表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バズらない奴に名前はない。  作者: 清水雪灯
バズらない奴に名前はない。
15/49

第1話『マシロ視点』-13

 このクリエイト能力、もっと活用(かつよう)すれば色々と応用できるはず。

『あとは、どうやってここから下りようか……』

 警備部(けいびぶ)のクレナイって人がさっき破壊した壁。今は色々とぶっ壊れて大きな穴があいている。

 周囲には割れた窓、デスク、壁、床の破片(はへん)、カーテン、小さなロッカー、プリンター。

『これ使えるよね?』

 私は足元に落ちていた物を(ひろ)いあげた。

 ほどよい長さ。人間の体重を一時的(いちじてき)(ささ)えるにはちょうど良いかも。

《ちなみに微感染(びかんせん)とはいえ、彼も劇物に感染した以上、普通の人間より身体(しんたい)能力は上がっている。多少の無茶はできるはずだ》

 無責任(むせきにん)に劇物が言った。こいつにとっては私が『生き残る』ことが目的だから、セイの存在はきっと()てゴマくらいにしか思ってないだろう。

 もし途中でセイに死なれたら到底(とうてい)、脱出はムリだ。私だけでこの状況を乗り切れるとは思えない。

 素直(すなお)にこいつの言うこと聞くのも危険だ。注意していこう。

『何枚かあればいいよね』

 カーテンをいくつか(ひろ)って彼に渡す。

「うん、この長さなら大丈夫だ。下まで行ける」

 ここから地面に下りるまでの数秒ほど()ちこたえればいい。なんとかなるだろう。

 セイが(たば)になったカーテンをまとめてロープ(じょう)にする。生き残っているデスクやロッカーに(むす)びつけて固定。これなら私たちの体重に()えられるはず。

 問題は地上に()りたあとだ。

 状況は最初のスタート地点からなにも変わらない。

 この建物(たてもの)から出ても(した)には大量のバケモノが徘徊(はいかい)している。

 研究所を(かこ)う十メートルくらいの高い壁。劇物のおかげで身体(しんたい)能力が()がったと言ってもあの壁は飛び越えられない。

 結局、研究所の外には出られない。

 やはりこの研究所の地下へ侵入するしかない。さっき研究員のワサビって人が言っていた。

 地下へ行くためのルートがある、と。

《もうメンドくさいから感染者をみな殺しにして隔壁(かくへき)も破壊して脱出しようか》

『できねーよ』

 武器もチャンスも方法もない。

 それでも行くしかない。

()りよう、マシロ」

 (むす)んだカーテンを地上に()らし(さき)にセイが下りていく。

 そのすぐあとを私も下りていく。

 タイミングは、ほぼ同時だった。

 研究所の五階が爆発した。たぶん警備部のクレナイだ。

 あの人、やり(かた)容赦(ようしゃ)なし。

 ()(そそ)ぐ爆風と振動を全身で感じながら地上を目指(めざ)す。

 と、カーテンが(むす)んである四階のフロアも爆発した。

『マジかマジかマジか』

 続いて三階の窓も吹き飛んだ。さらに二階(にかい)の窓や壁も爆破(ばくは)される。

『うわあ、もうなにやってんだ、あの人おおおーっ!』

 爆破。とにかく爆破。

 私たちが巻き込まれる可能性をまったく考えていない。

 ほぼ垂直(すいちょく)に地面まで落ちる。

 もう()()いて()りて行ける状況ではない。

 地面まで一気(いっき)に転がり落ちる。

「いってえ……」

 私は無事(ぶじ)に着地したけど、セイがどこか()ったらしい。

『動ける?』

「ああ生きてる」

 音に反応(はんのう)して感染者がジワジワ集まってきた。

 ここは建物の側面(そくめん)にあたる。(まわ)りにあるのは研究所の駐車場。いくつもの車。見るかぎりすべて無人(むじん)で車内に人はいない。

『ねえ劇物、私の能力で車のキーって作れる?』

《あれって意外と構造(こうぞう)複雑(ふくざつ)なんだよね。かなり時間をかければ製造は可能だ》

『んな時間ねーよ』

《じゃあ別の逃げ道を(さが)そうか》

 結果、車のキーがないため自動車で逃亡(とうぼう)って選択肢が消えた。

 そこで私と目が合った。

 車の下。

 すぐそこの車体(しゃたい)の下、なぜか人がいる。

 子供だ。

 小さな子供が車の下に()(ひそ)めている。

『ちょ、セイ、あれ!』

 指差(ゆびさ)す方向に気がつきセイが下を(のぞ)く。

「女の子か?」

(ほお)っておけない。(ひろ)っていくしかない!』

 今にも泣きそうな顔で少女がこちらを見ている。二人で車体に近づき下から子供を()()りだす。

『ケガは?』

 恐怖のためか言葉がなかった。

 もう一度(いちど)()く。

『ここに迷い込んだの?』

 一瞬(いっしゅん)、私の顔を見て(おどろ)いた様子だったけど、なんとか言葉を返してくれた。

「うーんと……ここでお母さんが(はたら)いてるの。今日お母さんの誕生日で、ビックリさせようと思ってプレゼント渡そうって……」

《最悪のサプライズだね》

『タイミングが悪かっただけでしょ』

 劇物(げきぶつ)(だま)らせる。

 とはいえ、確かに状況は最悪だった。

『私はマシロ。あなた名前は?』

「……モモ」

『よっし、モモちゃん。走れる?』

「うん、大丈夫」

 ケガはしていないようだ。まだなんとかなる。

「マシロ、バケモノが集まってきた」

 セイが拳銃を(かま)える。

 ムリだ。敵、多すぎ。圧倒的(あっとうてき)(たま)()りない。

 ここから逃げようにも()()がない。このままじゃ(かこ)まれる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ