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アンジェリ家の遺産  作者: 如月鶯
第1章 訃報
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オクタヴィア

一九五〇年、三歳のオクタヴィアは両親に連れられ、当時ベルギー領だったアフリカのコンゴ(後のコンゴ民主共和国)に渡った。貴族の血を引くオクタヴィアの父アルベルトは異国の地で事業を成功させ財を築いた。

少女時代のオクタヴィアは雄大なアフリカの自然の中でのびのびと育ったものの、生来の人見知りの激しい、極度に内気な性格は、しばしば母レーアを心配させた。


一九六〇年代に勃発したコンゴ動乱を期に一家はイタリアに帰国した。帰国後、間もなくアルベルトは五十五歳の若さで病死した。

オクタヴィアは二十歳で結婚し、翌年にロメオをもうけたが、結婚生活はわずか三年足らずで破綻し、幼いロメオを連れて母レーアのもとに舞い戻った。レーアは気丈で知性溢れる女性で、教師として働きに出ていたオクタヴィアに代わって幼いロメオを育てた。母子家庭ではあったが、アルベルトが遺した財産のおかげで当時の一家の暮らしはかなり裕福だった。ミラノの高級住宅街の贅沢なアパートメントに住み、女中を雇っていたほどだった。


しかしロメオが大学に進学する頃から暗雲が立ち込め始めた。物価の上昇と幾度もの投資の失敗が重なり、一家の経済状態は悪化し、レーアは危機感と不安から賭博に手を出すようになった。しかしそのことは家計の破綻に一気に拍車をかけた。気が付けば貯金を全て使い果たし、借金まで負っていた。一家は借金を返済するために住み慣れた広いアパートメントを売り払い、小さなアパートに引っ越すことを余儀なくされた。


その後もレーアの賭博癖は止まらず、焦燥感から今度はアルコールに溺れるようになった。

二〇〇二年の夏、レーアは突然体調の不調を訴えた。医者にかかりたがらないレーアを説得し、無理やり病院に連れて行くと、末期の肝臓癌で、もはや手の施しようがないと診断された。

それから十五日後、レーアは自宅で苦しみながら息を引き取った。七十五歳だった。


レーアの突然の死はオクタヴィアとロメオ母子に大きな衝撃を与えた。一家の経済的崩壊を招いたとは言え、レーアは二人にとって重要な精神的支えであり、一家の大黒柱的存在であったことに変わりはなかった。社交的で華やかなレーアと異なり、オクタヴィアは子供の頃から内向的で繊細な性格で、友達を作らず、家に篭りがちな少女だった。そのため、強い母であったレーアに依存しているところが少なからずあった。離婚後はたびたび求婚者が現れたにもかかわらず、決して再婚せず、母の元を離れようとしなかった。


ロメオにとって若い母に代わって彼を育て、厳しく教育した祖母はいわば父親のような存在だった。二人はレーアの死のショックと悲しみからなかなか立ち直ることが出来なかった。


レーアの死後、オクタヴィアを心配したロレンツォがしばしば連絡してくるようになった。二〇〇三年にはロメオ達がボローニャにいるこの遠縁の叔父を訪ね、その後も電話や手紙による通信が続いた。ロレンツォとオクタヴィアは共に人間嫌いで動物を愛し、内気で内向的という共通の性格を持ち、そのためか二人は同志のように心を通わせていった。


ロレンツォとの交流は母を失い、孤独感を募らせるオクタヴィアにとってささやかな慰めとなった。

そのロレンツォが二〇〇四年の夏の終わりに突然、オクタヴィア達親子を訪ねてミラノに来たいと連絡してきた。しかしその後、連絡が途絶えたため、オクタヴィアは度々ロレンツォに電話し、ボローニャに会いに行きたいと訴えたが、ロレンツォは断固として承知しなかった。


「私が必ずミラノに行くから」


しかしついにロレンツォがミラノに来ることはなかった。ミラノに届いたのはロレンツォの訃報だった。ロレンツォの死はオクタヴィアの孤独を一層深めることになったが、同時に相続するであろう莫大な遺産によって窮迫した生活にピリオドが打てることを意味していた。


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