表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
口寄少女  作者: 七不思議 解
3/3

放課後


「小間くん、みんなでボーリング行くんだけど一緒にどう?」


 男子3人、女子2人

 香月さんと一緒にいるグループのようだ。

 男子は今日ずっと案内とか、いろいろ教えてくれたから顔を覚えた。



「小間くん今日はお疲れみたいだから、私と一緒に帰りまーす」

「えっ零と?」

「なんとご近所さんだったのさ」

「まあ、初日だもんね〜。また誘うから!」

「予約の時間だから行くね〜、また明日」

「小間、零が変な事し出したら止めろよー」


 そう言ってみんな先に帰って行った。

 掃除をし始めている班の人達に迷惑をかけないよう、俺達も荷物を持って教室を出た。



「とりあえず、屋上行こうか」


 鞄を背負いながら香月さんは歩き出した。

 その隣に侍がふよふよと浮いているのが不思議な光景で俺は思わず凝視してしまった。


『…まあ、こんな姿の霊は見慣れないんだろうとは思うがな…』


 侍はじっくり視られることに少し苦笑していた。

 そんな侍を視て香月さんはクスッと笑う。


 やっぱりしっかり視えているんだな…







 ー屋上だ。

 立入禁止であることが多いから入れるのは珍しい。

 この学校が厳重にフェンスで高く囲われているし、登りきれないよう工夫もされている。


「誰もいなくてよかった」

 

 香月さんはそう呟いて、どんどん歩いて行った。




「さっきの女の子、たぶんここから飛び降りたと思う」


 突然、話を切り出されて驚いた。

 俺が視える人だとわかったにしても、普通に切り出すなんて今まで経験したことなかったから…


「この下、階段があって窓のある位置なんだ。

 私もいつも飛び降りしてるとこ、視えてはいたんだけど…

 視えてることに気づかれなかったみたい。

 小間君と目が合ったことで、取り憑いて連れて行こうとしていたんだと思う」


「連れて…行く……?」


 香月さんは俺を少し寂しげに見つめて頷く。


「明らかに悪意を持っていたし、現に体が上手く動かなかったり、重くなったりしたでしょ?

 あのままだったら意識も持っていかれてたよ」


 確かにあの時はマズイやつだと思っていた。

 でも香月さんは見ただけでそれがわかったのか。


「あの子がここで命を絶った理由は分からない。

 だけど、きっと辛い思いはしてた。

 ここにいても何度も同じ事を繰り返して、何度も苦しい思いをする。

 それだけだったら別の供養をしたんだけど、小間君まで巻き込むんなら草史郎に斬ってもらうしかなかったの」



「…香月さんって、何者?」



 風が強い。

 日が傾きそうな時間だからか、空気が冷たい。


 香月さんは髪を耳にかけてニコッと笑う。




「私は霊媒師だよ」




 俺が呆気に取られている顔に見えたのか、香月さんは俺の顔を見て笑った。


「まあ、こんなこと言われてもナニソレ?って感じだよね〜

 教室でもいじられる程度に幽霊視えますキャラでいってるから!

 …今日小間君の反応を見て久しぶりに同じ境遇の人がいる!と思ってさ

 嬉しくなっちゃって!だから今日声掛けれてよかったよ」


 香月さんは思ったこと、きっとすぐ言っちゃうタイプなんだな。

 嬉しそうに話してくれて、安心した。


「…俺は同じように視える人に会えたの、初めてなんだ。

 それに今日何度も助けてもらった事をお礼言いたくて。


 本当にありがとう。

 俺は君が霊媒師でいてくれたから助かったよ」



 香月さんは少しびっくりしたような顔をしてから、やっぱり笑った。



「へへ!そりゃよかった!

 それじゃ、貸し2ね」


 俺もつられて笑う。

 確かに助けられて終わりは良くないな。




『取引したらどうだ』



 会話に入ってきたのは侍だった。

 胡座を描いてふよふよ浮いている。

 突然なんなんだ…と言うか、こいつがなんなんだ…

 など考えていると香月さんは「確かにー!」と言い出した。



「ま、待って待って。

 まず、このお侍さんって一体…?」


 俺が思わず突っ込む。

 侍は欠伸をし、香月さんはハッとした顔をした。


「そうだね、紹介してないね。

 この人は草史郎(そうしろう)、戦国時代の侍だよ。

 実年齢は見た目より上なんだけど、訳あって子供の姿なの。

 今は私の守護霊で一緒に霊媒もしてくれてるの!」


「俺はお前達じゃ太刀打ち出来ないような奴を斬る、言わば奥の手だ」


 


 自分で奥の手って言っちゃうのか…



「基本は大体除霊出来るんだけど、やっぱ話通じない奴とかもいるからね〜

 

 …殺人鬼とか、オカシイ奴らは」



 固唾を飲んだ。



「被害は極力悪く出してないけど、ヤバい奴には私もうかつに近づかないよ。

 …除霊にも準備はいるから。

 霊媒師って言っても、まだまだ見習いだから今は学校とか近所の除霊を中心にやってるんだ。

 それでね…


 ここから取引!」



 香月さんは笑顔で俺に一歩近づく。

 俺は背筋をピンと張った。








「私の助手、頼めないかな?!」






「じょ…助手?」


 話の流れで何の助手かはすぐにわかる。

 けれども…



「えっと…実際に除霊してる横で俺も何かするとか…?」


 しどろもどろに困惑する俺を見て香月さんは自信満々に言う。


「除霊シーンだったら見ててもらうくらい!

 頼みたいのは小間君の霊感で私に情報を入れてほしいの。

 あとは…2人がかりで必要な事とかあれば都度お願いするって感じかな?」



「あー…それくらいなら、全然やるよ」



「えっ本当!?」


 香月さんはわーいわーいと喜んでいる。

 情報か…寧ろそれくらいしか出来ることなさそうだな。

 俺はこの時全くもって軽い気持ちで返事をしてしまった。



「そしたら私は小間君が憑かれる度に除霊するよ!

 小間君って優しそうだし視える人だって分かっちゃうから幽霊達もすぐ憑いていっちゃうんだよ」


 …確かに、よく言われる第一印象は優しそう。

 それに俺が送ってる視線を霊とかは見逃してないってことなんだな。



「ありがとう、それはすごく助かるよ」



『じゃあ、契約成立だな』



 草史郎がフッと笑って言うと、香月さんは嬉しそうに頷いた。


 こんな力があっても…と思ってたけど、こんな形で役立ててよかったと素直にそう思っていた。





「これからよろしく、小間君!」


「こちらこそ、出来る限りのことはしていくから宜しくね」




 ー身体が重くならない転校初日って久しぶりだ。

 

 悩みを打ち明けられる人が近くにいるのは初めてだ。


 それでも、今日あった霊なんてまだ大した事ないレベルだなんて知るのは


 もう少し後になるけどー





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ