第1話『マシロ視点』-3
《マシロ、落ち着け》
『ムリだっつーの!』
《さっき使った能力を思い出してくれ。ドアノブにカギを掛ける金属があるだろう? それを変化させるんだ》
ドアに意識を集中する。
一瞬で焦りが消えた。呼吸が落ち着く。
見えてきた。CGみたいなワイヤーフレームが目の前に浮かび上がる。金属部分を解体するイメージ。そのままドアの蝶番を溶かしてドアと接合。さらにカギの部分も溶かしてドアと壁を完全に固定する。
わずか数秒でドアがロックされた。向こう側からバシンバシンとドアを叩く音がするけど、なんとか感染者を閉じ込めることができた。
『……大丈夫みたい』
「とりあえず助かったよ。でもいつ壊されるか分からない、先に進もう。少しでも安全な場所を確保しないと」
事務所から離れて研究所の奥へ進む。
入り口のロビーを抜けると自然と足が止まった。
奥の通路には二階へと続く階段があった。でも隔壁に封鎖されて上の階層には上がれない。
通路の左右にそれぞれ部屋があった。小さな窓がついていて中に人の気配はない。普通にイスやテーブルが並んでいた。どちらの部屋もなにかの作業室かもしれない。
どうやら下にも行けるらしいけど、下のエリアに行く前にデカイ隔壁が下りていて、壁にセキュリティ装置が張りついている。下のエリアへ行くためにはカードキーが必要らしい。
「どこかでカードキーを見つければ下のフロアに行けるね」
『どっかの部屋に隠してないかなー』
外に出ても感染者。内部にいても感染者。
正直、ここから上のエリアと下のエリア、どっちに行くのが正解なのか分からない。
『ねえ劇物、あなた研究所のどこから出てきたの?』
《ボクはこの研究所の最下層にいたんだ。なぜか突然本体から切り離されて捨てられた。ボクのほかにも切り離された劇物がいくつもいたよ》
その多数の劇物が人間に感染して、結果こうなってしまった。
『あ、あれエレベーターかな』
封鎖された階段、その隣に業務用の大きなエレベーターがあった。まだ電源が生きている。ちゃんと動くようだ。
ここでジッと待っていても意味がない。隔壁で塞がれ階段が使えない以上、移動方法はこのエレベーターしかないかも。
ボタンをおしてエレベーターを一階に呼び寄せる。
するとエレベーターが到着する前に下のエリアへ続く隔壁が突然動いた。隔壁が解除され重そうな壁が開く。
「お、生存者、発見だな」
下のフロアから白衣のおじさんが出てきた。どうやら普通の人らしい。階段をのぼってきたその研究員がゆらゆらと手を振って近づいてくる。
さっき襲いかかってきた感染者は赤い目をしていた。このおじさんの目は普通だった。どうやら安全な人間のようだ。
「まだ無事な人間がいたか」
と、そのタイミングで一階にエレベーターが到着した。ゆっくりとドアが開く。
いた。エレベーターの中に血だらけの白衣を着た感染者が五人。私たちを見た瞬間、一斉に走り出す。獲物を見つけて突っ込んできた。
「食欲旺盛な連中だな!」
セイがアルミ棒を構える。
《感染者に断食の概念はないからね》
『ちょっと黙ってて劇物!』
《すまない》




