第1話:カレンダーの予感(2026年2月22日・日曜日)
「……ん?」
ふと目に入ったカレンダー。
なぜか日付が妙に引っかかる。
29日で終わった2月のカレンダー。
違和感が胸の奥に広がる。
──たしか、うるう年って夏季オリンピックの年だけ……だったはず。
2026年は夏季オリンピックの年じゃない。なのに、カレンダーには29日がある。
「……おかしいな」
思わず自分に呟く。テレビでは冬季オリンピック中継のニュースが流れていた。
歓声や実況の声。
しかし、俺にはどこか違和感があった。
画面右下の日時が、ほんの一瞬だけ妙に速く動いたように見えたのだ。
気のせいかもしれない、と自分に言い聞かせノートに数式を書き込む。だが、ペンを握る手は微かに震えていた。
そのとき、スマホに通知が入る。差出人は同級生の美月――桜井 美月だった。
『ねえ、カレンダー見た? なんか変じゃない?』
思わず目を見開く。美月も同じ違和感に気づいていたのか。メッセージから彼女の不安が伝わってくる。
俺は美月と駅前で待ち合わせをした。制服の上着を羽織った彼女は、いつも通り落ち着いた表情だったが、目の奥には同級生らしい緊張が宿っている。声をかけると、微かにほっとしたように笑った。
「やっぱり、翔も気づいてたんだ」
「うん……なんだろう、この違和感」
俺たちは人通りの少ない商店街を歩きながら、カレンダーやニュースのことを話した。
時折、遠くの電柱の時計の針が妙に速く動いているように見えた。
「……もしかして、2月29日に、なにかあるのかもしれないね」
美月の声は静かだったが、その一言は俺の胸に深く刺さった。普通の日常に潜む、見えない何かの存在を感じさせる言葉だった。
今日が何日か、ふと考える。
──2月22日、日曜日。
この週末から、何かが始まる――そんな予感が、体中に広がっていった。
「……何が起こるんだろう」
俺の言葉に、美月は小さくうなずいた。互いの存在を頼りに、俺たちは歩き続けた。
遠くの空に、冬の陽が傾きかける。オリンピックの歓声は街に響いているが、俺と美月の心には、淡く不安な影が落ちていた――29日までのカウントダウンが、静かに始まっていた。




