解決
二月十二日、ついにカロリーナ・オルランディとの示談が執り行われた。示談には双方の弁護士だけが出席した。私達は結局、このカロリーナ・オルランディに会う事はなかった。
こうして私達を一年半近く悩ませたカロリーナ・オルランディ問題はようやく解決した。
「結局、カロリーナ・オルランディに会う事はなかったなあ――」
「残念?」
私はからかう様に尋ねた。
「どうかな――彼女には随分苦しめられたからね」
ロメオは笑った。
「カロリーナはお義母さんの従妹になる訳ね。なんだか不思議ね。ロレンツォがロメオのお祖父さん、カロリーナはロメオの従叔母、みんなロメオの親戚なのね」
私は歌うように言った。
「そうだね。でもやっぱり実感が沸かないよ。ロレンツォは祖父かもしれないけど、祖父らしい事は何もしてくれなかったからなあ。
祖母や母さんに対するような愛情は持てないよ」
ロメオの表情は複雑だった。
「母さんは裁判所に正式にDNA鑑定を申し込みたいと言っているよ。
前にマリアンナの知り合いの医者が行ったDNA鑑定はあくまでも非合法な鑑定だからね。ディ・マウロ弁護士は遺産や金銭が絡んでいなければ、裁判所は割りと簡単に鑑定を許可してくれると言っている」
「そう――鑑定が許可されれば、正式にロレンツォの娘として認められるのね」
「母さんは迷ったみたいだよ。ロレンツォの娘として死後認知されると言う事は、つまり養父だったアルベルト・セーラの認知を取り消す事を意味しているからね。
母さんは、自分にとっての父親はアルベルトだけだと言っている。
だけど、第二、第三のカロリーナ・オルランディが現れないとも限らない。
ボローニャにはアンジェリ家の財産を狙っている人間がまだまだ沢山いるから、またロレンツォやジュセッペの親族を名乗る者を担ぎ出してくる連中がいるかもしれない。
だからディ・マウロ弁護士もちゃんとしたDNA鑑定を受けておくべきだと言っている。
母さんは自分の身を守るためにDNA鑑定をするんだ」
「そうね――」
私は頷いた。
カロリーナ・オルランディとの示談が終わると、オクタヴィアは憑き物が落ちたように晴れやかになった。ようやく自分がロレンツォの娘だと言う事実と向き合えるようになったのかもしれないと私は思った。
チェザリーニ/小グリエルモが担当していたバルベリア通り、ガリエラ通りの修復プロジェクトはジョルジョーネが引きついだ。陰謀に加担したマリアンナは間もなく私達の元を去ることになるだろう。
私は二月の寒々とした空を見上げた。気のせいか今日の空は一段と青く、一点の曇りもないほど澄んで見えた。
「ヴィラ・マルヴァジアに行ってみようか?」
突然、ロメオが言った。
ヴィラでは今、小塔を工事している。
ふとカロリーナ・オルランディには姉がいたというロンディーニ婆さんの言葉が私の脳裏に蘇った。そして一瞬、精神病院で孤独に死んでいった狂女マリア・オルランディの嘲るような笑い声を聞いたような気がした。
「いいわね!ファブリーニ達にも、全てが解決したことを報告しなくちゃね!」
私は過去の亡霊を追い払うように元気良く返事をすると、ニッコリと微笑んだ。
~終~
あとがき
本作は2007年から2008年にかけて、自分が巻き込まれた奇想天外な出来事の記録を残すために、そして何よりも心配する親に状況を説明するために執筆しました。小説風にしたのは、法律諸々の難解な内容を、当時の読者であった両親に分かりやすく、かつ読みやすい形で伝えたかったからです。
遺産相続に関する騒動は本作と共に終結しましたが、私達の冒険は続きます。リーマンショックの影響、修復工事に纏わる様々な困難が私達を襲いました。
その後、Word文書で二百六十ページに及ぶ本作はコンピュータのアーカイブに埋もれていました。
本作の公開を思い立ったのは、昨年の夏、義母オクタヴィアが亡くなったからです。
オクタヴィアの自宅の倉庫から彼女が生まれた当時、母レーアに宛てられた手紙が大量に見つかり、当事者達の思惑や当時の悲惨な状況を知ることが出来ました。
孫であるオクタヴィアの名を呼ばずに『あの哀れな創造物』などと表記し、赤ん坊を施設に預けることを勧める手紙を再三送っていたレーアの父アントニオ。
孫の認知を拒否し、養育費の打ち切りを通告するロレンツォの父ジュゼッペの冷たい手紙。
古い鞄に詰め込まれたこれらの古い手紙を生前のオクタヴィアが読むことがなかったのは幸いだったと言わなければなりません。
内気で対人関係が苦手だった義母は時として誤解されがちでしたが、動物を愛し、幼少期を過ごしたアフリカの大地と人々を愛する心優しい、そして何ものにも染まらない個性を持つ人でした。
そして現代のこの社会で生きるには純粋過ぎる人でした。
本作を亡き義母に捧げます。
*本作に登場する人物の名前は全て偽名です。




