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『春夏秋冬』

作者: ロッティー

 処女作(笑)です。これから心機一転頑張ります。

春・図書室


 春時雨の中、古びた図書室で小説を書いていた。  


 閑散とした場所では、筆が進む。だから俺は図書室を選んだ。

 ただ、黙々と。ひたすら書いた。無心で。


 小説を書いていると五感が研ぎ澄まされていく様な感覚に陥る。


 時計の針の音。本の(ページ)をめくる音。軋む床の音。椅子を引く音。耳障りの良い楽器の音色。防虫剤の匂い。春の雨の匂い。花の甘ったるい匂い。土の匂い。制汗剤の匂い。微かな本棚の木の匂い。正面からの視線。鼓動。


 その全てが、心地が良かった。


 窓から差し込む陽が段々と赤くなってくる頃、小説が完成した。


 最近は行き詰まっており、久しぶりに最後まで書き切れたことに、達成感を感じた。


『何書いてるの?』


 愕然とした。唖然、衝撃。椅子から転げ落ちそうになった。


 学生服を着た少女が目の前で小説を書いてるのを見ていたからだ。

 入学して間も無い俺は、彼女が誰だか分からなかった。同じクラスにはいなかった気がする。違うクラスの人か?


「あ……」


 言葉に詰まらせていると、彼女は俺が書いた小説を、黒歴史を読もうとしていた。


 慌てて彼女の右手にある原稿用紙を盗もうとするが失敗に終わる。


 彼女はゆっくりと原稿用紙に書き溜めた小説とも言えない何かを読み始めた。


 彼女は這うように視線を動かし、時には頷いたり、『へぇ』や『なるほど』と声を発しながら、じっくりと読んだ。まるで、牛の歩みの様に。


 その姿を見ながら俺は何も言わず、ぽつんと座っていた。止めようと思えば止めれたはずなのに。


 俺は変えて欲しかったのかもしれない。認めて欲しかったのかもしれない。今まで誰にも見せずに書いてきた小説を。


 誰かに見せるということは自己顕示欲を満たすために小説を道具に。低俗な人間がする事だと思っていた。だから、誰にも見せずに、自分の中に仕舞ってきた。


 かくいう俺も、そういう低俗な人間の一端だ。だから見せたいと思ってもおかしくはないだろう?


 ふと彼女が『ふぅ』と一息つき、こちらへと視線を向ける。


『読み終わったよ! 凄いね! 小説書けるなんて!』


 彼女は俺の小説を読んで、認めてくれた。凄いと言ってくれた。


 俺は今までにないほどの満足感に身体中が包まれている様な気がした。


 ふと時計を見る。時計の針は完全下校の十八時三十分を刺しており、俺たちは焦って帰った。


夏・教室


 夏雲を眺めながら、閑散とした教室で昼御飯を食べていた。

 目の前では、上っ面の笑顔で出来た友人――光輝が、耳朶(みみたぶ)にあるピアスをこねくり回していた。校則違反なのに。


 そんな事を考えながら、小説のプロットを頭の中で組み立てていた。


 今でも、彼女――香織に度々書いた小説を見せている。

香織のおかげで小説を人に見せることへの抵抗は無くなった。香織には感謝しかない。


 香織とはクラスが違く、放課後位しか会えてないが嬉しかった。


 ふとドアの方から視線を感じる。そこには香織がいた。香織は『こんにちは』とはにかみながら言い、俺の近くにある椅子に座った。


 光輝が『誰、この子?』と訊いてきた。


 俺は緊張しながら『友達』と答えた。――暑い、恥ずかしい。口の奥がネバつく。


 友達だなんて図々しい奴だ、と自分を心の中で貶した。


 光輝は『ふーん、ちょっとトイレに行ってくる』と言い残

し、教室を去った。


 香織の方に目を向けると、心做しか喜んでいるように見えた。


 え? なんで? 喜んでるの? と訊ける程、俺の神経は図太くなかった。


『今日も小説見せてくれる?』


 しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのが香織だった。


「勿論」


 ぶっきらぼうに答えた。それを聞いた香織は嬉しそうにはにかみ笑いをした。


 聞き心地の良い蝉の鳴き声だけが教室に響いていた。


秋・香織の家


 俺の人生が壊れた日。


 でも、後悔はしていない。なぜなら――。



 秋風に押され、香織の家へと向かった。


 秋晴れの空が綺麗だった。


 香織の家は、山の中にあった。


 インターホーンを押す。ポチッと。


 しばらく経っても、誰も出てこない。


 不審に思い、ドアを確認すると、鍵が掛かっていなかった。

 不法侵入で訴えられるかもしれないという、考えを押しのけ、家の中へと侵入した。


 香織の泣き叫ぶ声が聞こえた。


 俺は逸る気持ちを抑えられず、声のする方へ走り出した。


 生活感溢れる居間の先、台所にはだけて座り込んだ香織と膨れ上がった陰部を見せつけるかのように立つ光輝が居た。光輝が香織を犯そうとしていた。


 香織が、か細い声でたどたどしく『助けて』と言った。


 俺は考えるよりも先に手が出ていた。気づいたら無心で、ひたすら光輝を殴っていた。馬乗りになって、台所にあった包丁を手に取って。


 気づいたら光輝を殺していた。






 俺は初めて人を殺した。


 香織は俺の事を責めもせず、慰めもしなかった。


 ただただ、隣で一緒に座り込んでいた。


 沈黙。血の匂い。柑橘系の制汗剤の匂い。甘い柔軟剤の匂い。


 色々な匂いが混ざりあって嗚咽しそうになる。これからどうしよう。


『死体埋めちゃおうか』


 香織は俺に衝撃の提案をする。ここは山奥だからその辺に埋めてもバレないというのだ。


 死んだのではなく、失踪したことにするのだ。


 俺は驚きのあまり言葉を失い、数分間沈黙が続いた。たどたどしく、か細く、俺は言った。


「俺達には未来がある。だから、だから――。無かったことにしよう。失踪した事にしよう。香織」


 俺がそう言うと香織は泣いた。号泣した。


 俺達は共犯者だ。俺達は犯罪者だ。俺達は――。


冬・書斎


 高校を卒業してから早数年。


 今の私はと言うと、小説を書いていた。人の未来を奪ったというのに、人の未来を創る小説を書いているのは滑稽だと思う。


 殺した当初は小説が書けなかった。


 ペンが持てなかった。


 でも、私は書くと決めたのだ。


 香織に『書け、諦めるな』と言われたからだ。


 あれから香織とは付き合い始めた。お互いに共犯者だからその方が気が楽だろうと言う理由でだ。


 本当の所を言うと、私は香織が好きだった。ずっと、あの春の日に、君に出逢えた、あの日から。私は君の事をずっと愛している――。


 私はあの日、光輝を殺した事は後悔してない。なぜなら君と付き合えたからだ。


 今日も小説を書く。私にはそれしかないのだから。


 春も夏も季節が移り変わっても、私は生きたいと思う。秋も、冬も、春も、夏も。


  私はこの世界で、生きていたい。私は書きたい。書くことで、私はこの世界に自分の存在を刻み込みたい。私がいなくなっても、私の言葉は残るだろう。


 だから、私は今日も書き続ける。生きるために書く。生きた証を、この手で刻み込むために。


 ――私が私であるために。私は小説家なのだから。

今後の見通しはあまりないですけど、ファンタジー作品を書いてみたいですね。更新不定期です。今年中には新作できたらいいなぁ

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