代償をよこせ〈カイル〉
俺と流河の誓いが汚い?
『‥‥‥‥‥カイル、流河の優しさや責任感につけ込んだその汚ったねー誓いはさ、一回リセットしろよ。』
水籠は言った。
醜悪で見苦しいと。反吐が出ると。
俺に言わせればお見事嫉妬さらしてる水籠の方がよっぽど醜悪で見苦しぜ?
「はん?ジェラシー丸出しのおまえの方が恥ずかしいだろ。」
「何で流河が男だって判った今も流河に執着する?理由あんだろ?」
執着?それは違うな。
俺はただ迷ってるだけ。
ルキアと流河の狭間で。
だから、まだ流河をこのまま解放することは出来ない。
「水籠には関係無いって今日は何回も言ってるぜ?」
「流河は俺の親友で俺が今認めてる唯一のバンドメンバーだ。関係ねーわけねーだろ!」
ははーん。こいつはあくまで自分はカッコつけて本心を隠したままで俺を流河から引き離そうとしてるのか。
俺のことは流河の前で侮辱しておいて。
「‥‥‥‥‥‥それだけじゃないだろ?水籠にとっての流河。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「言えないのか?それじゃ話になんないな。せっかく二人だけで話してるのに。‥‥‥‥‥水籠が本心を語れないのなら俺も本心は語れない。だが、おまえが本心を語るのなら俺も本心を語る。神に誓って。」
俺はルキアのために用意していたロザリオのネックレスをポケットから出して、水籠に示した。
「‥‥‥‥‥‥神に誓って?」
「ああ、このロザリオに誓う。」
「‥‥‥‥‥‥」
さあ、心をさらし出せ!水籠。
俺たち3人の感情の交錯は着飾ったままじゃどうにも収まんないだろ?
「好きなんだろ?流河が。」
「‥‥‥‥‥‥今俺が守るべき一番は流河だ。で、おまえが流河に執着する訳を言え。」
「俺は俺が愛すべき人を渇望してる。俺の気持ちを受けとめる誰か。それが流河だったってことさ。それは誰でもいいってわけじゃない。俺が認めたのは水籠と同じく流河だったってこと。」
‥‥‥‥‥‥‥ホント、水籠って気取り屋なんだな。
本心は美しくデコレーション?それとも俺には見せらんない?
まあ、俺が今言ったことも俺の本心とはちょっと違ってるけど。
俺はルキアに接したように男の流河に接することはできない。今のところ。
でも、この先、本来の流河を知ったら?
流河に感じた、一回ズキンと胸に刺さる痛いくらいの鼓動。
時期尚早。今はまだ決断する時じゃない。俺にはもう少し考える時間が必要だ。
「‥‥‥‥‥‥‥で、なんでそれを男ってわかった流河に向ける?煩悩野郎。」
ったく。俺が流河にキスしようとしたこと相当根に持ってる。
うらやましかった?気持ちをそのまま行動に移した俺のことが。
「俺は流河にインスピレーション感じてる。水籠だってそうだろ?」
「俺は流河の嫌がること無理やりにする気ねーよ。それに、流河は今日限りもうルキアにはならない。だからおまえは他で相手見つけろよ。おまえだったらちょとニコッてすればホイホイ来んだろ?どーせ。」
「‥‥‥‥‥誰でもいいわけじゃないって言ったよな?俺。」
「だからって嫌がる流河におまえの煩悩注がれてもよ?困んだよ。おまえだって流河が嫌がってんのわかんだろ?解放してやれよ、いい加減。」
確かにな。流河は俺のキス避けてた。
流河は俺が好きってわけじゃない。
わかってる。このままこの誓いで流河を俺に罪悪感ごと縛り付けておいたって、今の状態のままじゃだめだって。
「‥‥‥‥‥‥流河だってその内俺のこと好きになるはずだ。」
「じゃ、流河は今、おまえのこと好きじゃねーってことわかってんじゃん。だったらそんな邪道な誓いは棄てろよ。そんな一方的な人の弱みと引き換えの誓いなんて虚し過ぎだろ。」
流河はこの誓いは俺の気の済むようにするって言った。
流河はいいやつだから今度は俺に罪悪感感じてるから。
だから俺はこのまま流河を俺に縛っておくことも出来る。でもな、引け目から俺の言いなりなんて、そんなんじゃ俺が望んでた喜びは得られないだろ?
だからと言ってこのままこの誓いの破棄を認めてしまえば、俺と流河のつながりはもう完全消えて無くなって二度と会うことさえないだろう。
そうなったら俺の心はルキアと流河の狭間を漂い続けたままで‥‥‥‥‥‥
そんな俺に思い浮かんだ打開の一策は。
「愛の誓いってのは愛し合ってる同士でするもんだろーが。」
「もしこの先流河がおまえを好きになったのならそん時こそ神にだろうが仏にだろうが夜空のお星様にだろうが二人で誓えばいい。それが純粋な美しい言霊じゃねーか!」
水籠は俺の弱みにつけこんで言葉の刃をここぞとばかりに投げつけてる。
「‥‥‥‥‥ふーん。俺がこの流河と交わした誓いを白紙に戻したら水籠はどうする?速攻流河はいただきってか?学校でもここでもほとんど一緒に過ごしてんだろ?」
「だから‥‥‥‥‥‥流河はノーマルだぜ?俺は流河に無理やり何かしようだなんてこれっぽちも思ってねーよ。」
それは朗報。
水籠の気取り屋気質とプライドが俺に有利に働くってことで。
「‥‥‥‥‥‥そんなに俺にこの誓いを壊して欲しいんだ?」
「それが自然だろ?お前ら愛し合ってるわけじゃねーじゃん。」
「‥‥‥‥‥だったら条件がある。それを水籠が飲んだらこの誓いを白紙に戻すことに俺も同意する。」
そう、そのための代償を俺によこせ。
「‥‥‥‥‥‥言え。」
「俺をおまえのバンドに入れること。それが条件だ。」
「‥‥‥‥‥‥え?」
「俺に誓いを破棄させたいんだろ?別にいいんだぜ?どっちでも。おまえがノーだと言えば俺はこのまま流河と付き合うだけだから。」
さあ、おまえの大事な流河がこのまま俺に縛られ続けるのと俺に代償を支払うのと、どっちを選ぶ?水籠。
答えは聞かなくてもわかるけどな。
だって、お前は流河に対してどんなスタンスとってるにしろ、結局は流河を想ってんだから。
「‥‥‥‥‥‥‥くっそ!おまえ楽器何か出来んのか?」
「今から始める。」
「‥‥‥‥‥‥俺がリーダーで俺の言うことは絶対だ。いいか?マジで練習しねーならすぐクビにするぜ?後、マジでセンス無かった場合もな。」
「OK。じゃ、よろ。水籠。これで俺たち契約成立。」
やった!俺のプラン現実化。
これで、俺は俺の迷いにじっくり向き合える。
流河とのつながりは途切れない。
俺がその気になった場合、流河とやり直せる。
難点は水籠がリーダーってとこだけど、これはどうしようもないし。
「いいか?流河は相手を自分で選ぶ。二度と弱みにつけこむな。力ずくはもちろん禁止だ。まずは俺たちの信頼を勝ち取ってみせろ。それまで仮加入だ。それからだぜ?わかってんな?」
あー、早速主導権振りかざしてきたぜ。
「‥‥‥‥‥ったく、いきなり厳しいぜ?水籠。」
「カイル手のひら見せろ。」
水籠が不機嫌な顔を俺に向ける。
なんだよ?
俺の手相でも見んのか?恋愛運とか。
俺は両手のひらを水籠の目の前にかざした。
俺の手を、これまたしかめた顔で3秒ほどじっと見たあと、いきなりハイタッチしてきた水籠。
「手、でけーし、指も長い。お前ベースな。あとさ、おまえ爪長げーぞ。即刻切っとけよ。」
そう俺に言ったその顔は無表情。これ‥‥‥‥‥
俺を一応仲間って認めたってこと?
‥‥‥‥‥‥何だ?
この浮遊感。浮き立つ心。
俺‥‥‥‥‥もしかして水籠に認められて喜んじゃってんの?
マ?




