第6話 高明なる丘への行進
連日投稿が途切れてしまいました。これからも出来る限り、連日投稿を頑張ります。後書きに曲の解説を載せてますが気にしないでください。
4月9日、それはサラリーマンや自営業など様々な職種で働いている大人たちにとっては何気ない平日だが俺にとっては人生のターニングポイントだった。桜が舞う今日、音谷凌市は県立伯耆高等学校に入学する。今日は仕事が忙しく両親は来なかったが、母方の祖母が来てくれた。
「凌くんと久々に会えて嬉しいよ。可愛い孫が伯耆高校なんてわたしゃ鼻が高いよ」
「おばあちゃんそんなことないよ。照れるじゃん」
久々におばあちゃんと会えて嬉しかった。実は小さい頃からおばあちゃん子だったのだ。おばあちゃんは学生時代強豪校で吹奏楽部に入り、全国大会に出場し5位を獲得した実力者だった。おばあちゃんが演奏した曲をレコードで聴いて育った影響で俺も吹奏楽に入ったのかもしれない。
おばあちゃんとは昇降口で別れ、俺は掲示してあった紙に書かれたクラスへ行った。俺は3組らしい(8クラスある)。教室に入るともう既に仲良しグループは形成されており、陰キャの俺が立ち入る隙はなかった。仕方なく自席に座ると、隣の席には里香がいた。
「凌と隣だ!またよろしくね」
微笑みながら話しかけてくれた。良いことと悪いことは等しく訪れるものなんだなと思った。
その後何とか前後の男子とは挨拶を交わし何とか仲良くなれた(気がするだけなのでは?)。その後担任が入り、入学式を行う体育館へ移動となった。
「3組」と教頭先生らしき人がマイクでしゃべり、俺たちは体育館へ入場した。体育館の2階にあるスペースでは吹奏楽部が演奏していた。式典のための行進曲「栄光をたたえて」だった。その後着席し、校長先生の話となった……長かった。
校長先生の話が終わると8クラス320人の点呼となった。これも長い。親友の兼田誠は6組らしい。点呼が終わると吹奏楽部がステージ設営を行っていた。伯耆高校入学式では吹奏楽部の演奏も行うのが慣例だと後から知った。
全体では50人ぐらいいそうな大編成だった。そうこうしているうちに3年生でTrp.を持った部長らしきひとが前に出てマイクを握った。
「1年生のみなさん入学おめでとうございます。私たちは吹奏楽部です。吹奏楽部では2、3年生の48人で活動しています。今回はスッペ作曲、軽騎兵序曲を演奏します。どうぞお聴きください」
部長が礼をすると指揮者が指揮台に上がり、演奏は始まった。この曲は小さい頃からおばあちゃんのレコードで聴いていたので知っていた。俺の編曲作品の第1作目だしね。
出だしの金管のファンファーレから終わりまで手に汗握る名演だった。中学生と高校生ではこんなにも違うのだと思い知らされた。
「凌すごかったね!あれって凌が吹奏楽版に編曲した曲だよね?」
「ああ。吹部がやってた譜面よりは拙いけどね(笑)」
教室に帰るなり里香が話しかけてきた。それほど里香にとってもすごい演奏だったのだろう。その後担任、クラスメイトが自己紹介し、1日目は終了した。
「凌くんあの吹部の演奏すごかったね」
帰り道、おばあちゃんも言ってきた。おばあちゃんのお眼鏡にもあの演奏はかなったらしい。久々におばあちゃんの家に行き、おばあちゃんの全国大会の音源を聴いたりと有意義な午後を過ごした。
おばあちゃんは中学、高校と吹奏楽部に入り、全国大会に3回出場し、軽騎兵は最後のコンクールでやったらしい。ちなみに5位を取ったときの自由曲はW.シューマンの「チェスター序曲」だということを今日、初めて知ったのだった。
凌のおばあちゃんがやった「チェスター序曲」は作者もやったことのある思い入れのある曲です。確かCymbalsとWood blockをやったような。解説によるとこの曲は、ルイジアナ大学のバンドの学生たちの会である「パイ・カッパ・オミクロン」の委嘱により、1956年に作曲され、翌年出版されたらしいです。曲は木管楽器による美しいコラールからはじまります。ト長調のこの親しみやすい旋律は、ウイリアム・ビリングス(1746~1800)が1778年に出版した「The Singing Master’s Assistant」という本のなかにある「チェスター」という歌からとられています。1776年独立戦争がはじまっており、この「チェスター」は当時革命歌として広く歌われました。内容は「暴君として彼らの鉄のむちを振らしめよ。我らは恐れない。ただ神を信ずるのみ、ニューイングランドの神は永遠に我らをすべて救う」というもので、作詩をしたビリングスはアメリカで生まれたはじめての作曲家で、アメリカ独立期の音楽史上重要な人物。この主題が木管による美しいアンサンブルで示されたあと、いきなり金管セクションにより長3度下のホ長調で繰り返されます。主題の提示がすむと、曲は一変して2/4拍子となり、金管と打楽器が打ちこむ力強いリズムにのって、木管が華麗な変奏曲を展開します。この変奏は、次々と転調し、リズムを変え、金管楽器に引き継がれ、打楽器を加えて力を増し、終曲へと盛りあがっていきます。とのことらしいです。