第2話『マシロ視点』-3
さっそく核心に切り込む。
『で、本当に妹さんを撃ったの?』
私の目を見て、一瞬の間。警備部のアカネがため息まじりに喋りだす。
「その質問、意味あんのかなー。この殺人犯が言いワケ並べて、アンタたち信じるの?」
『ムリっすね』
私の正直な感想。
「ちなみに商品部のキミドリって人の事件はどうなんですか?」
「違う、ちがーう。アレまったくの別件だし。たぶん偶然が重なっただけよ」
特に気負うことなくサラっと流すアカネ。
人が死んでいるのに会話が軽いな、この人。
「だから殺人犯は、ここで大人しく捕まってんの。オトナの事情、子供に分かる?」
『でもこのままじゃ化け物に喰われて終わりでしょ? お姉さんそれでいいの?』
「じゃあアンタたち、あたしを出してみる? 状況、分かってんでしょ」
アカネが制服の胸ポケットに指を突っ込んだ。そしてポケットから小さな何かを取り出す。
「ここで駆け引きしても意味ないわね。これがこっちの切り札。見えるでしょ、コレどーよ?」
こちらに向けてそれを掲げる。
『ちょ、それ、カードキー!』
「あたしの妹……コムギは研究員だったからね。コムギが持っていたカード。これで地下三階まで行ける。アンタ銃もってんでしょ、それであたしを撃ち殺して奪うこともできる」
アカネの目には恐怖心がなかった。すでになにかを覚悟した目だ。
「さあ選びな。あたしを殺して奪うか、この殺人犯を助け出して一緒に行くか」
とんでもない二択だ。まだこの人を信用する理由がない。正直、助ける理由もない。
「あまり時間が無いわね。今、決めなさい。人殺しのヤベー奴を解放する勇気……あるかしら?」
『さすがに無茶ぶりっしょ、それ』
「でしょでしょ? ……で、さあどうする?」
メッチャ楽しそうだった。
この状況、選択肢が明確でも迷いはあった。
カードキーは欲しい。絶対に必要だ。
さらに戦力も欲しい。警備部ってことだからこの人は戦える人材だ。そばで戦ってくれたら少しでも生存確率が上がる。
「ちなみに、もしここから出た場合もちろんあたしも銃を持つ。妹みたいにアンタたちを撃ち殺す可能性もある。さあどうする?」
留置場から出た途端、襲われたら意味がない。さすがに殺人犯を出すわけにはいかない。
でも本当か? ホントにこの人が殺人犯なのか?
考えろ考えろ、私。
同時にセイも同じ思考にたどりついたらしい。
「……この人、実際に妹さんを殺したのかな?」
『んー、私もそこ疑問だった。監視カメラの映像って加工とかできないの? 映像を加工して誰かにハメられたとか』
「映像なら警備室で見れるわ。そこのパソコン操作してみなさい。ロックとかないから見れるはずよ」
すぐそこの警備室に戻りセイがパソコンを操作する。監視映像の項目を調べて半日前の動画を発見した。
「時間、覚えてますか?」
「お昼ぐらいかしら」
動画はすぐに見つかった。
監視カメラは天井近くに設置されているのでアカネと妹のコムギ、二人を見下ろす視点で映っている。
映像に音声はない。監視カメラにマイクは付いていないため動画は無音だった。
研究所、どこかの通路。
映像のアカネはなぜか床に片膝をついていた。顔を伏せたまま動かない。この角度では表情も分からない。
そして研究員のコムギは白衣を着ていた。
すでにおぼつかない足取りでヨタヨタしながら姉に近づく。
アカネが顔を上げた。なにか異変に気がつき持っていた銃で妹さんの頭を撃つ。
飛び散る血液。
倒れるコムギ。それっきり妹は動かない。
セイが首をかしげる。
「アカネさんが撃ってるね……」
『うん、一発だった。けど様子がおかしくない?』
「確かにちょっと行動が不自然な気がするね。……アカネさん、覚えてますか? この時の状況」
「あー、それがさー、あたしも記憶が曖昧でさあ。いまいち正確に覚えてないんだよねえ」
『覚えてない? 自分で撃ったのに?』
「とにかくなんかヤバイと思って慌てて撃った気がする」
「何かがヤバイ……ですか?」
セイが映像を巻き戻し、発砲の瞬間を拡大した。
『ん? ちょ、これ!』
拡大して分かった。妹、コムギの赤い目。
『感染してんじゃん、この子! クレナイのヤツなに言ってんのよ。さっき殺人事件のあとに感染拡大したとか言ってなかった?』
「そうだね。半日前にコムギとキミドリって人が殺されて、そのあと急激に感染が広がったとか」
違う。逆だ。
妹さんを撃ったあとに感染騒ぎが起きたんじゃない。
感染者のスタート地点がここだったんだ。




