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バズらない奴に名前はない。  作者: 清水雪灯
バズらない奴に名前はない。
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第6話『マシロ視点』-2

「もう少し!」

 ヤナギ部長の隣りをワサビさんが走る。あの人がいないと生体認証でロックが()けられない。

 犬型(いぬがた)のスピードが予想以上だった。壁や柱、天井すべてを利用してあらゆる方向から接近してくる。そのうちの一匹(いっぴき)が横から飛び込んできた。

 ()に合わない。視線の先、そこにいたのはワサビさんだった。

「どうしろってんだ!」

 犬が噛みつく、その寸前(すんぜん)だった。

 ヤナギ部長が犬の(くち)の中に銃ごと突っ込んだ。

 ゼロ距離の発砲。犬の頭が丸ごと吹き飛ぶ。

()まるな!」

 叫びながら大型(おおがた)拳銃で乱れ撃つ。

「ヤナギ部長!」

 アカネが思わず振り返る。

「この事件を終わらせろ。行け!」

 足を()めた。この状況で足を()めてしまった。

 その瞬間、ほんの数秒のあいだにヤナギ部長へ次々と(むら)がるバケモノたち。

 あいつらは、またたく間に彼の全身を食い散らかした。

 声はなかった。

 断末魔(だんまつま)の悲鳴すらなくヤナギ部長だった物があっけなく床に転がっている。

 悲しみも怒りも絶望も、すべて置き去りにして全員が走った。最下層への隔壁は見えている。

 それでも。

『間に合わない!』

 このままでは誰かが襲われる。

 もうあれこれ考えている時間はない。とっさに床に手をつきクリエイトを発動する。

 できる限り集中力を高めこの空間全部の映像、距離、素材、形その他すべてを認識する。

 できるはずだ、私なら。

『プレゼントだ、喜べぇぇぇー!』

 瞬間。床、壁、天井すべてから形状を変化させた(とが)った円錐状(えんすいじょう)の物が飛び出してきた。

 それは鋭利(えいり)な凶器となってバケモノたちに次々と突き刺さる。巨大な円錐(えんすい)に全身を貫通(かんつう)され動きを止める犬型。

 でも全滅ではない。取り逃した奴らがいる。

()まらないで!」

 セイが叫びながら走る。

 下へ続く階段。もう隔壁が目前にある。

「あけるぞ!」

 ワサビさんが生体認証で隔壁をオープン。

 一斉(いっせい)に全員がなだれ込んだ。私以外(いがい)は。

「マシロ!」

 セイの声。

 容赦(ようしゃ)なく隔壁が閉じようとしていた。

 自分の背後からバケモノたちの気配が近づいてくる。

 全身の筋力を最大限に活用する。

 全力で床を蹴った。すぐ後ろに犬型の呼吸が(せま)る。

 ギリギリのところで跳躍(ちょうやく)

 私の小さなカラダが地下五階へと転がり込んだ。

 ほぼ同時に閉まる隔壁。

 壁にドスンっと突撃してくる音が聞こえた。数回ほど続いたあと、音と衝撃が()まる。

 壁の向こう側が急に静かになった。諦めたらしい。

『助かった……』

 振り返る。

 セイ、アカネ、ムラサキ、イチゴ、ワサビさん。

 ヤナギ部長は犠牲(ぎせい)になった。

 みんな言葉がない。そりゃそうだ。もっとも戦場に慣れていた人が真っ先にやられた。

「いらっしゃいませえー」

 間延(まの)びした声。そこに緊張感はなかった。

 振り返った先。全員の視線を受け止めても表情は変わらない。ほんのり桜色の髪。白衣。どこか眠たそうな目。

「ようこそ開発部へ」

 最下層。

 研究員サクラがそこにいた。



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