第2話『マシロ視点』-1
《なんとも大変だね、人類。ボクのオススメは分裂だね。今すぐ分裂するかい? スッキリするよ》
『ストレスないのか、お前』
《さらに分裂でサッパリさわやか、カロリーオフ》
『ダイエットにききそう』
《いや、最後はグッタリするけどね》
『ダメじゃねーか』
セイがこっち見た。
「余裕だね、キミたち」
小走りで呆れ顔だった。
色々と状況は大変だ。べつに余裕はない。
先頭を走るクレナイさんの背中を追う。
『別のルートなんてあるの?』
「すぐ近くに警備部の事務所がある。そこで弾薬を補充する」
クレナイさんが途中で隔壁を作動させた。これでとりあえず時間稼ぎになる。
ふとセイが足を止め、その隔壁に触れた。が、特になにも起こらない。
「ダメか……。マシロみたいなクリエイト、微感染じゃ発動しないらしいね」
セイがつぶやく。
「まだ少し誤差があるな、この身体……」
さっきのケシズミおじさんを見失って数分。頭上の崩落が少し収まってきた。
同時にどこか遠くで誰かの悲鳴が上がる。
《もういっそ全滅したほうが早いかもね》
聞き流す。コイツの相手ばっかりしていられない。
セイが小走りになってクレナイさんと肩を並べた。
「このまま地下へ行けませんか?」
「オレのカードキーでは地下二階までしか行けない。セキュリティが起動していなければ普通に移動できるんだが……。キーがない以上、地下へ潜るためには隔壁そのものを破壊するしかない。だがもう爆薬もない」
あんだけドッカンドッカン建物を爆破しまくれば、そりゃあ爆薬だって不足するでしょ。
《あの爆薬があっても破壊できるかなあ。地上の建物と研究所の地下では強度がまったく違うからね。おそらくあの隔壁は破壊できないよ。銃弾でも爆薬でもね》
まだ喋り続ける劇物。
《結果、隔壁のせいで職員全員に移動制限が発生しているわけだ。普通の人間ではね》
まー、確かにコイツの言う通りだった。どこへ行くにしても隔壁が邪魔をする。どこかでカードキーを手に入れなければいけない。
「この辺りは壁も天井も無事か」
地下一階、警備室。
クレナイさんのカードキーで問題なく部屋に入る。
まず目についたのは大量のモニターだった。施設内のあちこちに設置されている監視カメラの映像がリアルタイムで表示されている。
そして部屋の壁にへばりつくように並んだ透明ガラスのロッカーに多数の拳銃と弾薬が見えた。
「意外と普通に並んでますね……」
ガラスケースにはロックが掛かっており普通に開けることはできない。
が、この警備部の男は無造作にケースを叩き割った。爆音の防犯ブザーが鳴り響く。気にしない。この人はまったく気にしない。
「キミたちも武器を持って地下二階にきてくれ。生き残るために少しでも戦力が必要だ」
『根本的な問題なんだけど、あの化け物が暴れだしたのっていつ頃なの?』
警備部、眉間にシワが寄る。
「感染が拡大したのは、つい半日ほど前だった。状況を確認するヒマもなくこのザマだ。劇物を甘くみていた」
どうやら悔しいらしい。
《人間らしさだね。ただの爆薬ジャンキーではなかったようだ》
『いやー爆弾は好きでしょ、きっと』
《偏見かい?》
『さっき見たし。体験したし。吹っ飛ばされたし』
《生きていることに感謝だね。人生って素晴らしい。歌おうか?》
『しゃべんな』
劇物は沈黙した。




