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【短編小説】ロンロン(Long-Wrong)

掲載日:2025/12/18

 人生は長すぎる。

 だが何かを成し遂げるには短すぎる。

「成し遂げたい何か」

 声に出して読みたい日本語。

 だが声に出したところでそんなものはポップしない。つまり人生に救いは無い。


 同僚たちの白い目をスウェーしたりウィービングしたりして躱す。

「お前らには夢がありますか?」

 俺は訊きかえす。

 白い目はパソコン画面に戻る。

 訊かれるのが怖いことは大人にだってある。成り行き、道なり、ライク ア ローリングストーン。どんぐりコロコロ。おむすびころりん。

 他人に訊いて安心するなよ。


 終業のベルは鳴らない。


 人生の大半を占める労働も終わらない。

 人生は死ぬまでの暇つぶしだと言うほど悲観的になっている訳じゃないが、それにしても人生は長い。

 労働も長い。

 人生50年とはよく言ったものだ。

 人体の構造としても基本的にはそこら辺が本来の限界だろう。



 しかし医学の発達で80、90まで生きられるようになったし、子どもは産まれてすぐに死ななくなった。

 生き過ぎだし死ななさ過ぎだ。

 戦争もないのに、そんなに生きてどうする?


 俺は終業まで残り10分になった時計を何度も何度も見る。

 時計の針は進まない。

 だがあと何分あるか、それは分かる。

 分からないこと。


 俺は人生の残りがどれくらいなのか知りたくて仕方ない。

 若い頃はそんなものを知れる腕時計なんて要らないと思っていたが、今はそれが知りたい。

 人生を逆算して生きたい。

 それが打算なのか計算なのかは分からないが、俺にはもう未来を見て歩く気力なんてのは無い。




 俺は疲れたよ。

 それは人生が眩しいからでもないし、暗いからでもない。

 まして霧の中にあるから手探りだとかでもない。

 ただ俺には首を上げて前を見ると言う筋力が残っていないと言うだけに過ぎない。

 つまり終業までの時間、その過ごし方すら曖昧になってきたと言う事になる。

 若い頃は残りの10分をやり過ごす方法なんてのは幾らでもあった。

 画面を見つめているだけでもいいし、目の前で組んだ手の指をぶつからない様に回すのでもいい。

 ペンを弄んだっていいし、はす向かいに座っている不細工な女の子をメモ帳に似顔絵したっていい。



 しかし今はどうだ?

 もう10秒以上は何も作業の無いモニターを見つめている事なんて出来ないし、指やペンで遊ぶこともできない。

 誰かを似顔絵にするなんてのはハラスメントに抵触してしまうだろう。

 会社の支給パソコンにインストールされていたゲームを発掘して遊んでいたら、ソフトウェア更新の時期にそれらが全員の支給パソコンからアンインストールされてしまった。

 俺の所為で。



 全く馬鹿げた話だ。

 しかし会社を運営すると言うのはそういう事で、終業までの残り10分を耐えられない人間をどうにか働かせると言う事が必要なのだ。

 それはなんの作業でもよい。

 生産性は皆無で構わない。

 モニターを眺め続けるのでもいいし指で遊ぶのでもいい、とにかくゲームする事以外を労働と呼んで対価を払う。

 会社とはそういう場なのだ。



 つまり人生に於いては残りの時間をどう過ごすにしても、法に抵触さえしなければ良い訳だ。

 画面を眺めていようと、荒縄を弄んでいようと、大学ノートいっぱいに恨みつらみを書き記そうと何だって構わない。

 やってはいけないこと、それはゲームだ。


 じゃあ人生では?

 やってはいけないこと?

 魚を捌いて内臓を取り出すみたいに誰かを包丁で刺して内臓を引きずり出したり、気に喰わない家具を破壊するようにコンクリートブロックで誰かの頭を割ったりする。

 通りを横切る野良猫やビニール袋を轢くように知り合いの子どもを轢ひたりする。

 そう言うことはしてはいけない。



 だが俺には耐えられない。

 俺は俺を侮辱した友人の子どもを轢き、俺の過去を遠くに縫い付けた同級生を刺し、俺の家族や恋人を貶した人間たちをコンクリートブロックで割り、家に火を点けて回る。

 その為に残りがどれくらいあって何が出来るのかを知りたい。

 だから人生は長すぎる。

 そしてそれらを為すには短過ぎる。

「懲役の話ですか?」

「時効の話だよ」

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