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バズらない奴に名前はない。  作者: 清水雪灯
バズらない奴に名前はない。
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第1話『マシロ視点』-5

 誰かの悲鳴が遠くで聞こえた。もう私たちにはどうすることもできない。

 (あきら)めた様子でワサビさんが落ち着いて説明を続ける。

「この研究所は地上(ちじょう)五階、地下(ちか)五階の全部で十個のエリアに分かれている。ただこのぶんじゃ地上フロアは全滅だなあ」

「まだどこかに生存者がいるかもしれません」

 セイの言葉にワサビさんが(うなず)く。

「かもしれない。まあ警備(けいび)()に行けば監視カメラであっちこっち(のぞ)けるが……助けに行くにも武器がいるだろ。ちゃんとした武装もってんの警備部の連中だけさ」

『ここまで感染拡大したら街にバケモノが飛び出して行きませんか?』

 驚いた顔でこっちを見た。私の目を(のぞ)き込む。

「その赤い目。へえ……お前さん、感染しているねえ。きちんと自我(じが)もある。まさか適応(てきおう)(しゃ)かい、はじめてみたよ」

 どうやら私が適応できたのはかなりのレアケースらしい。

 ワサビさんが言った。

「感染者は飛べるわけじゃない。この研究所は高い壁に(かこ)われているからアイツらが街に脱走する心配はないさ、今のところはね。ただ想定外の進化とかされるとアウトだな。お嬢さんも劇物に適応して進化しちまってるだろ?」

 劇物から(おそ)わった錬金術のことだろう。同意として(うなず)く。

『結局、劇物(げきぶつ)ってなんですか?』

「まだ研究途中で分からないことも多いが……。万能(ばんのう)生物ってとこかなあ、劇物そのものが生きているんだよ。感染したら乗っ取られて自我(じが)(うしな)う。劇物は死に対して恐ろしく敏感でね。人間よりも強烈に死を恐れている。だからアイツらは繁殖(はんしょく)して仲間を増やそうとするんだよ」

『でも、ここってただの鉱石(こうせき)研究所じゃないの? 何年か前に隕石(いんせき)が街に落ちて……』

「情報操作だよ。この街に落ちたのは隕石じゃない。奇跡の宇宙生物だ」

「奇跡の?」

 部屋の外を警戒しながらセイが振り返る。

「ああ、あの劇物にはとんでもない量の情報が(ふく)まれている。どんな病気だって治せる万能薬(ばんのうやく)だって大量破壊兵器だって何でもつくれる設計図が(はい)ってるんだ。開発部が動物実験で(ため)してみたが情報の容量がデカすぎて見事にダウンロードは失敗した。情報をデータ化する前にみーんな脳が焼き切れた。だが確実に未知(みち)の情報が劇物の中に眠っている。俺たち開発部はそれをなんとか引っ張り出すために研究しているんだよ」

『で、結果こうなったと』

「犯人は分からない。誰かが劇物をばら()きやがった。まあ、ここで(はたら)く人間ならウワサ程度には知っているさ。劇物って呼ばれるヤバイもん研究してるってね」

《彼の言う通りだ、マシロ》

 左目がしゃべりだした。

《あらゆる生物(せいぶつ)にとってボクたち劇物は(きわ)めて危険な存在だ。と同時にすばらしい可能性を秘めている。無機(むき)(ぶつ)有機(ゆうき)(ぶつ)に共通してすべてのものには設計図がある。それを自在(じざい)具現(ぐげん)()できるんだ。完璧にボクたちと適応できた者はあらゆる奇跡を手にできる》

『適応できなきゃ、(そく)バケモノでしょ? (ねが)()げだわ。普通なら()けにならない』



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