第1話『マシロ視点』-2
「じゃあその錬金術で銃とか造れないか? なにかの物質を利用して」
《拳銃の設計図を見たことないだろう? キミが想像している以上に拳銃の構造は複雑だ。難しい設計図ほど脳に負担がかかる。さらに現状、素材が足りない》
『ムリっぽいよ』
「ダメかー……」
セイがハッとした表情でスマホを取り出す。
「警察とか助けてくれないかな」
バケモノの暴走はまだ研究所のみ。街はまだ安全なはず。警察に救助を頼めるかも知れない。
『いけるかも』
スマホの画面を見た途端、その期待は瞬殺された。
「圏外だ。この研究所、電波が届いていない」
『どゆこと?』
《ボクら劇物にかかわる事は極秘情報だからね。情報漏洩を警戒して特殊な妨害電波が邪魔しているんだ。彼のケータイからではメールも電話も不可能さ》
『外からの救助はムリっぽい』
「自力で脱出しないとダメか……」
どこかでガコンッという音がした。
焦って周囲を見るけど誰もいない。
でも気配はあった。近い。誰かいる。
『この事務所のどこか? ……いや、違うかな』
足音がしない。でもズルズルと引きずるような、何かが動く音がする。
視線を低くして注意深くデスクの下をのぞく。誰もいない。
『大きめのロッカーに隠れて……』
いなかった。
「本当に誰もいないのか……」
『うん、べつの部屋なのかも』
もう一度ガコンという音。天井の一部が落ちた。人影も落ちた。
崩れ落ちた天井の残骸を踏みつけ起き上がった白衣の女性。なにを食べていたのか顔面、血だらけだった。そしてこちらを見て跳んだ。
すさまじい跳躍で飛びかかってくる。
「いきなりかよ!」
セイがアルミ棒で女性のボディをぶっ叩く。フルスイングの一撃。
腹部を叩かれた衝撃で吹っ飛ぶバケモノ。床に転がって数秒、すぐに起き上がって突撃してきた。腕や足が変な方向に曲がっているが気にせず突っ込んでくる。
《感染者も構造は人間と同じだ。頭か心臓を狙え》
『どりゃあああーっ!』
私が女性の頭めがけてアルミ棒を突き刺す。いやな手応え。
『お願いだから、もう動かないでよ……』
頭部に突き刺さったアルミ棒をなんとか引き抜く。大量の出血を撒き散らし白衣を赤く染めながら女性が倒れた。さすがに動かない。
『感染者ってみんなバケモノになるの……?』
《適応できなければね。選ばれなかった者は全員アウトさ》
と。
さきほどの天井からボトボトと人間が落ちてきた。次々と大量に。
全員、目が赤く変色している。ここの研究員なのか全員が白衣だった。その連中が私たちに気がつき一斉に動いた。
「ヤバイヤバイヤバイ部屋から出よう。マシロ走って!」
『もう全滅してんじゃないの、この研究所!』
《噛まれても劇物に感染するぞ。気をつけてくれたまえ》
『くれたまえって、なんだよおーっ!』
二人で事務所を飛び出す。しかしこのままでは感染者まで部屋から出てくる。
『ドア押さえて!』
廊下に飛び出した瞬間、二人でドアを押さえ込む。
うめき声を上げながら感染者が凄まじい力でドアを叩く。
『カギ掛けないと!』
「俺が持ってるわけないだろ!」