第2話:小さな異変(2026年2月23日・祝日)
祝日の朝、目覚めると街はいつもより静かだった。カーテン越しに差し込む冬の光は柔らかい。だが、どこか妙な空気を感じる。
「……またか」
昨日のカレンダーの違和感が、まだ胸の奥に残っている。2月29日――どうしても頭から離れない。
スマホを手に取り、ニュースアプリを開く。 画面にはオリンピック関連の映像が流れているはずなのに、映像が一瞬止まったり、音声が少しずれて聞こえたりする。画面に映る日付表示も、微妙にずれているように見える。
「気のせいじゃない……よな」
独り言を呟く俺。何かが確実に、いつもの日常からずれている。
そのとき、スマホが震えた。画面を見ると、美月からのメッセージだった。
『今日、時間が変になってない? 私の家の時計、1時間早く進んだ気がするんだけど』
俺も昨日、同じことに気づいていた。目に見えない何かが、確かに日常に侵入している。
「美月……もしかして、俺たちだけじゃないかもな」
メッセージを打ちながら、少し震える手を押さえた。
昼過ぎ、街に出てみる。祝日だから人通りは少なく、閉まっている店も多い。だが、通りを歩く人々の動きが妙にぎこちない。時計を確認する人、スマホを何度も見返す人。俺には、昨日から始まった小さな異変が、少しずつ広がっているように見えた。
「……やっぱり、ただの勘違いじゃない」
美月と合流した俺は、少しほっとした。彼女も同じことを感じていたからだ。街の小さな公園で二人並んで座る。言葉は少ない。けれど、互いの存在だけで心が落ち着く。
「翔……29日まで、何か起こるのかな」
美月が小さく呟く。俺は彼女の手を無意識に握りそうになったが、ぎりぎりでやめた。距離感を保ちつつも、互いの不安を共有する――それだけで、少し心が安らぐ。
遠くで犬の鳴き声が響く。日常のはずの音が、どこか不気味に聞こえた。祝日の街は静かだが、俺たちの周囲には、見えない何かが忍び寄っている気配があった――29日までのカウントダウンが、静かに進行している。




