第1話『マシロ視点』-9
このまま外へ逃げても脱出不可。研究所の敷地は高すぎる外壁に囲まれて、どー頑張っても飛び越えることができない。
それでもなんとか脱出方法を見つけなきゃいけない。こんなワケ分からん状況で死ねるかっつーの。
このエレベーターでは地下に行けない。
一階からでは隔壁が邪魔で地下に行けない。
でも侵入ルートは確実にあるらしい。
セイが五階のボタンを押した。エレベーターが上昇をはじめる。
「とにかく上のフロアへ行ってみよう。この様子だと一階も二階も感染者だらけだし」
さっきの研究員、ワサビさんの話では警備部の人たちがどこかで戦っているらしい。そのメンバーと合流できれば助かる確率が大幅に上がる。
振動。
不自然な揺れ方。気のせいかエレベーターの上から音が聞こえた。
さらに振動。
いや、気のせいじゃない。エレベーターの上になにかいる。
と、手が見えた。
天井を貫通して人間の手が、その指先が見えた。
ちからずくで天井をメリメリと剥ぎ取り、血だらけの白衣が落ちてくる。なんかもう当たり前のように落ちてくる。
赤い目の男。こいつも感染している。
「アトラクション多すぎだな!」
セイが迷わず相手の顔面を突き刺した。もう行動に躊躇がない。
無造作にセイがアルミ棒を引っこ抜く。
そのあいだにエレベーターが二階、三階と上昇していく。
もはやどこが安全なのか分からない。
「仕方ないね。とにかく行けるとこまで上に……」
四階を通過。
エレベーターが途中で止まった。まだ五階に到着していない。
天井の穴から水滴のように血がしたたり落ちてくる。
同時に見えたもの。エレベーターを吊っているワイヤーロープが切れかかっている。
『あいつら……天井に落ちてきてる!』
さらに上から次々と感染者が降ってくる。赤い目と視線が合った。
この箱に急激に重量が加わる。たぶん落ちる。
私とセイ、ほぼ同じタイミングで行動を起こした。
エレベーターのドアを全力で左右に引っ張りこじ開ける。少し下に四階のドアが見えた。
爆発。
すぐそこで四階のドアが吹き飛ぶ。おそらく警備部の人がそこで戦っている。
「飛び込んで、マシロ!」
もう行くしかない。
爆風と熱波を感じながら四階フロアへ飛び込んだ。




