第1話『マシロ視点』-13
このクリエイト能力、もっと活用すれば色々と応用できるはず。
『あとは、どうやってここから下りようか……』
警備部のクレナイって人がさっき破壊した壁。今は色々とぶっ壊れて大きな穴があいている。
周囲には割れた窓、デスク、壁、床の破片、カーテン、小さなロッカー、プリンター。
『これ使えるよね?』
私は足元に落ちていた物を拾いあげた。
ほどよい長さ。人間の体重を一時的に支えるにはちょうど良いかも。
《ちなみに微感染とはいえ、彼も劇物に感染した以上、普通の人間より身体能力は上がっている。多少の無茶はできるはずだ》
無責任に劇物が言った。こいつにとっては私が『生き残る』ことが目的だから、セイの存在はきっと捨てゴマくらいにしか思ってないだろう。
もし途中でセイに死なれたら到底、脱出はムリだ。私だけでこの状況を乗り切れるとは思えない。
素直にこいつの言うこと聞くのも危険だ。注意していこう。
『何枚かあればいいよね』
カーテンをいくつか拾って彼に渡す。
「うん、この長さなら大丈夫だ。下まで行ける」
ここから地面に下りるまでの数秒ほど持ちこたえればいい。なんとかなるだろう。
セイが束になったカーテンをまとめてロープ状にする。生き残っているデスクやロッカーに結びつけて固定。これなら私たちの体重に耐えられるはず。
問題は地上に下りたあとだ。
状況は最初のスタート地点からなにも変わらない。
この建物から出ても下には大量のバケモノが徘徊している。
研究所を囲う十メートルくらいの高い壁。劇物のおかげで身体能力が上がったと言ってもあの壁は飛び越えられない。
結局、研究所の外には出られない。
やはりこの研究所の地下へ侵入するしかない。さっき研究員のワサビって人が言っていた。
地下へ行くためのルートがある、と。
《もうメンドくさいから感染者をみな殺しにして隔壁も破壊して脱出しようか》
『できねーよ』
武器もチャンスも方法もない。
それでも行くしかない。
「下りよう、マシロ」
結んだカーテンを地上に垂らし先にセイが下りていく。
そのすぐあとを私も下りていく。
タイミングは、ほぼ同時だった。
研究所の五階が爆発した。たぶん警備部のクレナイだ。
あの人、やり方に容赦なし。
降り注ぐ爆風と振動を全身で感じながら地上を目指す。
と、カーテンが結んである四階のフロアも爆発した。
『マジかマジかマジか』
続いて三階の窓も吹き飛んだ。さらに二階の窓や壁も爆破される。
『うわあ、もうなにやってんだ、あの人おおおーっ!』
爆破。とにかく爆破。
私たちが巻き込まれる可能性をまったく考えていない。
ほぼ垂直に地面まで落ちる。
もう落ち着いて下りて行ける状況ではない。
地面まで一気に転がり落ちる。
「いってえ……」
私は無事に着地したけど、セイがどこか打ったらしい。
『動ける?』
「ああ生きてる」
音に反応して感染者がジワジワ集まってきた。
ここは建物の側面にあたる。周りにあるのは研究所の駐車場。いくつもの車。見るかぎりすべて無人で車内に人はいない。
『ねえ劇物、私の能力で車のキーって作れる?』
《あれって意外と構造が複雑なんだよね。かなり時間をかければ製造は可能だ》
『んな時間ねーよ』
《じゃあ別の逃げ道を探そうか》
結果、車のキーがないため自動車で逃亡って選択肢が消えた。
そこで私と目が合った。
車の下。
すぐそこの車体の下、なぜか人がいる。
子供だ。
小さな子供が車の下に身を潜めている。
『ちょ、セイ、あれ!』
指差す方向に気がつきセイが下を覗く。
「女の子か?」
『放っておけない。拾っていくしかない!』
今にも泣きそうな顔で少女がこちらを見ている。二人で車体に近づき下から子供を引っ張りだす。
『ケガは?』
恐怖のためか言葉がなかった。
もう一度、訊く。
『ここに迷い込んだの?』
一瞬、私の顔を見て驚いた様子だったけど、なんとか言葉を返してくれた。
「うーんと……ここでお母さんが働いてるの。今日お母さんの誕生日で、ビックリさせようと思ってプレゼント渡そうって……」
《最悪のサプライズだね》
『タイミングが悪かっただけでしょ』
劇物を黙らせる。
とはいえ、確かに状況は最悪だった。
『私はマシロ。あなた名前は?』
「……モモ」
『よっし、モモちゃん。走れる?』
「うん、大丈夫」
ケガはしていないようだ。まだなんとかなる。
「マシロ、バケモノが集まってきた」
セイが拳銃を構える。
ムリだ。敵、多すぎ。圧倒的に弾が足りない。
ここから逃げようにも逃げ場がない。このままじゃ囲まれる。




