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13 討伐後のひと休み

 

 シャロイラ様の黒い一発で昏倒した魔王にとどめをさして討伐は終わった。


 今は輜重部隊がせっせと食事を作り、王太子や騎士団長たちはドラゴンを解体。するために運ぶ台車を作ろうとして諦めたところらしい。とりあえず飯だと、なぜか王太子と騎士団長が俺とまだ眠るシャロイラ様のそばに腰を降ろした。えー。


「あの黒い光はなんだ?」

「あれはシャロイラ様の変異した神聖力です」

「神聖力、で納得するには余りあるものだったが……変異?」

「はい。怒りによって攻撃性が増すようです。詳しくは神官長へお尋ねください」

「ふむ……それは、大聖女殿自身が操作できるものか?」

「はい。一、二発までは。神聖力の消費量が高いので、それ以上になるとシャロイラ様の命にかかわるそうです」

「なんと……」

「なので、もしシャロイラ様を正式に軍に取り込もうとするのであれば、神殿は全力で阻止させていただきます」


 王太子の眉間にはしわが入ったが、騎士団長は腕を組んで目をつむり難しい顔をしたままだ。生意気を言ったらすぐに剣を向けられると思ったのに。


「まあ、今のところ近隣諸国とは良好な関係ですし、魔王も倒しましたし、今回の遠征隊は全員生きていますし、軍としては何の問題もありませんよね」


 戦力増強する理由がないよねとうかがう。王太子はまだシャロイラ様を諦めきれないのか少し目を泳がせたが、騎士団長はゆっくりとまぶたを上げた。


「神殿が謀反をおこさぬ保障は?」

「おこす理由がありません」

「大聖女のたかが従者が言い切ったとして「私の従者をたかがですって……」」


 静かに寝ていたはずのシャロイラ様が、またどうでもいいところで反応してしまった。


「シャロイラ様、そこは対外的にどうでもいいところですよ」

「そうだとしても腹が立つのよ、どーしても。神殿所属の誰かを馬鹿にしながら聖女は欲するその厚かましさにイラッとくるわー」


 起き上がらないので、まだ眠ってくれてていいよと願いを込めて頭を撫でる。庇ってくれるのは嬉しいけど話が進まないから。


「王太子だし団長だし偉いんだろーけど、そんなに遥かの高みにいるつもりなら全員に『大聖女の加護』をつけてやる。タンダと同じかそれ以上をこなしてのちに神殿に物申すように」


 ……いや、寝っ転がったまま凄まれても王太子も騎士団長も困るしかできないんですが。


「……『大聖女の加護』を大盤振舞いするなんて太っ腹ですね」

「大聖女だからね!」

「では大聖女様、事務局長にその理由を説明してくださいね」

「うえっ!?……えー、と……私がするの……?」

「シャロイラ様が仰いましたので」

「ええ〜……えええ〜……」

「では、今のは言わなかった、聞かなかったことにしてもらえるか、王太子様と騎士団長様におたずねください」

「タンダ〜」

「シャロイラ様が仰ったんですよ?」


「ぐぬぬぬ……」と唸ってすぐに正座をしたシャロイラ様は「謝りたくないのでどうぞここだけの話にしてください」と少し頭を下げた。とたんに慌てる二人。


「いや聖女殿、こちらも穿った物言いでしたし」

「ええ、あまりの力に焦りました。失礼しました」

「はい!じゃあこれで終わり!」

「いえ、私たちの話はまだ終わってませんので、静かにできないのであれば食事作りのお手伝いに行ってもらえますか」

「もー!どんな難しいお話なわけ?でもおさんどんのお手伝いはする!ごはん〜ごはん〜♪」


 ふらつかずにスキップする姿にひと安心。食事をすませるまでの休息は足りたようだ。

「さて話の続きだが」と騎士団長が仕切り直す。


「あれほどの力があれば国盗りも楽であろう?」

「国盗りだけならそうでしょうが、国とは続くことにこそ意味があります。それは私たちにはできません。正直なところ日々を過ごすのに精一杯ですし、国政には門外漢ばかりですので、余計なことをして民を路頭に迷わせるのは教義に反します」

「ふん、国盗りできることは否定しないのか」


 騎士団長が憮然とする。


「国盗りというか、物理的に王城を壊すのは容易いかと」

「うん……聖女殿のアレがあれば一瞬だろうな……おかげで魔王にとどめを刺せた」

「殿下」

「団長、私たちだけは事実を認めよう。ただ、記録に残すかどうかだ」


 神殿としてはシャロイラ様の黒い光は記録されない方がいい。神官長たちが言うにはシャロイラ様ほど規格外の聖女は我が国含めここ二百年は周辺諸国でも確認されていない。なので王城の記録に残されると、後任の聖女たちが困ってしまう。聖女は民の癒やし手という戦力であって、実戦向きにしてはならない。


「確かに過ぎた戦力は(のち)の者の負担ではあるな。だが魔王のことは必ず記しておかねば。過剰なほどに準備したつもりの今回の討伐もかなり苦戦した上に騎士団だけで片をつけられなかったのがな……悔しい」

「申し訳ありません」

「いや、団長が謝ることではない。騎士団並みの戦力を持っているのが神殿だというのが複雑ではあるが」


 加えることがあるのなら、『聖女の加護』を与えられた神兵はまあまあ強いことだ。


「……まあまあ?」

「私については『大聖女の加護』でしたのでかなり無茶がききます」

「ふむ。『聖女の加護』もどんなものか気になるな。ならば、落ち着いたら神兵と騎士と合同訓練でもしてみるか」

「おい団長」

「それもいいかもしれません。戦力の把握はお互いに悪くはないですし、神兵長に伝えておきます」

「うむ」

「……従者殿、無粋なことを聞くが、そなたは神殿では地位が高いのだろうか」


 高くない。はっきりいえば小間使いで、シャロイラ様の専属従者だから生意気を言えるだけだ。神殿内の上下関係がなあなあなのもあるが、それは黙っておこう。


「いえまったく。ただ、神殿全体として上司への報連相がしやすい体制ではあります」

「ふむ……その割りにはだいぶな決定権を持っているようだが?」

「合同訓練ならそれほどでもないと思いますが」

「それでも、と思うがな」


 王城と神殿では働く人数が桁違いだし、人数が多い王城なら報連相の仕方も違うだろう。神殿が雑で心配されてしまっただろうか。……まあいいか。

 そんなことより。


「下っ端神殿職員なので、弓については取り次ぎ致しかねます」

「は!?何故だっ!?今、報連相が楽と言ったではないか!?」


 手元から離さなかった弓をがばりと抱きしめる騎士団長。いやそれ俺の弓だから。


「なぜもなにも、ご好意でいただいた物ですので。狩猟組合に直接ご確認ください」

「ちょろっと紹介してくれ!」

「え〜」

「そこをなんとか!……若い頃にちょっとやらかして狩猟組合長とは折り合いが悪くて……」

「団長……」

「いえ殿下!私個人の問題であって騎士団にはなにもしがらみはありません!」

「そうですか良かったです、返してください」

「そこをなんとかタンダ殿!」

「それはあげませんよ、返してください」

「せめてひと言口添えをををををを!」


 とうとう団長から『殿』が付いてしまったが、口添えって言われてもなぁ。昔あったなにかによっては壊してしまった鉈の分以上に怒られる気がする。


「頼むうううううっ!」


 酔っぱらいに絡まれるのもうんざりするが、素面(しらふ)のオッサンに絡まれるのもしんどい……


 一時間近くつきまとわれた俺を王太子が憐れんでくれて、狩猟組合長につなぎをつけることで、シャロイラ様の黒い光は討伐公式記録には残さないでくれることになった。


「さすがに騎士団の名誉に関わる……」


 個人じゃなく全体に関わるのかよ。


 とりあえず、団長ありがとう。











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― 新着の感想 ―
[一言]  神殿の2人の働きが大きすぎて、王太子と騎士団長の立場ないですよね(^^)  これで、騎士団の力だって記録残したら、次回、甘く見て全滅という可能性が出るわけですから。
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