表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バズらない奴に名前はない。  作者: 清水雪灯
バズらない奴に名前はない。
3/49

第1話『マシロ視点』-1

 隕石(いんせき)が落ちた街。

 その話題で数年前(すうねんまえ)に少しだけ世間(せけん)(さわ)がせた街。

 ただ今となってはもう過去の話題だった。宇宙から降ってきたその鉱物(こうぶつ)が珍しい物だったらしく、現在では鉱物研究のため『グンジョウ研究所』という施設(しせつ)()てられた。

 そして今、十二月。

 なぜかこの研究所はバケモノで(あふ)れ返っていた。

『ごめん、巻き込んで』

仕方(しかた)ないよ、誰もこんなの予想できないって。いつの()にこの研究所はバケモノだらけになったんだ?」

 二人(ふたり)周囲(しゅうい)見回(みまわ)す。

 (はい)ってすぐのエントランス。少し先にロビーの受付(うけつけ)があった。人はいない。代わりに床や壁に飛び散った血の(あと)がへばりついていた。

「今までなにも問題なんて起きなかったのに。これじゃすでに内部もアウトだね……。でもあれゾンビって感じではなかったな……」

『うん、劇物(げきぶつ)って呼ぶらしい。劇物に感染したら、ああやって暴走するみたい』

「劇物っていうウイルス?」

 左目が反応した。

《ウイルスではないよ。生物(せいぶつ)だ》

『ん?』

 どうやら左目がしゃべっても(まわ)りに聞こえないらしい。私と合体した劇物の声は私にしか届いていない。

『えっと、ウイルスじゃなくて生物なんだって』

「生物感染……それで意識を乗っ取られるのか」

 警戒(けいかい)しながら室内を歩く。どこかでうめき声は聞こえるけど、近づいてくる足音はなかった。

「研究所の外には出られないね。なんとか別のルートで脱出しないと」

『武器が欲しーよぅ』

「こういう時ゲームだったら、その辺に銃とかナイフとか落ちているんだけどね」

 現実はそう甘くない。残念ながら銃なんて都合(つごう)よく落ちていない。弾薬(だんやく)や回復アイテムも無し。

《さてマシロ、そこの部屋に(はい)るんだ》

 劇物が言った。こいつはこの研究所の実験生物だから、内部のマップを知っているのかも。

『セイ、こっちこっち』

 ()(ぐち)の近くにあった事務所っぽい部屋を見つけてドアの前に張りつく。開けた瞬間に感染者が襲いかかってくる可能性もある。ゆっくり慎重(しんちょう)にドアをあけ隙間(すきま)からのぞき込む。

「誰もいないか……」

『よっし、ちょっとお邪魔しよ』

 明るいライトのついた部屋。ホラー映画のような薄暗(うすぐら)い場所ではない。

 事務仕事をするためのパソコンやコピー機、ファックス。ファイルの(なら)んだ(たな)にデスク。研究所といっても案外(あんがい)、普通の空間だった。

《マシロ、上のエアコンが見えるかい》

 劇物に言われ部屋の天井を見上(みあ)げる。

 あった。見た感じ普通のエアコンが設置(せっち)されている。

《直接それにさわるんだ》

 机に足をかけてよじ登る。そこから腕を伸ばしてエアコンにさわった。

《ボクら劇物には大量の知識と同時に、物体を変化させるクリエイト能力がある》

『クリエイト? 魔法みたいな?』

《いわば錬金術さ。やろうと思えば()から(ゆう)()み出すこともできる。……が、おそらく宿主(やどぬし)の脳が焼き切れるからできない。情報処理(しょり)が追いつかないんだ。けれどこういったすでに存在する物質を利用すれば、宿主(やどぬし)の脳にあまり負担(ふたん)をかけずに別の物体をつくることができる。意識を集中してマシロ。武器になるような長い物をイメージするんだ》

 言われたままその形をイメージする。

 不思議な感覚だった。まるでCGのフレームを操作しているような感じ。エアコンの部品が映像として認識(にんしき)できた。そのひとつひとつの部品が()れているだけでドロドロに溶けて形状を変えていく。

細長(ほそなが)い物をイメージ……』

 エアコン内部からみるみる部品が消えて私の手に細長い(ぼう)が現れた。

《分かるかい? エアコン内部のアルミを利用したんだ。アルミは軽くて丈夫(じょうぶ)。振り回すにはちょうどいい》

『これが劇物のちから……』

 まるで魔法だった。

 エアコンから錬金術で二本のアルミ棒を作り出した。その一本いっぽんをセイに渡す。

「キミは何者なんだ……」

『いやー、私もよく分かんない。なりゆきでさっき拾った能力だから』



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ