第2話 「追憶」~よみがえる日々へのオマージュ
なんやかんやいって2曲はさくらのうたと青春の輝きとなりました。今回はセリフが少なくなっております。
現役単独のステージも終わり、俺たち3年も加わる時間となった。毎年3年生も加わるこの演奏では2曲程度演奏することが慣例となっており、今年も吹奏楽オリジナル曲とポップスの2曲となった。
1曲目は福田洋介作曲「さくらのうた」だ。
さくらのうたは課題曲としては珍しく一部の楽器のみで奏でる静かなパートが多い、そして賑やかな楽曲と比べて小さなミスが目立ちやすい曲である。また、通常は複数人で演奏するメロディをたった1人で演奏する「ソロ」も多くある。そういった曲調ゆえ、ひとりひとりに高度な音楽能力が求められる曲でもある。
2曲目はカーペンターズの「青春の輝き」という曲だ。
アメリカの兄妹デュオ、カーペンターズが1976年に発表したナンバー。妹のカレン・カーペンターが、生前最も気に入っていた曲と言われている。包容力あふれる歌声と切ないメロディーが心にしみるバラードを、サクソフォンソロと吹奏楽のためのアレンジで演奏する。
さくらのうたは課題曲もなったほどの曲なので当たり前だが難しい。やはり俺は鍵盤楽器が苦手だ。グロッケンなどやるべきではなかたったと思う反面時たま感動するメロディーを奏でることもありこちらも涙腺が緩む。好きだった里香との中学校の思い出、怖かった爺さん先生の指導。俺ってこんなにも泣けるんだなと今までのことを思い出しているうちにさくらのうたは終わった。
2曲目は反対にはっちゃける……という訳ではなくバラードをやるところも俺ららしい。小学生の頃から打楽器に触れていたとはいえ、中学校の吹奏楽部は未知の世界だった。そんななかで怖い先輩が沢山いたが人一倍目をかけてくれた顧問の爺さん先生、卓絶した技術を持ちながら慢心せず俺のことを気にかけてくれた大好きな人。辛く消えたいと思ったことがないわけではなかったが終わってみると存外よかったのかもしれない。親友であるAlto .saxの兼田 誠の泣けるソロが終わるとき心なしかみんなの顔にも滴がこぼれ落ちていた。
なり止まない拍手のなか俺たちの青春はまくを閉じた。余韻に浸っていると里香が俺に話しかけた。
「お疲れ様。凌のグロッケン思わず演奏中なのに泣いちゃった」
「ありがとう」
「……私ね、高校でも凌と吹奏楽がしたい、もっと凌と一緒にいたい!」
「ありがとう。俺も里香の隣で演奏できるよう頑張るよ」
今告白すれば彼女はOKしてくれるのか、いや100%有り得ないだろう。何故なら俺は里香にそんなことを打ち明ける勇気も持っていなければ里香と並べれる技術も持ち合わせていない。いつか、里香の後ろではなく隣を歩きたい。それが俺の生きる一つだけの意義だから……
しかし俺はまだ知らなかった。中学のときとは比べものにならない程辛く心を磨り減らす日々が待ち受けてるとは……
この作品はフィクションですが、友人や筆者の経験を織り混ぜております。私も少し前までは吹奏楽に青春を捧げたものです。やや暗めのストーリーですが、引き続き読んでいただけると幸いです。