第3話:警告の正体(2026年2月24日・火曜日)
火曜日。平日だけど、昨日の祝日を挟んでまだ体は休みモードのまま。
学校に着くと、教室にはいつも通りの同級生の声が響いている。でも、俺の心は落ち着かない。昨日、美月と確認した異変の感覚が、頭の中でくすぶり続けているからだ。
「翔、昨日のこと……気にならない?」
美月が席に座るなり、俺に小声で問いかける。制服のネクタイを少し直しながら、彼女はいつもの冷静さを保っているけど、目は真剣だった。
「もちろんだよ。時計も、ニュースも、全部おかしかった。俺たちだけじゃなかったってことだな」
俺が答えると、美月はうなずき、鞄から小さなノートを取り出した。
「これ……昨日、家で調べてみたの」
ノートには、インターネットで見つけた古い都市伝説や、カレンダーの異常に関する情報がびっしり書き込まれていた。中でも目を引いたのは、“2月29日を迎えると世界の時間が狂う”という一文だった。
「……まさか、そんなこと」
俺の声は低くなる。半信半疑だけど、昨日からの違和感と重ねると、無視できない説だった。
「翔、私たちだけじゃなくて、ほかの人も少しずつ感じてるみたい。でも、気づいてないだけ」
美月の声には覚悟が混じっていた。俺は胸の奥がぎゅっと締めつけられるのを感じた。日常が少しずつ歪み始めていることを、二人で確認してしまったのだ。
昼休み、俺たちは校庭のベンチに座った。外は柔らかい冬の日差し。だが、昨日から続く微妙な時間のずれと、街の静けさを思い出すと、安心感は薄い。
「……どうすれば、29日を無事に迎えられるんだろう」
俺の問いに、美月はしばらく黙った。考えているのか、それとも答えを知らないのか。
やがて彼女は口を開く。
「まだ分からない。でも、私たちで少しずつ準備するしかないと思う。異変を無視せず、記録して、確認して……」
言葉は冷静だけど、覚悟が滲んでいる。俺は彼女の手を握って確認したくなる衝動を抑え、ただ隣に座った。
午後の授業中も、俺の意識はカレンダーと29日のことに向かっていた。針の動き、教室の時計、窓の外の光――すべてがいつもより少しだけずれて見える。心臓が少し早く打つのを感じながら、俺は思った。
29日まで、何が起こるかわからない。
でも、美月と一緒なら、なんとかなるかもしれない――そんな微かな希望を胸に、俺は時間を意識しながら授業をやり過ごした。
放課後、二人で駅前に向かう途中、街の時計がまた微かにずれているのを目にした。平日の静けさの中で。俺たちは互いの存在を頼りに、静かに29日に向けて歩き出した。




