第1話『マシロ視点』-6
私も一応、適応してるらしいけど脳が焼き切れるからと情報に制限をかけられている。
物質を変化させる錬金術を少し教わっただけ。武器も自由に作れないし、無敵の万能薬も作れない。
ワサビさんが私の頭を指さした。
「その無限の設計図が利用できれば適応者はなんでも作りだせる……らしい」
『らしい?』
「まだ無いんだよ、人体実験の成功例が。人間に試すリスクが大きすぎてまだ実験したことがない。どんな副作用が出るか分からないからな。所長命令で止められていたんだ」
すぐにセイが反応した。
「でも誰かが実験を強行した?」
「そうだ。止められていた人体実験をやっちまった奴がいる。……以前やっていた動物実験で、劇物は死に対して恐ろしく敏感だってことが分かっている。人間よりも強烈に死を恐れているんだよ。だから繁殖して仲間を増やそうとするんだ。今までは動物実験の結果だが、人間に感染しても同様の結果が出た。これはけっこう大きな前進だな。研究としてはね」
『この最悪の状況で言われても……』
「まあ仕方ないさ、それが研究者ってもんだ。そう言やぁ先日、サクラが言ってたな、動物実験が成功したって。ただ知恵をつけたそいつはソッコーで逃亡した。実験動物が逃げたってな」
『その動物って?』
「猫だよ、黒猫」
私が最初に見かけた黒猫かもしれない。
突然の爆発音。建物が大きく揺れた。
セイが上を見上げる。
「地震じゃない。生き残った誰かが戦っているのかもしれない」
「たぶん警備部の連中が暴れてやがんな」
『警備部?』
「ウチはヤベェ研究しているからな。トラブルに対応するために警備部って武装部門があるんだよ。あれこれ武器を所持している武装集団さ。こういう時のんびり警察の到着なんて待っていられないからな。……とはいえ、警備部の連中だけで鎮圧は無理だろうなあ。なんせ感染者が多すぎる」
『地下ってどうなっているの? 全部、研究所?』
「いや、ウチは普通の薬品製造もやってるんだ。下には製造ラインがあって一般薬品の地下工場になってる。さらにその下にウチの開発部。劇物はその最下層にあったんだが……」
再び爆発音。建物がさらに揺れる。
「ここにジッとしているのも危ないか。まず地下へ行こう。俺のカードキーで地下に行ける。なにより貴重な適応者を死なせるわけにはいかない」
アルミ棒でセイが天井をコンっとつついた。
「上の建物が崩れてきたら生き埋めになりませんか?」
「大丈夫だ。最下層から地上へ一気に脱出する専用エレベーターがある。それに地下の研究エリアのほうが安全なんだよ、ここは。施設の強度がまったく違う」
三人で部屋を出る。通路にはまだスプリンクラーの消火水が飛び散っていた。
その時、さっきの部屋。むりやりドアを固定した感染者を閉じ込めたあの部屋。
そのドアが壁ごとブチ破られた。
一斉に大量の感染者が通路に飛び出してくる。