第2話『マシロ視点』-5
『いやいやいや……生存本能、強すぎっしょコイツ!』
うっかり変異体に殴られただけでこっちはアウトだ。とにかく自分の身を守らないと死ぬ。
攻撃がダメならまず防御か。
じゃあ、どうやってあの攻撃を防ぐ?
私たちには盾も鎧もない。
『ちょい、劇物? 感染者が変異体になって強化できるなら、私にだって強化クリエイトできるでしょ?』
まず相手の攻撃を防ぐ盾が必要だ。
『ちょっと劇物!』
《さきほど喋るなと言われたからね。おや、もっと喋っても良いのかな?》
『許可!』
《それは良かった。意思の疎通って大事だよね》
この状況で硬いシールドを探す時間はない。
だとしたら自分のカラダ、細胞を利用するのが一番早い。
『で、生物の体内で硬い物質ってなに?』
《色々あるけど》
『はよ答えろ!』
《当然、炭素だね》
警備室を逃げ回りながら叫ぶ。
『じゃあ、炭素ってどこにあんの!』
《体組織において筋肉、脂肪、骨、すべてに炭素は含まれている》
自分の肉体をイメージ。
そしてカラダから炭素を見つけだし手に集中。ありったけの炭素を全身から集める。
《その炭素と鉄を結合させ、さらに熱を加えることによって急激に鉄は強く硬くなる》
利用できるものが目前にあった。
とっさに拳銃が置かれたガラスケースからハンドガンをひとつ持ち出す。
トリガーに指が届かないから弾は撃てない。
でも素材としてなら利用できる。
『どーやって熱を加えるの?』
《体温を上げるんだ》
『だから、どーやって』
《キミの白血球を利用しろ。白血球からサイトカインという物質が分泌され免疫が活性化される。 そのサイトカインがプロスタグランジンという物質を産生して中枢神経を刺激、体温を急激に上昇させる》
自分の神経を刺激して体温を一部分だけ加熱する。
『オッケー、さあ発熱しなさい、サイトカイーン!』
バケモノが先に動いた。
ヤツは手の装甲を変形させ鋭い槍のように形状を変えた。私たちを刺し殺すつもりらしい。
変異体が跳ぶ。槍を構えて私に突っ込んでくる。
私の小さな拳。握り締めた拳銃の鉄と私の炭素が融合して、自分の血液が沸騰しそうなくらいの高温で加熱される。
ハンドガンが形を変えた。
劇物の能力でクリエイトされた盾が生まれる。
『天然ものシールド出来あがりいいいーっ!』
感染者の槍が私の盾に突き刺さった。
大丈夫。貫通されない。それどころか盾に槍の先端が刺さって敵が一瞬、動けなくなった。
「今、開ける!」
すかさずセイが警備室のパソコンを操作して留置場のロックを解除。
柵が開いた途端アカネが猛ダッシュ。
銃が置かれたガラスケースから銃身のやたら長い物を引っ張り出した。
ライフルだ。
てっきりハンドガンを選ぶと思ったら、長くてバカでかいライフルを手にしたアカネ。
『こんな狭い室内でライフルって』
「これがあたしのスタイルなの」
変異体が私の手の平から槍を引き抜き跳んだ。
『逃げられた!』
違った。ターゲットを変更したんだ。
警備室に出てきたアカネに向けて突進するバケモノ。
果たしてライフルの貫通力でいけるのか。
撃てるチャンスはあった。が、アカネは撃たない。
『ちょ、なにやってんの!』
「よぉく耐えた、チビっ子!」
でかいライフルを構えてアカネが叫んだ。
「あとはお姉さんに任せなさーい!」
敵が突っ込んでくる。その口を大きく開き感染させようと牙を向いた。
『なんで撃たないの!』
「分かってないねえ、アンタたち」
変異体がアカネに迫る。
その凶器、牙。バケモノの口の中へライフルの銃口を突っ込んだ。
「ライフルってのは、ゼロ距離スナイプが一番たのしいに決まってんだろうがあああー!」
ヘンタイです。変態がいました。
「知ってるかい今日の運勢?」
まず一発。変異体の頭が衝撃でのけぞる。
「占いランキングトップは獅子座のビー型。今日のあたしは最高に決まってんだろーがあああーっ!」
さらに一発。
感染者の頭から大量の出血。頭部を失い、そのままバケモノが倒れた。
《ヤベェ人間だね》
劇物が言うな。
『ええっと、アカネさんは……』
「いいよ、アカネで。アンタみたいな小さな子が気ぃ使うなっての」
倒れた変異体の顔面を踏み潰しながら、バカでかいライフルを肩に担いでアカネが言った。
「た、助かりました」
「ん、お疲れーい。出してもらってコッチも助かったわ」
つまり、こーゆー人らしい。
無実でもヤバイ人だった。
とりあえず自分の手にへばりついている盾をクリエイト能力で形状を変化させる。自分の細胞だから吸収できるかと思ってイメージしてみたら、あっさり手の平にズブズブと吸収されていった。
『あの、さっき言ってた話……アカネが連続殺人犯じゃないって』
「あー、商品部のキミドリさんね。タイミングは妹の時とほぼ同じ。キミドリさんが死体で発見されたわ。頭が半分くらい吹っ飛んでた。でもあっちの犯行は監視カメラに映ってなかった。死体を調べてもなーんも証拠がでなかったとか」
『じゃあ今もヤバイ殺人犯が研究所をウロついているって話……クレナイさんがさっき言ってて』
「ああ、それ本人よ」
『え、なに? なに? なに?』
「どういうことですか」
セイも理解が追いついていないらしい。




