪異変の発端〜

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改 第6話 プリン泥棒と、怒り狂うスライム

 あれからグレイは毎日、水刃の練習や新しい技の取得を誰もいない朝の中庭で行っている。


 中庭は毎日びしょ濡れで、地面には刃物で切り裂いたような跡まで残るものだから、いつの間にか妙な噂が立ち、今では誰も近寄らなくなっていた。


――僕たちにとっては、好都合だ。


 ♢


「……で、グレイ今度は何だ?」


 僕は、机の上でわざとらしく「ぷるぷる」と震える半透明の塊を見下ろした。

 ついこの間まで威厳たっぷりに魔法を放っていた“大魔導士”の姿は、どこにもない。


『……あぁ……今日も魔力を、使い切ってしまった……。あのモンブラン……あれさえあれば……いつでも闘えるというのに……あぁ……限界だ……』


 脳内に直接、やけに芝居がかった弱々しい声が届く。


「先輩、グレイ様……大丈夫なんですかね?」


 ひまりは、グレイを“大魔導士”と知ってから、すっかり様付けになっていた。 ……ほんと、よく分からない


「ただモンブラン食べたいだけだから大丈夫だよ」


 もう何度目かも分からないやり取りに、僕はため息をつく。


「それより黒瀬先輩、あんまり至近距離でつつかないでください。普通にサンプル取られそうで怖いんで」


黒瀬先輩はピンセットを手に、グレイの表面をつんつんと突いていた。


「……自己修復の速度が異常だね。やっぱりこれ、高分子の常識を超えてる。白石くん、少しサンプル削ってもいいかな? 大丈夫、壊す気はないよ」


「ダメに決まってるでしょ!」


 ――この人、本気でやりかねない。


 さっきからの目を見ていれば分かる。


 “興味”が勝ったら、倫理なんて簡単に飛び越えるタイプだ。


 ♢


 騒がしい研究室。

 僕は、疲労困憊のグレイのために、コンビニで買っておいた『濃厚カスタードプリン』を皿に出してやった。


「ほら、これ食べて元気出せよ」


『……フン、質は低そうだが、今は背に腹は代えられん……』


 グレイがスライムの体を伸ばし、愛おしそうにプリンを包み込もうとした    ――その時だった。

 

「……?」


 音は、なかった。


 だが次の瞬間。

 皿の上のプリンが――削り取られていた。


 ほんの一瞬。 確かにそこにあったはずの黄色い塊の一部が、綺麗に消えている。


『………………は?』


 グレイが硬直する。



――もぐ、もぐ、むしゃ。


 場違いに幸福そうな咀嚼音が、机の下から聞こえてきた。


 


 僕はゆっくりと視線を落とす。


 そこにいたのは――赤く光る瞳。


 暗がりの中で、じっとこちらを見上げている。


 ふわり、と綿毛のような毛並み。

 小さな口はカラメルで汚れ、幸せそうにプリンを頬張っていた。


 「なんだ、これ……ハムスター? にしてはデカいし……」


「……甘い匂いに反応。糖分への反応速度、ほぼ視認不可能だね」


 黒瀬先輩が、いつの間にか取り出したハイスピードカメラで激写する。

その手には、すでに小型のスプレーが握られていた。


 「少し刺激を与えてみようか」



 『……貴様』


 一瞬、声が消えた。


  静寂。


 


 次の瞬間――


 『なぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 グレイが激怒した。


 スライムの体が怒りでわずかに赤みを帯び、机の上で激しく跳ねる。


 


『それは我の! 我が苦労の末に手に入れた報酬だぞ! その薄汚れた口から今すぐ吐き出せ、このミルフェアリットめ!!』



「「ミルフェアリット?」」


『異世界に生息する“スイーツ泥棒の妖精”だ! あああ、我のプリンが! 最後の一口まで綺麗に消えたぁぁぁ!!』



 グレイはそのまま猛然と飛びかかった。

 

「ぷるんっ」と「ふわっ」が、研究室の床で激しく転げ回る。


 数分間の格闘――というより、完全にじゃれ合いにしか見えない追いかけっこの末。


 グレイが執念でミルフェアリットの尻尾を体内に取り込み、ついに動きを封じた。


「捕まえた……けど、これどうすんの」


「先輩! 見てください、このつぶらな瞳! すっごく可愛いです! 私、この子ペットにしたいです!」


 ひまりが目を輝かせる。


「白石くん、逃がしちゃダメだよ。この個体、エネルギー効率が未知数すぎる。……素晴らしい研究対象だ。保護して、じっくり観察させてもらうよ」


 黒瀬先輩の目が怪しく光る。


 結局、グレイの反対も虚しく。

 二人の猛烈な「研究対象(兼ペット)」コールに押し切られ、ミルフェアリットは研究室で保護されることになった。


『納得いかん……! なぜ我が天敵と一つ屋根の下で暮らさねばならんのだ……! 断固反対だ!』


 憤慨するグレイ。


――これが後に、「研究成果」に繋がることを、この時の僕はまだ知らない。


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