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雨空と鯰とおっさんズ 7

「どうでしたか?」


 にこにこ微笑む未来は、いつも通りバスケットを広げている。今日は稲荷寿司の具沢山なやつ。小ぶりなお揚げの中にひじきやら人参やら枝豆やら、カラフルで可愛い感じだ。ばくだんとか言うんだっけ。冷やし山菜そばを乗せたトレーを置き、私も正面に座った。


「えーと、うん。夢は見た」


 箸で意味もなくそばをかき混ぜる。未来の目を見ることができず、俯いたまま茶色い山菜を一本口に入れた。甘じょっぱいそれをぐにぐに齧る。


「そうですか」

「うん」

「話したくないなら無理にとは言いませんが。どんな夢だったのか、教えてもらえませんか?」

「うん…」


 未来とキスする夢だった。

 なんて言える訳もなく、作り置きの延びきったそばを啜る。未来も静かにお稲荷さんを口にした。喧騒に満ちた昼の食堂でじっと無言で食べている事実が、きりきりとお腹を締め付けてくる。顔を上げることもできずにひたすら詰め込むように食べている私の耳に、未来の静かな声が響く。


「気は進まないかもしれませんが、もう一晩だけは試してみてもらえませんか?夢の内容までは話さなくても構いません。ただ、夢を見たかどうかだけは教えてください」

「ごめん」

「謝るようなことではありませんよ。元々は妙なことをお願いした私の責任です」

「うん…」


 もやもやずっしりした気持ちが溜まっていく。会話の乏しいお昼を終えて教室に戻ってから、私は未来の役に立ちたかったんだな、と気付いた。なんというか、こう、友達として?いつもお世話になっているから?的な?あれ?何か違うような?

 結局よく分からなくなって、お腹のもやもやは午後の授業中もごろごろぐるぐる回り続けていた。雨は朝から全く変わらず、静かに降り続いている。湿った靴下は、結局放課後になっても乾かなかった。

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