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アンジェリ家の遺産  作者: 如月鶯
第2章 遺言状
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夏のひととき

八月に入ると私達はサンレモのアパートメントでバカンスを過ごした。

西リヴィエラの中でもフランスの国境に近いサンレモはカジノと音楽祭で有名な町である。二月に行われるサンレモ音楽祭はイタリア最大規模の音楽イベントであり、サンレモはこの音楽祭の成功によって急激に国際的脚光を浴び、一気に高級リゾート地の仲間入りを果たした。

サンレモの顔となっているアール・ヌーヴォー様式の美しい市営カジノはタキシードやドレスをまとった紳士淑女で賑わう華麗な社交の場である。また花を主要産業とし、町全体に色とりどりの花々が咲き乱れるサンレモは南国らしい陽気さと上流社会の華やかさが交じり合う町だった。


サンレモの家はレーアの賭博で全てを失ったロメオ達一家がなんとか売らずに保持することが出来た古いアパートメントで、海を見下ろす高台に佇むイギリス庭園の付いた二十世紀の古い建物の最上階にあった。


「さっきライモンディ公証人から電話がかかってきた」

バカンス気分にどっぷりと浸り、浜辺で寝そべっていた私はびっくりして身を起こした。

「ライモンディ?」


夏前から、ライモンディがオクタヴィアに頻繁に連絡してきていたのを、私はロメオから聞いて知っていた。彼は数ヶ月前から、遺言状をその筋の権威に解釈してもらい、正式な報告書を作成すべきだと彼女に助言していた。それがカイロリの持ち込んだ『オクタヴィアの親等格上げ作戦』によってしばし保留になっていたのだ。


「うん。ライモンディはアルマンディ公証人とは司法修習生時代、同期だったんだって」

「そう――世の中って狭いのね」


ミラノのアルマンディとボローニャのライモンディが知り合いとはイタリアの法曹界も狭いものである。


「この相続問題に並々ならぬ関心を持っているライモンディが是非、母さんの相談役を引き受けたいと正式に申し出てきたそうだよ。アルマンディもボローニャにいるライモンディの方が適任だと、引継ぎに同意したらしい」

「そう――」


依頼人であるオクタヴィアの知らない所で、公証人同士が勝手に引き継ぎの話を進めていることに私は違和感を覚えた。

念願が叶い、正式にオクタヴィアの相談役となったライモンディは、夏のバカンスを返上し、精力的にこの新しい仕事に取り掛かった。

彼は早速その筋の権威であるボローニャ大学の教授に遺言状の解釈を依頼した。遺言書に記された名前のないもう一人の相続人が持つ二十五パーセントの用益権をオクタヴィアに移転し、更にこの用益権の価値を具体的な金額に換算しようと言うのだ。


九月に入ると、レオナルド・メンギーニが相続受諾の署名をするように電話で催促してきた。数ヶ月後に相続税の支払期限が迫っていたので、さすがに焦り始めたのだろう。  

 

ロレンツォの財産管理人兼会計士だったアンジョーニが、ロレンツォの銀行口座から預金の半額を退職金として引き出して家に引き篭もってしまって、事実上連絡が全く取れない状態になってしまったのもこの頃のことである。

この話をロメオから聞かされた時、私はいくらロレンツォ腹心の財産管理人と言っても、そんなことが許されるのかと心からびっくりした。

話をよく聞いてみると、生前のロレンツォは自分より十歳年上のこの老会計士を盲目的に信頼し、銀行口座の名義まで共同名義にしていたらしい。

それにしても雇い主が死亡した途端、銀行から引き出せる最高額引き出して家に閉じ篭ってしまうとは横領同然ではないかと、私は呆れ返ったが、口座が共同名義であった以上、法的には彼のした行為は不正や横領にはならないのだそうだ。


「アンジョーニはロレンツォの信頼に付け込んで相当着服していたんだと思うよ。ロレンツォの口座の残高、どう考えても少なすぎるからね」

ロメオを憤りも露わにそう付け加えた。


ロレンツォの銀行口座には約三十万ユーロの預金が残されていた。彼が所有していた不動産の数と、その賃収入を考えるとあまりにも少ない金額である。


「ロレンツォは経理の事から何からすっかりアンジョーニに頼りっきりだったんだ」

ロメオはそう締めくくった。


私はふと最初はカイロリ、今はライモンディに頼りきりとなっているオクタヴィアを思った。そして、これまでに見聞した情報やエピソードから私の頭の中で出来上がりつつあるロレンツォのイメージにオクタヴィアの姿が重なった。

この二人は似ているかもしれない――この時、私はそう思った。



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