勝利
三月二十日の口頭弁論には、マルタ・リッカルディ弁護士、ナーディア、そしてディ・マウロ法律事務所の若い女弁護士が出席した。
若き田舎弁護士アドリアーニと、三人の女弁護士の対決は女弁護士団の圧勝で終わった。
三人の敏腕弁護士を前に、若いアドリアーニ弁護士はたじたじだったらしい。
結果、裁判官は申立の却下を言い渡した。つまり事実上、我々が勝ったのだ。
「今日は輝かしい勝利の日だったわ!」
電話で結果を報告していたナーディアは興奮で声を弾ませ、勝利に酔いしれていた。
「私ともう一人の弁護士も頑張ったけど、凄かったのがマルタ・リッカルディ弁護士よ。
もう相手に口を挟む隙を与えないというか、哀れなアドリアーニ弁護士が何か反論しようものなら、その三倍でやり返すと言う風で、とにかくこの可哀想な新米弁護士を完膚なきまで叩きのめしていたわ。
凄かった――私もかなり攻撃的だと言われるけど、彼女には脱帽よ。
本当、いい勉強になったわ」
ナーディアが凄いというのだから、本当に凄かったのだろう。
烈女三人に囲まれて小さくなっているアドリアーニ弁護士の姿を思い浮かべると何だか気の毒だった。
「じゃあ、私達は勝ったのね?」
私は念を押した。
「そうよ。正式な判決文が発表されるのは、来年の一月頃になるけれど、もう終わったのも同然よ。裁判官は彼等の訴えを却下したの。彼等は訴訟を起こす事も出来ない。つまり門前払いされたと言うことね」
私はホーと長い溜息をついた。
ナーディアがもたらした朗報によって、私達は相続争いの長い呪縛からようやく解放されたのだ。
五月になると若草色の霞のように頼りなげだった新緑が、豊潤な緑の衣となった樹木の幹をすっかり覆い隠し、同じように、ヴィラの屋根も木の野地ですっぽりと覆われた。
一方、チェザリーニと小グリエルモのチームもガリエラ通りのプロジェクトを黙々と進めていた。
ヴィラを担当するジョルジョーネ達とチャザリーニ/小グリエルモ・チームは対照的だった。
ジョルジョーネの仕事ぶりは――しばしばマリアンナが不満をこぼすように――決して早いとは言えず、時間に少々ルーズな所があったが、彼のこのヴィラに対する思い入れには、並々ならぬものがあり、決して妥協を許さなかった。そのために仕事が予定より遅れる事がしばしばあった。しかしながら、ジョルジョーネは工事の手順からコストに至るまで、工程ごとに私達に詳細を報告し、私達の予算や希望を尊重して仕事を進めた。
温かな季節になるとファブリーニのアイデアで、ヴィラの庭でバーベキューをした。参加するのは私達、ジョルジョーネと構造設計技師、ファブリーニ建設会社の職人達、それに時折、マリアンナも顔を出した。
開廊に大きなテーブルを設置し、家が農場と言うグイドが自ら作った野菜の酢漬やサラミ、チーズを並べ、ファブリーニが自家製ワインをふるまった。
見習いの若い大工達が庭で肉やソーセージを焼き、食べきれないほど、どんどん運んできた。
ヴィラでの昼食会は夏が終わっても続けられ、やがて寒い季節がやって来ると、ヴィラの一室で取り壊した屋根の梁を薪代わりにして古いストーブを焚き、グイドがパスタ料理を作った。グイドは熟練した職人であると同時に素晴らしいコックだった。
こんな風にして、私達はヴィラとその仲間とアットホームな温かい人間関係を育んでいった。
一方、チェザリーニ/小グリエルモ・チームはと言えば、大きな建築事務所をバックに持つだけあって、仕事はさすがに速かったが、脇目を振らずに突っ走る冷たい超特急のようで、今どう言う状態でプロジェクトのどの辺りなのか、私達に知らせて来る事などなく、ましてや発注者である私達に意見や相談を求める事など全くなかった。
時折、予算や間取りについて私達の希望を伝えると、チェザリーニも小グリエルモも慇懃な作り笑いを浮かべて頷いたが、実際にそれが反映されているのか疑問だった。
秘密主義に包まれた巨大な要塞、私はそんな印象をこのチームに抱いた。仕事こそ速くて正確だったが、私は彼等をどうしても好きになれなかった。




