ばかしあいし続ける妖狐と古狸
奥深いお山に住む馴染みの妖狐と古狸は今日もお山の空き地に集まりどちらがよりうまく人を化かせるかと争っていた。
しかしこういったものは口でいくら言い争ったところで決着がつくものではない。
そこでどちらともなく言い出した。
「ようし、それならあの勝負だ」
「日暮れまでにお互いに相手を驚かせるようなものを人間から騙し取ってこよう」
そうして妖狐は切れ長の目を持つ女性へ、古狸は恰幅のいい大店の主人へと化けると連れ立って山を下りた。その途中で二匹は道中に生えている葉っぱをいくつか摘み取りそれを小判のように見せかけることも忘れなかった。
ふもとの村にまでやって来た二匹は互いに顔を見合わせると、日暮れ時にまたここに集まるようにと言って別々の方へと歩き始める。
二匹はそれぞれに、今日こそ相手を驚かせてやろうという決意を胸に秘めていた。
そうして夕刻になり、二匹はそれぞれに戦利品を手に村のはずれへと戻って来た。
どちらの顔にも今日こそは相手をあっと驚かせる自信が満ち溢れていた。
「今日こそ驚かせてやる」
「それはこっちの台詞だ」
帰り道でもどちらが上かを言い争いながら妖狐と古狸は、お互いに人間から騙し取った品物を風呂敷に包んで大事そうに抱えていた。
やがていつもの空き地へと戻ると、二匹はお互いに持ってきたものを披露する。
妖狐はいま都で流行っているという根付を。そして古狸は高価な簪を。
妖狐も古狸とお互いの持ってきたものを鼻で笑い、自分の持ってきた品物のほうが高価であると主張した。そしてそのままいつものように言い争いに発展し、そのままどちらかがこう言った。
「そんなに言うなら巣に持ち帰ってよぉく見てみろ!」
そして二匹はそれぞれの巣へと戻っていった。相手からの贈り物を大切に抱えて。
巣へと戻った妖狐は早速人に化けると簪を髪に挿す。そして水鏡にその姿を映して、にっこりと笑みを浮かべていた。
彼女の巣には、今日と同じように彼から贈られた簪が数多くきれいに整理されて置かれていた。
同じ頃、巣へと戻っていた古狸は根付をためつすがめつ眺め、そしてにんまりと笑みを浮かべた。
彼の巣には、今日と同じように彼女から贈られた数多くの根付が磨き上げられて置かれていた。
そうして二匹は大切な宝物に囲まれて同じ頃に寝息を立て始める。
次こそは素直な気持ちで贈り物を贈ろうと心に決めつつ。だけど捻くれた自分にはそんなことは出来ないのだろうということを理解しつつ。
そして、せめて夢の中でくらいは素直に贈り物を贈れるようにと願いつつ、二匹は眠りの中へと落ちていった。
お読みいただきありがとうございます
面白ければ評価や感想をお願いします