2 S劇場
それから二、三ヶ月たった頃であった。渡辺剣三と舞原編集長は東京都内のS劇場の取材をすることになった。
S劇場は昭和初期頃に成立した由緒ある劇場で、当初の機材を今も使っている。知る人ぞ知る名所である。
S劇場のなかでは、まず最高責任者の佐原氏の話を聞き、そしてその後は、昭和初期から使っている機材を見て、最後に舞台の様子を見るというような取材内容となっていた。
さて、佐原氏の話を聞き、佐原氏と別れてからは昔からの機材を見るために、廊下を歩いていた。
今から、この二人が見ようとしているのは、奇妙な照明の仕組みである。S劇場では舞台の天井に格子のようなものを吊るしていて、その交わったところ全てにランプを取り付けている。幕が変わるごとに人がランプを違う色のものに付け替えているのだ。その両端には扉がついていて、そこから人々は出入りしている。
二人がまさにその扉の一方から入ろうとしたときであった。まるで、このことを予知していたと言わんばかりに丁度内側から扉を開けた者があった。S劇場の華、滝嶋美恵子である。
「今は中に入れません」
「なぜ?」
渡辺剣三が聞いた。
「舞台の準備をしているからです。お二方とも早く舞台の方へ行っては…」
「そうですね、見そびれても困りますし… 機材の取材は後回しにしましょう」
渡辺剣三はそう言って、舞原編集長と共に舞台の方へ向かっていった。