桜散る朝
今年の桜は開花が早かったとかで、満開の盛りを過ぎて半分以上散っている。路上に落ちた花びらが、風に吹かれて転がっていく。
真新しいセーラー服に身を包み、雪の日に歩いた道を再び進む。隣のお母さんも、今日は気合いを入れる日用のスーツ姿だ。同じような組み合わせの家族が、同じ方向を目指して歩いているのが何だか変な感じがする。
学校の正門には、大きな「入学式」の白看板が掲げられていた。写真撮影の待機列みたいになっている所に並び、看板の前でお母さんに何枚も写真を撮られる。なんだか恥ずかしいような、嬉しいような。首の後ろがぞわぞわする。
中に入ると、保護者と生徒は別々に案内される。案内を担当しているのは、内部進学組の高校1年生だそうだ。中高一貫校のこの学校に高校から入ってくるのは、全体の4分の1。少数派だし勉強の進度も全然違って苦労するとは聞いているけど、どうなることやら。
クラス分けを掲示する紙で自分のクラスを確認すると、各クラスのプラカードを持った生徒の所に移動する。内部進学組も今日が高校入学の日になるのは一緒だが、今まで3年通った学校だ。先生と軽口を叩きながら、きゃいきゃい楽しそうにしている。私、うまくやれるかな。
既にこなれた感じの制服の左胸に、白い花のコサージュが付いているのが内部進学組。真新しい制服にオレンジ色のコサージュが受験組のようだ。白い花を付けた生徒が、オレンジのコサージュを手にして待機している。
「あら」
ざわついた中でも、はっきりと通る声。思わず足が止まる。白いコサージュを胸に、オレンジのコサージュを手に持った生徒。明るい栗色の髪を三つ編みにまとめ、金色のような茶色のような瞳が、私の姿を映している。
…なんで?
「入学おめでとうございます」
細く長い指が、私の胸にオレンジ色の花を留める。位置を整えると、満足したのか小さな唇が弧を描く。
なんで、ここに?
「これから、よろしくお願いしますね」
例年よりも温かな、よく晴れた四月のとある一日。
セーラー服に身を包んだ自称吸血鬼は、悪戯っぽく唇に人差し指を当て、私に微笑んだ。




