第1話『マシロ視点』-7
ゾンビ映画みたいに共喰いはしないらしい。感染者同士で争うことなく迷わずこちらに集団が突っ込んでくる。
「離れろ!」
セイの叫び。
同時になにかがすっ飛んできた。反射的に避けた結果、廊下の右側に私とセイが転がり、左側にワサビさんが倒れる。
ドアだった。さっき私が固定したドアが床に突き刺さっている。あいつらが投げてきたんだ。
通路の右と左に分断された。
勢いそのまま大量の感染者が迫ってくる。
「お前ら、走れ!」
ワサビさんがカードキーを使って地下フロアへの隔壁をオープン。
床に刺さったままの大きなドア。
目の前のドアが邪魔だった。そしてすぐ後ろからたくさんのバケモノが近づいてくる。
そちら側へ回り込む数秒の時間すらない。
私は瞬時に地下へ行くルートを諦めた。
さきほどこのフロアに降りてきた業務用エレベーターがまだ生きている。現状、脱出ルートはあれしかない。
『セイ、あっち!』
二人で業務用エレベーターに飛び込んだ。それを見たワサビさんがとっさに隔壁を閉じる。
ほかに選択肢がなかった。無情にも地下への入り口が閉じていく。
とりあえずあちら側のワサビさんはたぶん大丈夫だろう。地下エリアはまだ安全なはず。
「お前ら、外からの脱出は無理だ。なんとか地下へこい! まだルートはある!」
その声を聞きながらセイがエレベーターの『閉』ボタンを連打。ボタンの位置が高すぎて小柄な私では届かない高さだった。