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アンジェリ家の遺産  作者: 如月鶯
第6章 遺産分割協議まで
36/53

交渉

いよいよライモンディとの対決の日がやってきた。対決と言うのは大げさかもしれないが、その朝、ロメオとボローニャに向かった私はまるで戦場に赴くような気分だった。

ライモンディはそんな緊張した面持ちの私達を上機嫌で迎えた。


「レオナルド・メンギーニは冷や冷やさせられましたけど、ようやく署名させる事が出来ました。後は遺産分割協議書の署名を済ませるだけですよ」

ライモンディは相続人七人全員の署名が揃った示談書の写しを私達に見せた。

「この示談書は私自身の手で草稿を作りました。今後如何なる問題が発生しても、こちらが責任を負う事が一切ないように万の可能性を配慮した、自分で言うのもなんですが完璧な示談書ですよ」

「問題と言うと?」

ロメオが訊き帰した。

「ロメオ君、貴方は知らないだろうけど、彼等が相続するゴベッティ通りの二区画には実は色々と問題があるんですよ。

例えば、この二区画に建てられたアパートメントのほとんどに賃借人がいて、立ち退く気のない連中ばかりです。私の兄の働きでボローニャ市がこの土地を六百万ユーロで購入する話がまとまりましたが、市は二年以内にアパートメントを全て空き家にすることを条件にしています。つまり二年以内にアパートに住む住民全員を退去させることが出来なければ、この話は破談になるか、あるいは市は大幅な値下げを要求してくるでしょう。

また売らずに彼等で土地を分けるにしても、土地の真ん中に線路が走っているので分割はかなり厄介です。

ですから私は相続後に予想されるこうした問題に対して、こちらは一切の責任を負わないと言う条項をあえて示談書に付け加えました」


――さすがだ。

私は彼の抜け目のなさに舌を巻いた。

メンギーニ達もあの土地にこのような落とし穴があるとは想像もしていないに違いない。


「では彼等は土地を相続したら、何とかして住民を退去させなければならないわけですね」

ロメオはちょっと嬉しそうに言った。

「彼等には絶対無理ですよ」

ライモンディはこともなげに言い放った。

「彼等は皆、一門の財産をむさぼりながらのうのうと暮らしてきました。まともに働いたこともなければ、働く必要もなかった、そんな連中ですよ。事業の手腕などかけらも持ち合わせていません」

ライモンディは蔑むように言った。

「でもこの示談書には母がゴベッティ通り二区画の用益権を放棄すると書いてありますね」

示談書に目を通しながらロメオは言った。

「仕方がありませんよ。メンギーニ達も虚有権しかない土地では納得するわけありません。その代わりこちらの弁護士の報酬のうち、十万ユーロを彼等に負担させたんです。

これも私の考えですよ。それから遺産分割協ですが、分割ではなく、メンギーニ達がゴベッティ通り二区画と引き換えに相続人を辞退すると言う形にしました。

こうすることで公証人に支払う手数料を七万ユーロも節約することが出来ます。これもオクタヴィアさんのためを思って私が考えてやったことです」

今日のライモンディはいつもにも増して饒舌だった。


しかしながら私は毎度の事ながら、これでもかと自分の功績を誇張するライモンディにいささか辟易していた。


ロメオがようやく意を決したように本題を切り出した。

「貴方への報酬のことですが――先日、母が――」

ライモンディは手を挙げてロメオの言葉を遮った。

「一時にレストランを予約してあります。ここからすぐの所にありますから、その話は食事をしながら続けましょう」

そう言うとライモンディは私達をせき立てるようにしてせかせかと立ち上がった。

「このトラットリア(レストランより気取らない小食堂)の味はボローニャ一ですよ。家族経営の店ですが、味に妥協がないんです」

柱廊(ポルティコ)を足早に通り抜けながらライモンディは説明した。

長身のライモンディが大股でずんずん歩いて行くので、私などはほとんど小走りで彼の歩調に合わせなければならなかった。私とロメオはこれから向き合わねばならない論題が気にかかり、知らずと無口になった。

トラットリアは前の柱廊(ポルティコ)にもテーブルをぎっしりと並べ、大勢の客で賑わっていた。私達はライモンディと顔馴染みらしい店の主人に室内の席に案内された。

それほど広くないトラットリアは、ひしめき合うワイン瓶と色鮮やかな前菜が並べられたガラスケースの間に半ば埋もれた、それでも僅かなスペースでかろうじてその役割を果たしている小さなカウンターがある狭い入口の左側に小部屋、奥に大きめの部屋が繋がり、三つの空間に仕切られていた。

私達の席は私室のような親密感のある小部屋の方に用意されていた。


テーブルが三つ並べられた小部屋の客はまだ私達だけだった。

私達は前菜を省き、第一の皿のパスタ料理を注文した。ライモンディが冷えたランブルスコ(発泡性の赤ワイン)を注文した。


ロメオは好物のランブルスコを美味そうに一口飲むと、早速本題に取り掛かった。

「貴方の報酬のことですが――母は何も分からずに『米の水路』の売買仮契約書に署名してしまったようですが、実は僕達であれから色々考えて、『米の水路』をみすみす売ってしまうのはどうかと言う結論に達したんです。しかし、僕達だけで土地を持っていても活用のしようがない。正直言って僕達は土地には全くの素人ですからね。これは彼女のアイデアなんですが――君が話したほうかいいんじゃないかな」

ロメオは話を切り出すだけ切り出してさっさと私に話を振る。

私はそれはないだろうと彼を睨んだが、ロメオが期待するように目を画が焼かせて私を見つめている。

私が小さく溜息をつくと、すぐ本題に入った。


「以前、貴方が提案されたゴベッティ通り三区画の計画がありますね?貴方方が土地の半分を購入して時価を上げると言う計画です。結局、ゴベッティ通りの土地のうち、二区画はメンギーニ達が相続しますけど、残された『米の水路』で同じことをやれないかと思ったのです」

ここで私は一端言葉を切った。熱心に私の言葉に耳を傾けていたライモンディは頷いた。

「土地の有効性や利用価値を証明して、より高値で売却すると言う計画ですね?

可能だと思いますよ」


ライモンディは口元に不敵な微笑を浮かべ、大きな眼を爛々と輝かせながら私をひたと見据えた。私はその射るような眼光に圧倒されそうになりながらも怯まずに彼を見返し、いよいよ核心に踏み込んだ。


「貴方はこれまでの報酬として百万ユーロを要求されているそうですが、少しまけて八十万ユーロにして頂くことは可能ですか?」

ライモンディが何か言いたげに口の端を動かしたが私は構わず続けた。

「『米の水路』の評価額は百三十五万ユーロですから、半額だと六十七万五千ユーロになります。もし報酬を八十万ユーロに割引して頂けるなら、報酬から土地代を引いた差額は十二万五千ユーロになります。貴方にお支払いする差額は全額現金でお支払いし、領収書は要求しません。そうすれば貴方は収入を申告せずに済む訳ですから、土地の半分と十二万五千ユーロがまるまる貴方の懐に入るのです。決して悪い話ではないと思います」

私は一気にそこまで言い切るとニッコリ笑ってライモンディを見返した。

「なるほど。それが貴方方の希望なんですね?」

ライモンディは穏やかな口調で、鷹揚な微笑みすら浮かべてそう言った。

「貴方方の言いたいことは了解しました。ただこの件は私と兄の二人の問題になりますから、今すぐここで返答することは出来ません。

でも前向きに検討してみますから安心して下さい」


ライモンディの口ぶりは極めて好意的で、安堵させる声色を含んでいるように思われたので、身構えてこの会見に臨んだ私達はひとまずホッとした。


パスタ料理が運ばれてきた。ライモンディに勧められて選んだボローニャ風タリアテッレは歯ごたえのあるきし麺のような平たいパスタを濃厚なミートソースで和えたボローニャの特産料理である。

ライモンディは報酬の話をとひとまず保留にすることで終わらせると、話題を変えた。

「ヴィラの方は、どうなっていますか?」

「今、建築家に屋根の状態を見てもらっています。遺産分割が済み次第、屋根の工事はすぐ始めなければなりません」

ロメオの答えにライモンディは頷いた。

「私は文化財保護局の総局長と懇意にしていますから、力になりますよ。

何しろ頭の固い連中ですから、受付の職員を通して普通に手続きしたら何ヶ月も待たされた挙句の果てに、やれここにトイレを作ったらだめだ、この壁を動かしたら駄目だと難癖を付けられ、一向に話が前に進まないんですよ。

ところで建築家は決まっていますか?」

「まだ正式には決定していませんが、ファルネーゼさんにルーカ・ジョルジョーネと言う建築家を紹介して貰いました」

「ジョルジョーネとは直接一緒に仕事をしたことはありませんが噂は聞いています。優秀な建築家で市の重要な仕事を幾つも手がけていますよ」

「ただ、遺産管理人のマリアンナ・コソットが彼女の知り合いのエンジニアを是非、紹介したいと言ってきているんです」

ライモンディは眉をひそめた。

「コソットが?

なんと言う人ですか?」

「マクシミリアン・チェザリーニと言う人です。僕はまだ電話でしか話したことがないんですが」

ロメオが答えるとライモンディはますます顔を曇らせた。

「聞いたことがありませんね」

そこでロメオの携帯電話が鳴った。

「噂をすれば影ですね。コソット女史ですよ」

ロメオは電話に出た。


どうやらマリアンナ・コソットは今日の午後、私達にチェザリーニを引き合わせ、話を進めたいようだった。ロメオが曖昧な言い訳をしてなんとかマリアンナの申し出を退けている様子をライモンディはいよいよ不満げに眺めた。

私はあまり把握していなかったが、最近、マリアンナ・コソットがオクタヴィアに急接近してきているらしい。

サン・マモロの僧院の件でライモンディに腹を立てているオクタヴィアは、彼の代わりに親切でテキパキ仕事をこなすマリアンナに頼っているのかもしれない。

マリアンナの印象は悪くないが、頼んでもいないのに知り合いのエンジニアを紹介してくるのはどうなのか?


「ロメオ君」

ライモンディはロメオが電話を切るなり、きっぱりとした口調で言った。

「私は貴方が望むなら、市や文化財保護局の人間を喜んで紹介します。私が紹介するのは単なる責任者ではありません。文字通り重役クラスの大物です。彼等はまず訊いてくるでしょう。プロジェクトを担当する建築家や責任者を。

ですから何処の馬の骨とも知れない無名の建築家やエンジニアのプロジェクトを持っていくことは出来ません。その何とかと言うエンジニア、正直言って私は名前も聞いたことがありません」

「勿論、彼にプロジェクトを依頼すると決めたわけではありませんよ」

ロメオは慌てて弁解した。

「それに僕はフェルネーゼさんの友人のジョルジョーネ氏を第一印象でとても気に入っていますから、彼に頼もうと思っています。ジョルジョーネ建築家なら問題ないですか?」

ライモンディは頷いた。

「ジョルジョーネは有名な建築家です。彼なら問題ないでしょう」

ライモンディは太鼓判を押した。

「そうですか。」

ロメオがホッとしたように答えるや否や携帯電話が再び鳴り響いた。

「今度はエンジニアのチェザリーニ氏ですよ」

ロメオは一瞬躊躇したが、決心して電話に出た。


どうやらヴィラの件がどうなっているか知りたくて電話してきたようだ。

ロメオは数日中に連絡すると、相手に希望を与えるような口ぶりで返答し、電話を切ると困ったような顔をして曖昧な微笑を浮かべた。


「コソット女史が彼をかなり強引に推薦してきていて――彼も十中八九、仕事を請け負えると思っているような口調なんですよ」

人の好いロメオは強く頼まれるとなかなか「ノー」と言えない性格である。


「ヴィラの工事は当分見合わせるつもりだと言って断ったほうがいいのかな――」

「どうしてそんな嘘を言う必要があるのよ」

黙って事の成り行きを見ていた私は思わず口を挟んだ。

「別にまだ彼に正式に仕事を依頼した訳じゃないんでしょう?

申し訳ないけど別の建築家にもう依頼したと正直に言えばいいじゃない。

返事を先延ばしにして変に期待させるより、ジョルジョーネさんに決めるなら、チェザリーニさんにははっきり断ったほうがいいと思う」

ライモンディは感嘆と賛美の色を浮かべて私を見つめた。

「ロメオ君。貴方は大変幸運な人だ。貴方はこの私、ロベルト・ライモンディに出会ったと言う幸運に加え、この素晴らしい女性が貴方の伴侶として傍にいると言う幸運に恵まれているのだから」

私は思わぬ賛辞に頬を赤らめた。それは自我自賛ばかりするライモンディの、おそらく私が始めて耳にした他人に向けられた最大の賛辞だった。

ロメオは嬉しそうに私を見つめた。

「分かっています。彼女の存在にどれだけ助けられているか分かりません」

「ロメオ君――」

ライモンディは真顔になった。

「今後、貴方が学んでいくべきことは、事業家としてのノウハウと手腕、そして上に立つ人間の威厳と品格です。貴方はこれから様々な専門家、建設会社、職人を使う立場になります。上に立つといってもメンギーニ達のような高慢さではなく、真の威厳と品位を持って彼等と接していかなければなりません。

メンギーニ達は威張っていますが、愚かで無知な傲慢に過ぎません。貴方は決してそうなってはいけない。リーダーは常に謙虚な人格者でなければならないのです」

ライモンディは父親が息子に、師が弟子に言い聞かせるように切々と説いた。

「貴方は若いし、まだ世間知らずだが、私はなかなか見所があると思っているんですよ。私には息子がいませんから、貴方に対して実の弟か息子に対するような情を抱いているんです。これからも私の助言や協力が必要なら、いつでも何でも相談して下さい。私は今後一生、無償で貴方方をサポートしますよ」


今日のライモンディはいつもの爛々と燃えるような激しさが影を潜め、年長者らしい寛大さと優しさを湛えていた。ロメオは真剣な眼差しでライモンディに応え、熱心に頷いた。ライモンディのような権力者に可愛がられるのは、ロメオの純粋で素直な性格所以であろうと私は思った。


メインディッシュの肉料理が運ばれてきた。子牛肉の薄切りにルーコラとパルメザンをのせた一品だ。柔らかい子牛肉が口蓋でとろけた。


「署名を渋っていたレオナルド・メンギーニに最後の手段として私が何をしたかご存知ですか?」

ライモンディは子牛肉でルーコラをくるみながら尋ねた。

「どうしたんですか?」

とロメオ。

「彼の弁護士に『商談は決裂だ。私の依頼人はこれ以上、示談を進める気はないと言っている』―そう言ってやったんです。

奴さん、翌日慌てて署名しに行きましたよ」

「そうだったんですか。では、忙しくて署名に行く暇がないと言っていたのは嘘だったんですね」

私は目を大きく見開いた。

「当たり前です。レオナルド・メンギーニは狡猾な男ですから、そうやってじらして更に良い条件を提示させようと言う腹だったんです」

「一度は示談の条件に同意しておきながら汚い男だ」

ロメオは嫌悪の色をあらわにした。

「彼等が何て言っていたかご存知ですか?これはミケーレ・オルシーニから訊いたんですが、レオナルド・メンギーニは不動産の評価額を巧く操作すれば七十五パーセントは相続出来るはずだと豪語していたそうですよ」

「七十五パーセント?」

私達は言葉を失った。

「彼等は始めからそのつもりだったんです。

オクタヴィアさんが出生の秘密を知らされていないと知った時、彼等はほくそ笑んだに違いありません。

それで鑑定士のポリーニを抱き込んで彼等に有利な鑑定をさせたんです。全てがうまく行くはずだった。オクタヴィアさんは世間知らずで、しかも頼るべき親戚も友人もいませんからね。しかし、そこで予想外の事が起こった」

ライモンディは悪戯っぽくニヤリと笑った。

「ロベルト・ライモンディの登場ですよ」

ライモンディの口調はいささか芝居がかっていたが、観客を引き込む効果は十分にあった。

「私は貴方方の相談役になったことでボローニャ中に敵を作りました」

「敵?」

私は聞き返した。

「ロレンツォ・アンジェリ氏の生前から、彼が所有する不動産に目を付け、狙っていた人間は大勢いました。しかし、アンジェリ氏はあのような性格で外からの訪問者を一切受けず、家に篭りきりでしたから、付け入りようがなかったのです。

アンジェリ氏が亡くなり、遺産を巡って相続人達が揉めていること、五十パーセントの相続人がミラノの世間知らずな女性である事は、今やボローニャ中に知れ渡っています。少なくともボローニャの主だった公証人、弁護士などの専門家、建設会社、不動産業者、実業家は皆、この相続争いに注目し、貴方方の一挙一動を見守っています。

ですから、この相続争いはアンジェリ家の不動産を狙う連中にとっては絶好のチャンスになるはずでした。

しかし、その前に立ちはだかったのがこのロベルト・ライモンディです。私がオクタヴィアさんの相談役になったために、オクタヴィアさんに近づき、取り入ろうとしていた連中は付け入る隙を失ってしまったのです。

そんな訳ですから、私を逆恨みしている人間は少なくないはずですよ。その筆頭に上げられるのがミケーレ・オルシーニです。私は彼の古くからの友人ですから、彼は当然私が彼に便宜を計ることを期待していました。しかし前にも言いましたが、私は正義を重んじる人間です。信念があります。私は自分が正しいと思った事をしたまでです。

ミケーレ・オルシーニは我々とメンギーニの仲介役を務めたと主張していますが、私は報酬など与えないつもりですよ。実際、何もしなかったんですから」

ライモンディは力強い口調で言い放った。

食事を終え、柱廊(ポルティコ)の中をブラブラ歩きながら、ライモンディは饒舌だった。

「私は貴方とオクタヴィアさんを助けましたが、下心があってやったわけではありません。

私はご存知のように自分の能力に自信がありますし、確固たる実績もあります。この相続問題にのめり込んだのは勿論、サン・マモロの物件が欲しかったというのはあります。そのことは最初にオクタヴィアさんにお会いした時から、隠したことは一度もありませんでした。

ただ、私をここまで虜にした一番の理由は、この相続問題が難解極まりなかったことです。ディ・マウロ弁護士は経験豊かなボローニャでナンバーワンの弁護士ですが、相続争いでこれほど複雑難解なケースは初めてだと言っていました。

私は自分の能力を自負していますから、己のプライドにかけて何としてもこの手で解決したいと思ったのです。

弁護士が介入してきたのはオクタヴィアさんがロレンツォ氏の娘だと言う事実が確実になってからですが、私はそのすっと以前からオクタヴィアさんの相談役を務めていました。

ここまでの経緯は全て、ここに記憶されています」

ライモンディは得意そうにそう言うと、こめかみに指を当てた。

「私は自分の公証人としての実績と名声に誇りを持っており、これを何よりも大切にしています。そして、これこそが私のパワーの原動力となっているのです。ですから汚い裏工作を行って儲けよう等とは考えないし、そんな必要もないのです」

ライモンディの口調は更に熱を帯びた。

「ロメオ君、貴方は素晴らしい伴侶を選んだ。彼女は聡明なだけでなく、全く私欲を挟まずに貴方に協力しているのがわかります。下心や野心がある人間は一目で分かりますからね」

ライモンディがロメオを道の傍らに引きとめて、このように言っているのが聞こえた。

今日の会見で私はすっかりライモンディに気に入られたようだった。


私はまだライモンディを完全に信用した訳ではないが、少なくともその卓越した仕事ぶりと、この相続問題に対する彼の熱意には嘘がない――そう信じたいと思った。



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